じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



9月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
§§
 9月21日の朝食と夕食。

 今回宿泊したホテルは朝食付きプラン(ビュッフェ形式)であった。8月23日や、9月20日の楽天版に書いたように、私の場合、ビュッフェ形式(バイキング形式)の朝食の中味は、どこへ行っても同じであり、パンと乳製品と野菜・果物が主体である。

 いっぽう、
9月20日の楽天版にも書いたように、このホテルの周辺には食べ物屋が見あたらない。ホテル内では数千円以上、またこの日に行われた懇親会の参加費用は6500円もかかり、私の金銭感覚ではそんな金がどこにあるかっという高額であったので、阪大構内の生協食堂で夕定食(500円、写真下)をとってからホテルに向かった。なお、大会会場に来てから初めて気づいたのだが、今回の懇親会会場は、なっなんと、私の宿泊先のホテルだった。 幸い、すでに懇親会が始まっていたため、見つからずに部屋に戻ることができた。


9月21日(火)

【思ったこと】
_a0921(火)日本心理学会第74回大会(2)心理学への訴状 その2 −誰がために研ぎ究める−

 日本心理学会第74回大会についての連載の2回目。今回は、第一日の9時半から行われた、

WS002 心理学への訴状 その2−誰がために研ぎ究める− 20日 9:30-11:30
というワークショップについての備忘録と感想を記す。この時間帯には、老年的超越の話題、「あきらめの心理学」、「関係フレーム理論」など他にも是非とも出たいワークショップがあったのだが、昨年からの発展を知りたいという興味もあってこちらに参加した。

 昨年のワークショップでは、大学生を対象とした実験や調査の結果だけから尺度が作られ、過剰な一般化が行われることの問題点などが指摘されていた。もっとも、まことに残念なことに、そのような問題点を改めようという動きは殆ど見られない。例えば今回の大会の招待講演の1つで、中国人とアメリカ人と(一部)日本人を比較した研究が紹介された。講演全体としては大いに意義深いものであったが、データそのものは、北京大学学生(中国人)とカリフォルニア大学バークレイ校学生(米国人)と東大生(日本人)の比較であった。彼らの自己観や矛盾許容が中国人や米国人を代表するものであるのかどうかはかなり疑問に思うことがあった。なおこの招待講演については後述する。

 さて、今回のワークショップでは、まず日本社会心理学会のコラム(昭和60〜平成3春)の中に表出していたという、研究者たちが抱えているジレンマについて言及された。彼らは、自前の問題意識に基づいて研究をめざそうとするが、その一方で、外国の研究を下敷きにした「ぬり絵」的な研究への誘惑がある。後者は、外国の焼き直し論文で実績を積むことにつながるため、就職や研究費獲得には有利となる。しかしその結果、日本社会の抱える問題へのアプローチからは遠ざかり、また、オリジナリティの欠如につながる、というような話題提供であった。(←あくまで長谷川のメモに基づく。)

 このほか、
  1. 日本心理学会の大会では膨大な数の発表が行われているが、それを統合するような動きは見あたらない。(←みんな、各自の領域についてバラバラに発表しているだけ、というご主旨であると理解した。)
  2. 日本に昔からある概念(「気配り」など)を使わず、英語概念をむりやり訳す、あるいはカタカナとして使っているのではないか。
  3. モデルを検証するのではなく、とにかくデータを集めて、統計ソフトにかけて、あとから、それに適合するモデルを作ろうとしている。
  4. 教員と院生の人間関係の希薄化。師匠と弟子という関係が築けない。
  5. 若手研究者の場合、将来を見越した研究ではなく、就職のための業績づくりの研究になっているのではないか。
  6. 人間行動の普遍的なモデルを作ろうという方向に進んでいない。
  7. 社会人学生に比べると、一般学生では問題意識が無い。
といった指摘がなされた。なお上記はあくまで長谷川のメモと記憶に基づくものであり、長谷川のほうで勝手に解釈して改変してしまっている可能性があることをお断りしておく。

 今回のワークショップ全体についての感想としては、まず、朝一番ということもあって、参加者が非常に少なかったことが残念であった。(発表者を含めて、開始時は10人、途中で12人)。この規模で「訴状」を提出しても、何千人もの参加者の前では無力であるという気がしないでもない。

 第二に、今回の話題提供・指定討論は、発表者の個人体験に基づいて印象を語るという内容が多かった。もちろん、各発表者とも長年にわたり膨大な研究を積み重ねてこられた方たちばかりなので、ご発言の重みとリアリティは実感できたが、もう少し、具体的な例や、証拠となる数字が挙げられるとよかったとは思う。昨年のワークショップでは、大学生を実験・調査の参加者としていた研究の数などが具体的に報告されていたと記憶しているが、今回はそのような数値は1つも示されなかった。

 第三は、第二のこととも関連するが、発表者が主として社会心理学関連領域のご研究をされていたため、訴状の対象は心理学全般ではなくて、社会心理学に向けられたものとなっていた。もちろん、心理学研究全般に一般化できる問題点も含まれていたが、同じ時間帯に発表されていたワークショップの中にも、現実問題に深く関わるテーマを取り上げたものもあったし、必ずしもリアリティを欠いているとは言えない取り組みも含まれていた。

 フロアからの発言の機会があったので私からもいくつか要望を出させていただいた。
  1. とりあえずは「心理学への訴状」ではなく「社会心理学への訴状」が妥当ではないか。心理学の中には、心理学の方法を用いて発展した領域もあるし、心理学以外の方法(例えば脳科学)によって発展させられた分野もある、それぞれの分野において、きめ細かく、問題点を検証していく必要がある。
  2. 社会心理学のリアリティの問題については、1つには、構成概念を多用し、モデルの改訂版づくりに終始していたところに原因があるように思う。果たしてそういう方法で現実に向かうことができるのか、例えば、ガーゲンのような社会構成主義の道に切り替えることはどうか、あるいは、今年の春にNHKのハーバード白熱教室で人気を博したサンデル教授のお話のような政治哲学のほうが有効なのか、もしくは社会心理学ではなく社会学のほうが有用な提言ができるか、などについても考慮していく必要があると思う。要するに、実験心理学や質問調査主体の心理学的方法で解決できる問題と、限界がある問題を区別して検証していくべきではないか。
 このほか、教員と院生の関係の希薄化の問題については、大学院教育のコース化という話題もある。指導関係が完全に希薄化してしまうのは問題だが、師弟関係が強すぎると、弟子は師匠を批判できなく、師匠のコピーを再生産するような形でしか学問が継承されない恐れが出てくるようにも思った。

次回に続く。