じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 昨日の日記で、岐阜大学がすでに2005年度から敷地内全面禁煙を実施していることを取り上げた。
 この大学では教室内やバス停付近に、きめ細かい注意書きポスターが貼られており、学生指導が行き届いているように思われた。もっとも、中には、えっ?そんなことまで注意しないとダメなの?という思ってしまう事項もあった。
  • 授業中の私語は、他の学生の受講を邪魔し、権利を侵害する行為です。
  • その他、居眠り、よそ事など授業の妨げになる行為も慎んでください。
  • 病気の方や年配の方には席を譲ること。
  • 乗車時は、待機の列の順序を守り、割り込み乗車はしないこと。
  • 車内での会話は、小声で行うこと。
 ちなみに、私は岡大で22年ほど授業を担当しているが、岡大では授業中の私語は滅多に生起しない。もっとも、以前は、一言も注意しなくても私語をする学生はいなかったが、ここ数年、1回目、2回目あたりの授業の開始時には、私語が多くて注意をすることもある。


2013年08月1日(木)

【思ったこと】
130801(木)日本行動分析学会第31回大会(6)健康行動への行動経済学からのアプローチ(4)まとめ

 昨日に続いて、7月27日(土)午前に行われた、

27日午前の学会企画シンポ:「健康行動への行動経済学からのアプローチ」

のメモ・感想の連載4回目。

 初めに、このシンポから少々脱線するが、8月1日の各種報道によれば、いわゆる「インターネット依存」になっている中学生と高校生は8.1%に上り、全国で50万人を超えるという推計を、厚生労働省の研究班が公表したという。NHKオンラインによると、インターネット依存症の診断の定義はないが、研究班は
  • ネットの使用時間を減らしたりやめようとしたりしたが、うまくいかなかったことがあるか
  • ネットのために大切な人間関係を台なしにしたり、危うくしたりすることがあったか
など、8つの質問に5つ以上当てはまる場合を依存状態になっていると判定。その結果、「ネット依存」になっている中学生と高校生は8.1%で、全国で合わせて51万8000人に上ると推計された。内訳は、中学生は6%、高校生は9.4%で、男女別では男子生徒は6.4%、女子生徒は9.9%。同じ研究班が行った20歳以上の大人の推計値と比べると、中高生の割合はおよそ4倍に上っているという。

 このシンポで話題で取り上げられていた依存症は、薬物依存(お酒やタバコを含む)や病気賭博に限られていたが、これからの時代、若者のネット依存についても深刻にとらえる必要がありそうだ。

 元の話題に戻るが、指定討論ではまず山口哲生氏から、経済学が行動分析に与えたものとして、
  • 行動を規定する新しい変数:経済環境、所得
  • 強化子(好子)間の関係の重要性:代替、独立、補完
  • 新しい分析方法:価格弾力性、需要の交差弾力性、価値割引
が挙げられた。また、「行動経済学と健康行動」に関して、
  1. 需要分析の利用」
  2. 代替強化子の特定・評価
  3. 行動コストの評価
  4. 社会政策への提言
  5. 中間表現型(エンドフェノタイプ)としての価値割引
  6. 価値割引に関する神経科学的研究(ニューロエコノミクス)
  7. 価値割引と社会行動
という7つの視点が挙げられた。これらはまことにもっともだと思う。但し、7月29日の日記に記したように、
きわめて抽象的で数量化しにくい「健康」、「病気」、「延命」などを、お金や商品の価値との等価点や遅延割引でどこまで測れるのかという疑問が残った。フロアから発言の機会があった時にも述べさせていただいたが、遅延価値割引の理論が現実にマッチした応用性を持つのは、おそらく、健康食品の値段とか、保険の金額と補償内容に関する選択といった領域ではないかと思われる。
というのが私の率直な感想であった。

 もうお一人の指定討論者の方も、認知行動療法(CBT)の手法として
  • 刺激制御を工夫しつつ、代替活動の習慣化をめざす
  • 「言い訳」(悪魔のささやき)の制御向上
  • 接近衝動(渇望)の処理の洗練化
といった手法を紹介されたり、「CBTは人手をかける自然治癒」であると述べられた上で、「正直なところ、行動経済学による心の問題の説明には、説得されませんでした。」という率直な感想を表明しておられた。また、遅延価値割引に関しては、将来のより大きな報酬を選択するかどうかは、金額の大きさではなくて、そのルールへの信頼性の高さによるのではないかとも指摘された。このあたりは私も同感である。例えば、遅延価値割引の実験で、「いま10万円貰うのと、10年後に20万円貰うのとどちらを選びますか?」などと尋ねられれば10年後の20万円のほうを選ぶかもしれないが、現実社会で同じような選択を迫られた場合には、「10年後の20万円」なるものが本当に信頼のおける約束なのか、なおかつ、今後10年間に消費者物価はどうなるのかということを斟酌したうえで判断しなければ損をしてしまう。将来に備えた健康行動においても、あるいは生命保険や年金の加入についても、いちばん重要となってくるのは、そういう約束事がどれだけ信頼できるかにかかっているように思う。

 これらをふまえて、2番目の指定討論者の方は、セラピーに必要なのは「ルール支配行動」ならぬ「ルール信頼行動」であると論じられた。つまり、クライエントに対して「あるルールを信頼・期待しそれを選択したら、それが確かに強化される」という信頼感のようなものをいかに形成していくのかが大切ということである。より行動分析学的に言えば、そのルールを守る行動が強化されやすい条件を整備するだけでなく、ルールそのものを維持しつづけるためのプラスαの方策が必要ということになるかもしれない。

 ちなみに、上述のルールは、必ずしも科学的に信頼できるということでなくてもよく、むしろ、信念の形成というようなものかもしれない。例えば、ある新興宗教において、「毎日1時間、お祈りをすれば天国に行かれます」というルールが示されたとする。その信者の「お祈り行動」は、信者どうしの相互強化や、教祖からの称賛などによって強化される。また、「毎日1時間」というのはそれほどコストのかかる行動でもないので比較的守られやすいだろう。しかし、上掲の議論から言えばそれだけでは不十分。つまり、その信者が、当該の宗教団体から脱会せず、「お祈りすれば天国に行かれます」という信念を持ち続けるためには、そのルールの信頼性を高め・維持していくための何らかの方策が別に必要であるということだ。これはおそらく、教祖が信者たちの前で「奇蹟」を起こすとか、他の信者のポジティブな体験を伝え聞くといったことによって形成されていくものと思われる。

次回に続く。