じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 卒論提出締め切りまであと24時間の風景。耐震改修工事による一時的な移転のため、今年度の限り、卒論執筆やデータ整理は自然科学研究科棟の引っ越し先で行われることになった。もっとも、今年は心理学領域にとっては何十年かに一度の特異年にあたっており、卒論生の数は例年の半分。引っ越しという不便はあったが、パソコンなどの設備は比較的ゆとりがある。


1月31日(火)

【思ったこと】
_c0131(火)上野千鶴子特別招聘教授着任記念学術講演・シンポジウム(20)シンポジウム(7)討論(2)

 1月29日の続きで、この連載の最終回。

 休憩後の各コメンテーターからのご発言のなかで2番目の後藤氏は、
  • publicを「官」にしたら、「公」はどこへ行った?
  • 互助を作り上げた上で、そこから先はどうするのか。
  • 互助を受け入れない人をどうするのか? 仲間関係で成立している場合と異なり、制度となれば誰でも受け入れなければならない。
  • 「人権」は国家を超えているが、その概念を具体的に活用していくためにはenlightが必要。
  • ケア労働の値段にまつわる「サービス価格と需要」の議論に関しては、需要が顕在化していないためかもしれない。死に向かう人の生活機能をもっと評価していかなければならない。それにより需要が顕在化する。
というようなことを指摘された。(あくまで、長谷川のメモと理解によるため、不確か。)

 また、3番目の小泉氏は、4つのセクターを包括すると「社会」という「なつかしい」概念が登場すること、介護には医療の放棄という面もあることなどを指摘された。(あくまで、長谷川のメモと理解によるため、不確か。)

 討論ではさらに議論が進み、立岩氏は、ケア労働の低賃金に関して、「誰でもできるから」という理屈に対して「誰でもできない」という反論を持ち込むためには、ケア労働がどれだけ価値を与えているのか、育児との関連などを検討する必要があるというようなことを言われた。(あくまで、長谷川のメモと理解によるため、不確か。) また後藤氏からは、技法の専門性ではなく人権を持ってきたことについてさらなる意見が表明された。

 いっぽう上野氏からは、
  1. 再生産問題には国境(外国人労働者)がかかわってくる。
  2. ケアの現実は、限りなく監視に近い。育児も同じ。
  3. 医療の放棄ということに関しては、医療保険から、コストの安い介護の部分を移動したという面がある。
  4. 老いには医療化はなじまない。高齢者は再医療化を望まない。
  5. publicはどこへ行ったのかという後藤氏の指摘に対しては、「官」と「協」が合わせて「公」である。介護保険も生活保護も自己申告が原則となっている。publicの議論については、現にどうあるかということと、どうあるべきかという議論を区別する必要がある。
というような回答があった。なお、このうちの5.については後藤氏から、「協」にはプライベートな関係があること、個人の中においては「官」ではない「公」の考えを持つこと、「正義」との関連などについての発言があったが、私のような専門外の者には論点がよくつかめなかった。

 最後に、フロアからの質問(質問用紙に記入・投函された質問の中からのピックアップ)がいくつか紹介された。そのなかで、「『ケアの社会学』は何の運動に資するのか?」に対して上野氏は、女性学はフェミニズム運動のツールであり、同じように高齢者運動があればそれに資することになるが、要介護者の運動というのは無い。また、要介護者は高齢者の中の2割程度で少数派になっていること、介護保険は家族介護を前提に制度設計されたが「おひとりさま」が増えることにより「おひとりさま」仕様に変える必要がある、フェミニズム運動の改革の担い手は新しい問いに直面した新しい世代であることなどを回答された。(あくまで、長谷川のメモと理解によるため、不確か。)

 シンポの最後の「閉会の辞」のところでは、松原洋子・グローバルCOE「生存学」創成拠点事務局長のほうから、この大学院は、上野氏の言うように現場にツールを与えるためにあるが、現場の学生から逆にツールを問い直させることもあるといった興味深いご発言があった。

 以上、12月23日開催の講演会・シンポのメモ・感想を20回にわたって連載してきた。今回の内容は、門外漢の私にとっては十分に理解できない点が多かったが、社会学、あるいは社会科学の議論とはこういうふうにやるのかという一端をうかがい知ることができ、大いに参考になった。ここで得られたことは、心理学の立場からの高齢者研究にも大いに活かせると思う。またこれを機会に『ケアの社会学』や、立岩真也氏、後藤玲子氏、小泉義之氏の著作や論文、ブログ記事なども拝読していこうと思っている。