じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 台風一過の美しい夕焼け。台風8号が去り、7月11日の岡山は、最高気温32.3℃、最低気温25.6℃という真夏並の暑さとなった。その後、大陸からの乾いた空気に覆われるようになり、7月12日朝の最低気温は21.8℃まで下がっている。写真は、7月11日の19時23分頃に出現した美しい夕焼け。


2014年7月11日(金)

【思ったこと】
140711(金)長谷川版「行動分析学入門」第13回(1)人間と社会に関する諸問題(1)性格とは何か?

 行動分析学の基本概念である行動随伴性について、
  • レスポンデント行動とオペラント行動
  • 4通りの基本随伴性
  • 確立操作
  • 消去
  • 刺激弁別
  • 4通りの阻止の随伴性
などを中心に説明してまいりました。このほかにも、「言語行動」、「ルール支配行動」といった重要な概念があるのですが、授業時間数の制約によりここでは割愛させていただき、残りの時間では、人間と社会に関するいくつかの問題を取り上げて、上掲の基本概念がどのように活用できるのかを示していきたいと思います。時間の関係で、ここでは
  1. 性格とは何か
  2. 人生観(ライフスタイル)と随伴性
  3. 地球環境を守る取り組み
  4. 自由とは何か
  5. 選択の技法
  6. お金とは何か
  7. 外国語学習のコツ
  8. 競争原理の功罪
  9. 高齢者の生きがい
  10. 人はなぜ○○するのか?
という10個のテーマに絞ることにします。【順番は変更することがあります】




 まず1番目の「性格とは何か?」ですが、行動分析学は原則として、性格概念を使わずに行動の原因を説明します。一般に「性格の違い」として扱われている個体差は、殆どすべて、行動分析学の別の概念に還元して説明することができると考えます。具体的には、
  • その人の行動を強化している環境要因の違い
  • その人にとっての習得性好子や習得性嫌子の違い
  • その人に影響を与えている弁別刺激の違い
  • その人の行動全体がどのような随伴性の枠組み(長期的目標達成を点検し達成の度合いを付加的に強化する仕組み、あるいは「入れ子構造」)
などです。それらを明記すれば、改めて「あなたは○○という性格です」などと解説されなくても、行動の予測や改善につなげることができます。

 性格の違いが存在すると思われている原因の1つは、同じ環境のもとで人々が十人十色の行動をとることにあると考えられます。しかし、「同じ環境」というときの「同じ」とは、あくまで、客観的に記述された、あらゆる環境要素についての情報を意味するものです。その環境の中に3人の人が居て三者三様の行動をとっていると、素朴には「環境が同じなのに違う行動をしているのだから、その違いは人々の内部要因の違いにあるはずだ。それが性格の違いだ」というように受け止められてしまいます。しかし、実際には、3人に影響を与えている環境要因というのは、客観的に記述された諸要因の中の部分集合に過ぎません【その部分集合のことを「関心空間」と呼ぶことができます】。同じ教室の中にいる受講生の中に、先生の話をしっかり聞いている人、外の景色を眺めてぼんやりしている人、気に入った異性のほうばかりに目を向けている人がいたとします。それら3人の行動の違いは性格の違いではありません。全体的な環境要素の中で、それぞれの人に影響を与えている部分集合が異なっているから、違う行動をとっているだけのことです。

 ここで、念のためお断りしておきますが、ここで、性格概念が無意味だと言っているわけではありません。初対面の100人に接する場合、100人それぞれについて、環境要因、習得性好子や習得性嫌子の差異、有効な弁別刺激などの特徴を個別に集めていたのでは、情報量は膨大となり対処できなくなってしまいます。そのさい、とりあえず、100人を3通り〜7通りくらいの型に分類した上で、それぞれの型に適した応対を実践すれば、大した不都合も起こらずに迅速に対処することができます。長年にわたって批判され続けているにもかかわらず今なおしぶとくもてはやされている「血液型性格判断」なども、4通りの型に分類すること自体の利便性があるため(←といって、それが正しいということではない)と考えられます。

 人を少数のパターンに分けることが有用であるのは、行動傾向が個々バラバラではなくて、一定のまとまり、共通性を持っているためです。例えば、「あなたは八宝菜が好きですか」、「あなたは、ざるそばが好きですか?」、「あなたはパスタ料理が好きですか?」、というように100通りの料理の好みを尋ねたとします。回答選択肢が「はい」と「いいえ」の2通りだけであるとすると、100通りの料理に対する好みは、2の100乗通りに分かれることになり、膨大な情報量になってしまいます。しかし、現実には、「あなたは中華料理が好きですか?」、「あなたは和食が好きですか?」、「あなたは洋食が好きですか?」という3つの質問の回答内容(2の3乗=8通り)だけで分類しても、それほどの不都合は起こりません。なぜなら、個別の好き嫌いが多少あったとしても、「中華料理が好き」と答えた人は100通りの料理の中の中華メニューに対しては、たいがい「好き」と答えることが予想できるからです。

 ということで、性格概念は、情報の簡素化や行動の予測には有用であり、決して無意味ではありません。しかし、「Aさんは根気が無い」、「Bさんは、ずぼらだ(几帳面ではない)」、「Cさんは非社交的だ」というような「性格」関連情報を入手したところで、それぞれの人の行動を改善することはできません【行動の予測だけなら可能ですが。】。
  • 根気が無いと言われるAさんの行動を長続きさせるためには、付加的強化などのサポートが必要です。
  • ずぼらだと言われるBさんに、計画どおりの行動をきっちりやってもらうためには、弁別刺激の導入、行動連鎖の形成、点検行動の強化といった行動マネジメントの手法を導入することが必要です。
  • 非社交的と言われるCさんに、集団の中で交流を楽しんでもらうためには、Cさんの他者に対する働きかけが適切に強化され、かつ、交流時に嫌子が出現しないような配慮が必要です。
というように、「性格」概念を超えた、行動分析学的対応が行われない限りは事態は改善しません。

 心理学の入門授業などで、「自分を知るとはどういうことか?」という質問をすると、大概は「自分の性格を知ることです」という答えが返ってきます。しかし、それだけでは不十分であり、本当に必要な情報は
  • 自分自身の行動を強化(あるいは弱化)している習得性好子や習得性嫌子は何であるのか?
  • それらの好子や嫌子はどこから与えられているものなのか?
  • 自分の行動に影響を与えている弁別刺激はどういうものか、何が不足しているか?
  • 種々の行動は全体としてどのような入れ子のもとで強化されているのか?
といった自己点検を行い、必要があればそれらを変えていくことです。そのさい、「きょうから○○を変えます」といったスローガンを掲げるだけでは全くダメであり、行動分析学のちゃんとした手法に基づいて改善につとめることが必要です。

次回に続く