【連載】チコちゃんに叱られる! 日本人にとっての「とろとろ」と「うまみ」
昨日に続いて、11月14日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
- なんで童話や昔話は怖い話が多いの?
- 日本人はなぜ「とろとろ」が好きなの?
- 劇場や映画館の座席は赤いのはなぜ?
という3つの話題のうち2.について考察する。
さて2.だが、そもそも「日本人はなぜ「とろとろ」が好きなの?」という問いだが、これが検証可能な疑問として成立するためには、
- 「とろとろ」とは何か?
- 日本人は本当に「とろとろ」が好きなのか?
→外国人に比べて「とろとろ」が好きな人が多いという意味?
という2点を確認しておく必要があるように思うが、これらは解説の中で言及されていた。
放送によれば日本人がとろとろが好きなのは「口の中での滞在時間が長いから」が正解であると説明された。元慶應義塾大学特任講師で味覚研究家の鈴木隆一さん&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- 日本人ととろとろの関係は鎌倉時代までさかのぼる。
- 鎌倉時代に書かれた辞書『名語記』には、「淀とは水がよどんで流れにくい様子。『とろとろ』ともいう」(現代語訳監修:飯間浩明)と書かれており、『とろとろ』は川の流れがゆっくりしていることを表している。
- 秩父の観光地『長瀞』の『瀞』は荒川の緩やかな水の流れが由来。
- 人間は離乳食の段階から、やわらかく、ふわふわ、とろとろした食感をよしとしていて本能的に好む。それらは食べやすく消化がいい=安全な食感
- 離乳食を食べる赤ちゃんの頃であれば日本人も外国人も同じ。しかし外国人は、5歳頃から徐々に「とろとろ」を食べなくなる。
- いっぽう日本人は5歳を過ぎても「とろとろ」を食べ続ける。これは古来より続く生食文化が影響している。
- 海に囲まれた日本では、古くから魚を生で食べていたため、ナマのほうが美味しいと刷り込まれた結果、生卵やとろろなど、とろとろとした食感を好むようになった。
- つまり日本人にとって「とろとろ」食感は大昔から欠かせない食材になった。
- 今の日本人も「とろとろ」した食感を本能的に好き。
- 「とろとろ」食感を好むもう1つの大きな理由は「口の中の滞在時間」
- とろとろ系は粘度が高く、口の中での滞在時間が長いため、おいしく感じる。
- さらさらスープに比べてとろとろスープのほうが舌に絡み、うまみを感じやすい。
- 日本人100人と外国人100人を対象に味覚力調査を行ったところ、日本人のほうがうまみを性格に感じることが分かった。
- 調査では、水に微量の甘味、塩味、酸味、苦味、うまみの味を溶かした飲料サンプルを飲んでもらい、それを6回繰り返したところ、どの味についても外国人より日本人のほうが正解率が高かった。
- 特に、うまみについては日本人の正解率が71%だったのに対して外国人は34%で、外国人との差が2倍以上になっていた。
- 人間にはおよそ1万個の味蕾があるが、日本人のほうが味蕾の機能が高い。
- 日本は古来から「だし文化」があり、昆布や鰹節の微妙なうまみを成分をふだんから感じていたためと考えられる。
- つまり日本人は昔から生食文化があり「とろとろ」したものに慣れているのに加えて、外国人よりもうまみを感じやすいため、滞在時間の長い「とろとろ」をよりおいしく感じる。
- 鈴木隆一さんが開発した『AI搭載味覚センサー』で「さらさら味噌汁」と「とろとろ味噌汁」を電気信号数値化したところ、前者は3.79、後者は4.12で、「とろとろ味噌汁」のほうがうまみの数値が高くおいしく感じるという結果になった。
- スタジオではさらに、あばれる君に「さらさらセンブリ茶」と「とろとろセンブリ茶」の苦味を比較してもらったところ、口の中に長く残る「とろとろセンブリ茶」のほうが苦いという、少々やらせっぽい結果になった。なお鈴木隆一さん開発の装置によれば、「さらさらセンブリ茶」と「とろとろセンブリ茶」の苦味の数値は前者が4.2ポイント、後者が4.54ポイントとなっていた。この装置は「さらさら」「とろとろ」を測定したあと、AIで人間が口の中で感じる食感・風味などを考慮した数値を出すことができるようになっている。
ここからは私の感想・考察を述べる。
まず上掲の解説4.の中で、「今の日本人も「とろとろ」した食感を本能的に好き」と解説されていたが、「本能的」という表現には問題がある。離乳食後の幼い時期から生食文化の影響で「うまみは美味しい」ということが刷り込まれた、つまり今の日本人でもそのような刷り込みがある、と説明すべきであろう。
日本人と外国人では味蕾の数は変わらないようだ。日本人のほうが味蕾の機能が高い、というのもおそらく幼少期に後天的に獲得したものと思われる。
鈴木隆一さんによる日本人100人、外国人100人の調査というのは、出典が不明で、論文化されているのかどうかも分からなかった。1つ疑問なのは「うまみ」が各外国人に対して適切に翻訳されているのかということだ。ウィキペディアでは「うまみ」の英語は「Umami」、中国語は「鮮味」、ロシア語は「Умами」となており、英語とロシア語は日本語の「うまみ」の音声をそのまま反映した表記になっている。中国語も日本由来として紹介されている。であるとすると、上掲の調査で、「うまみ」に対する正解率に日本人と外国人で大きな差があったのは、日本人のほうが「うまみ」がうまく弁別できたからではなく、「うまみ」に対応する英語や各外国人の母国語が馴染みの薄い言葉で翻訳されていたために、適切に回答できなかったという可能性のある。
次回に続く。
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