じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



03月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

 一般教育棟構内(津島東キャンパス)の桜の広場。右は昨年4月3日の比較写真。また今年は大規模環境整備工事に伴う芝生養生のため、3月30日時点では立ち入り禁止となっている。


§§


2014年3月30日(日)

【思ったこと】
140330(日)岡大の敷地内全面禁煙、いよいよ来月から(4)敷地内全面禁煙の論理(3)

 昨日の続き。

 敷地内全面禁煙とは、建物内はもとより、指定喫煙場所も設けないという厳しい方針である。その論拠はどういう点にあるのだろうか? すでにこの方針を実施しているいくつかの大学から、その理由をさぐってみることにしたい。
 まず、医療系大学の中で、2003年12月からという早期に敷地内禁煙を実施した兵庫医科大のサイトから関係箇所を以下に引用する【下線は長谷川による】。
.....タバコは「百害あって一利なし」の言葉通り、癌や呼吸・循環器病など多くの病気を引き起こし、悪化させます。毎年世界で500万人、日本で11万人もの方がタバコ関連の病気で死亡しています。喫煙習慣そのものが病気(薬物依存症)で、約1時間で切れるニコチンという薬物に脳が支配された状態です。喫煙は病気からの回復を遅らせ、再発の原因ともなります。また、他人のタバコの煙を吸わされる受動喫煙も、有害・危険です。 本学(病院)は、医師の養成・教育及び病気の予防・治療を高い水準で行う社会的使命があります。その使命の遂行と皆様の健康を守るためには、敷地内全面禁煙の完全実施しかありません。ご協力よろしくお願いします。また、タバコの持参や敷地外周辺での喫煙もご遠慮ください。
この兵庫医科大学の場合には、まず喫煙の有害性を指摘し、医療系の大学という社会的使命に基づいて全面禁煙を実施したというロジックになっている。
 次に、総合大学として早い時期(2006年)から敷地内全面禁煙を実施した岐阜大学の場合は、「キャンパス内全面禁煙について」というサイトで全面禁煙の理由を以下のように述べている【以下、抜粋。下線は長谷川による】。
  • 岐阜大学は,学生の皆さんが喫煙習慣を付けないように,また,健康的で美しいキャンパスを目指し,「キャンパス内全面禁煙」を行っています。キャンパス内での禁煙に協力ください。
  • 岐阜大学は,学生の皆さんが大学生時代に生涯の健康を守るための習慣を身に付けることが大切だと考えています。
     そのひとつとして学生時代に喫煙習慣を付けないようにするため,また健康的で美しいキャンパスを目指して禁煙運動を行い「キャンパス内全面禁煙」としています。
  • 岐阜大学がキャンパスを全面禁煙にしたのは,学生の人たちがタバコを覚えないようにするためです。
  • 全くやめる気がない人は,本人の責任ですので無理は言いません。ただ,大学では吸わないで下さい。勤務時間中にお酒を飲まないのと同じことです。
  • もし,少しでもやめようと思っているのであれば,大学病院の禁煙外来に相談して下さい。専門家がお手伝いします。保険もきくようになりました。

岐阜大学の場合は、喫煙者に喫煙が有害であることや副流煙の被害を訴えているだけでなく、「学生時代に喫煙習慣を付けないようにする」ということを教育上の使命としている。後述するように、大学がその敷地内に喫煙所を設けている限りは、先輩や仲間などから喫煙所での談笑に誘われる可能性が少なくない。大学敷地内に喫煙所が無ければ、圧倒的多数が未成年であって非喫煙者であるはずなの新入生は、少なくとも大学内において喫煙習慣を身につけることはない。そのことが学生の将来の健康を守り、かつ将来の就職・就労上の不利益を被らなくて済むという配慮であるように思われる。
 もう1つ、2015年4月1日からの敷地内全面禁煙を目標としている大阪大学・喫煙対策ワーキンググループ報告書(2013年10月)は、「キャンパス内禁煙は、未成年者に対する健康教育、大学構成員の健康の保持・増進の観点から、以下のとおり、有意義であると考えられる。」として以下の点を挙げている【下線は長谷川による】。
  1. 学生に対する健康教育の実践
    受動・能動を問わず未成年学生の喫煙を防止し、心身ともに健康的な学生を社会へ送り出すことは教育機関としての責務である。
  2. 受動喫煙防止の徹底
    ...【略】...キャンパス内禁煙は、女性や子ども(胎児)を含む非喫煙者が受動喫煙による悪影響を受けない権利を保障する取り組みである。
  3. 喫煙者を減少させるドライビングフォース
     喫煙は、前述の非喫煙者に対する受動喫煙の悪影響だけでなく、喫煙者本人の健康に重大な影響を与えることは明らかである。肺がんや喉頭がんや虚血性心疾患等による死亡率の上昇、咳・痰や息切れ、労作時呼吸困難等の症状、さらには慢性気管支炎の発症、胎児の発育に対する悪影響等が指摘されている。キャンパス内禁煙は、喫煙場所をなくすことにより喫煙者数自体も減少させる効果があると期待できる。

このように、大阪大学の場合は、教育機関としての責務、受動喫煙防止に加えて、喫煙者数減少の効果を期待していることがわかる。
 単に、受動喫煙防止を目的とするだけでは、敷地内全面禁煙の必然性は薄いように思われる。屋外で人通りから離れた場所に何カ所か喫煙所を設置したとしても、非喫煙者に副流煙が届く可能性は少ないからである。いっぽう、教職員・学生の喫煙行為を減らし、かつ新入生に喫煙習慣を新たに身につけさせないという目的から言えば、喫煙行為に不便を強いるという方策はきわめて有効であろう。なぜなら、研究室・講義棟から敷地外まで出向いて喫煙をすることにはそれなりの時間と労力が伴う。また、喫煙所に集う喫煙者間の交流も閉ざされ、喫煙所に通うことで得られる談笑や情報交換といったポジティブな結果が喫煙行為に随伴することや、友人同士で連れ立って喫煙所に向かうという喫煙促進環境が無くなる。学内での勤務時間・勉学時間帯での喫煙を我慢することは一定時間ニコチンの摂取を停止することになるため、結果的にニコチン依存を軽減し、自宅など他の場所での禁煙を支援することにもつながると期待される。但し、このことについては、しっかりと実証データを集めていく必要がある。
 なお、敷地内全面禁煙の合意を形成するための文書と、喫煙者に敷地内禁煙を説得するための呼びかけ文書とは同一にはならない点にも留意する必要がある。学内での合意形成では最大公約数的な論点だけが盛り込まれるいっぽう、敷地内禁煙自体は、「大学の正式な方針として決定済みである」としてトップダウン的に実施することが可能であるからである。最近では、大学法人は1つの事業場であり、労働安全衛生法の規定により衛生管理者を選任したり、安全衛生委員会を設置しなければならないという考え方が定着しつつある。この場合、大学敷地内を全面禁煙にするか、分煙とするかといった決定権限者は学長にあり、各学部・大学院の教授会の審議事項にはあたらないと考えることもできる。

次回に続く。