じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 月齢20.6の月と岡大・石庭。


2014年5月19日(月)

【思ったこと】
140519(月)長谷川版「行動分析学入門」第7回(6)好子出現の随伴性による強化(13)消去(3)

 すでに述べたように、行動が強化されなくなると、その行動は散発的に増加する(消去バーストや自発的回復)ことがあっても、最終的には頻度ゼロの状態に終息していきます。日常用語を使ってわかりやすく言えば、
  • 諦める
  • そう簡単には諦めず、いろいろ試してみる
ということを繰り返しながら、最終的には行動しなくなるというのが消去のプロセスです。

 しかし、消去は、行動を無くしていくだけの働きにとどまるものではありません。
  1. 難題を解決したり
  2. レベルアップしたり
  3. 新しい行動を創り出す
上でも、重要な役割を果たしています。

 このうち1.は、一般には「試行錯誤」と呼ばれています。辞書によれば、「試行錯誤」は
  • 【新明解】〔trial and error(トライアル エンド エラー)の訳語〕〔何かを行なう場合に〕 結果の完全な成功を初めから必ずしも期待せず、失敗を重ねながら効果を収めること。
  • 【大辞泉】種々の方法を繰り返し試みて失敗を重ねながら解決方法を追求すること。
というように定義されていますが、このうち、「失敗を重ねながら」という部分では、失敗行動が消去されることがゼッタイに必要です。成功しても失敗しても同じように強化されてしまったのでは、いつまでたっても解決には至りません。

 じっさい、問題集を解きながら数学の勉強をするという場面を思い浮かべてみてください。問題集というのは、正解を出せば○がつけられ得点が増えるいっぽう、不正解の時は×がつけられ得点が与えられません。これによって、正しい理解は得点という好子によって強化され、間違った理解は消去されていくことになります。正解でも不正解でも区別せずに○をつけてしまったら、勉強はちっとも進まないでしょう。

 2.のレベルアップというのは、例えば、「四則演算の計算問題を90%正解したら合格」というような練習場面において、第一段階では2桁、第二段階では3桁、第三段階では4桁というように数の桁数を増やして難易度を上げたり、制限時間を短くしたりして、レベルアップを図ることです。こうした方法は、自動車運転の教習やスキー教室のように、複合的なスキルの上達を目ざす訓練の中でごく普通に導入されています。いずれの場合も、それぞれの上達段階において、到達(合格)基準を上回った行動を強化し、下回った行動は消去するという形でレベルアップを目ざしていきます。そのさい、もし、基準を下回った行動が消去されなかったとしたら、いつまでたってもスキルはアップしません。

 最後の3.は分化強化、シェイピング(反応形成、shaping)などと呼ばれています。例えば、行動分析学ではしばしば「ネズミがレバーを押す」という実験装置(=スキナー箱Skinner box)が取り上げられます。ウィキペディア
スキナーは、1951年に、米国内外のいくつかの大学にスキナー箱を送るのと同時に、日本の東京大学にはラット用スキナー箱を、慶應義塾大学にはハト用スキナー箱を贈った。 しかし、体重統制や反応形成といったスキナー箱の使用についての基礎知識やオペラント条件付けの知識がまだ浸透していなかったために、動物を入れてもちっとも反応しないが故障しているのではないかという問い合わせがあったという。
と記されているように、飼育しているネズミを単にスキナー箱の中に入れたからといって、直ちにレバーを押し始めるわけではありません。上掲にもあるように、「体重統制や反応形成」という手続を踏まなければ、99%のネズミは、箱の中で居眠りを始めるだけで、何ヶ月たってもレバーを押すようにはならないでしょう。

 この「体重統制や反応形成」という記述の「体重統制」というのは、要するに、例えば自由摂食時の体重の90%になるまでネズミの給餌を制限して、お腹が空いた状態に至らしめることです。これは実験で使用するペレット状の餌が好子として機能するよう、確立操作を行うことにあたります。

 いっぽう「体重統制や反応形成」という記述の「反応形成」という部分が、今回話題に取り上げているシェイピングに相当します。もし、短期間のうちにネズミにレバー押しをさせようと思った時には、通常、以下のような手順でレベルアップをする必要があります。
  1. ネズミがレバーが取り付けられた壁のほうを向いた時にペレット餌を出す
  2. ネズミが壁のほうに移動した時に餌を出す(この段階では、壁のほうを向いただけの行動はもはや強化されない。つまり消去される。)
  3. ネズミが壁に触れた時に餌を出す(この段階では、壁のほうに移動しただけの行動はもはや強化されない。つまり消去される。)
  4. ネズミが壁に取り付けられたレバーに触れた時に餌を出す(この段階では、レバー以外の壁の部分に触れてももはや強化されない。つまり消去される。)
  5. ネズミが一定の力でレバーを押し下げた時に餌を出す(この段階では、レバーに触れただけの行動や、弱い力で途中まで押した時の行動はもはや強化されない。つまり消去される。)
  6. ネズミがレバーを押し下げ、それから前足を離した直後に餌を出す(この段階では、レバーを押しっぱなしにしている状態は強化されない。これによって、短時間で「押して離す」という行動が強化され、押しっぱなしの行動は消去される。)
 いずれの段階においても、基準を満たした行動が強化され、基準を満たさない行動は消去され、それらをセットにして、目的にかなった行動が形成されるようになります。そのさい、単純に消去がなされるだけでなく、冒頭に述べたような「そう簡単には諦めず、いろいろ試してみる」という消去バーストのような変化が生じることがぜひとも必要です。【もちろん、「いろいろ試してみる」というのは、その動物がもともと持ち合わせている行動リパートリーに含まれた範囲内に限定されます。ダチョウに空を飛ばせようとしても、ダチョウはもともと羽根を動かして飛ぶという行動を備えていませんので、永久にシェイピングすることはできません。また、チンパンジーに人間と同じように言葉をしゃべらせようとしても、発声器官に制約があるため、シェイピングすることはできません。】

次回に続く。