【思ったこと】 140611(水)長谷川版「行動分析学入門」第9回(1)好子出現の随伴性による強化(34)刺激弁別(1)
今回から刺激弁別(刺激性制御)の話題に入ります。【なお、ここでは、好子出現の随伴性に関する弁別のみを限定的に取り上げます】
前回までのところで、オペラント行動が強化されたり、消去されたり、といった部分強化の条件のもとで、行動がどのように生じるかという話題を取り上げてきました。そうした中で、動物や人間は、少しでも多くの好子を獲得するように適応していきます。ここで、どういう方略が有用であるのか考えてみましょう。
まずは、すでにお話しした「行動を変える」という方略です。これには、
- 行動を精緻化する→分化強化。より正確に獲物を狙う。スキルアップ。
- 物理的に強い反応をする→分化強化。これまでより強くレバーを押す。より遠くに投げる。より速く走る...・
- これまでと似ている新しい反応→シェイピング。実験箱の壁に触れるという行動からレバーを押すという行動へ...。
などがあります。
これに対して、今回からお話しするのは「外部環境刺激を手がかりにする」という方略です。言うまでもなく、地球上の環境は地域によって大きく異なる、季節によって大きく変化します。また、それによって、そこに育つ植物たちも、芽を出したり、花を咲かせたり、実をつけたりします。それらの特徴や変化に合わせて、オペラント行動の種類や頻度を変えるということはきわめて適応的です。じっさい、
- 乾期で飲み水が限られている時には、やみくもに水を探す動物より、水の音や地形を手がかりにして川や池を探すことのできる動物のほうが遙かに適応的です。
- 果物を食料としている動物であれば、やみくもに果物を探す動物より、木の外形や実が熟した時の色を手がかりに採集のできる動物のほうが遙かに適応的です。
- 肉食動物であれば、やみくもに獲物を追い回す動物よりも、獲物がどういうニオイで、どこに暮らしているか、群れの中でどの個体が捕まえやすいかといった特徴を手がかりにして捕食をする動物のほうが遙かに適応的です。
以上の例にも見られるように、現存する動物たちは、
- 好子が出現しやすい環境に関係した外部刺激を手がかりとして
- その外部刺激のもとでは当該のオペラント行動を活発に自発させ
- その外部刺激が存在しない時には行動を休止
という形で適応しています。もちろん、その中には生得的に利用されているものもありますが、以下に述べるような「弁別学習」という形で経験的に身につけていく方略も少なくありません。特に人間の場合は、社会的環境のもとで、習慣、文化、教育といったプロセスで、さまざまな弁別を学習していきます。
行動分析学が重点的に関わっている種々の「問題行動」も、その多くは、弁別ができないことに原因があります。「問題行動」の多くは、場所や文脈に適合しない場所で起こるからこそ「問題」となるのであって、その行動自体が「問題」であるとは限りません。
- 赤信号を無視して横断歩道を渡る。
→横断歩道を渡る行動自体は「問題行動」ではありません。「青はススメ、赤はトマレ」という弁別ができていないことが問題です。
- 厳粛な場所で大声で笑う。
→大声で笑う行動自体は「問題行動」ではありません。むしろ健康に良いと言われているほどです。但し、場所をわきまえないとひんしゅくをかい、ときには罰せられます。
- イスラムの国でお酒を飲む。
→禁酒になっていない国であれば、成人はお酒を飲んでも罰せられません。但し、屋外での飲酒を禁じている国もあり、別の弁別が必要になります。
- 禁煙と書かれた場所で喫煙する。
→日本の法律では、20歳以上の人が灰皿のある場所で喫煙すること自体は「問題行動」ではありません。もっとも、健康維持・依存症脱却という観点から言えば、どこで喫煙しても本人にとっては深刻な「問題」ですが。
いずれにせよ、社会的に適切とされている場所や文脈のみでその行動が強化されるようになれば、問題行動の大部分は解消するといっても過言ではありません。
次回に続く。
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