【思ったこと】 140717(木)長谷川版「行動分析学入門」第13回(7)人間と社会に関する諸問題(7)選択の技法と決断
今回は「選択」について取り上げます。このテーマについては、昨年、
スキナー以後の心理学(21)行動分析学から見た「選択」
という紀要論文をまとめておりますので、詳しく考察したいという方は、ぜひそちらのほうもご覧ください。以下に記すことも、大部分は、上掲論文の再掲となります。
まずは、「選択」について検討することには、上掲の論文の冒頭に記したような、
「選択」は、古代ギリシアの時代から、人間を特徴づける重要な概念として、あるいは「自由」の本質として位置づけられるなど、さまざまな形で議論されてきた。これに加えて近年、人々の生活がますます豊かになるにつれて膨大な数の選択肢が氾濫するようになり、自由や幸福、QOLなどとの関連で、「選択術」の必要が説かれるようになった。
という意義があります。
紀要論文ではさらに、「自由」との関連については、シュワルツ(Barry Schwartz)のTEDプレゼンテーションの中から、
- 西洋の産業社会では
The more choice people have, the more freedom they have, and the more freedom they have, the more welfare they have.
選択肢が多ければ多いほど、より多くの自由が得られる。より自由であればあるほど、より幸せになれる。
という「ドグマ」が誰も疑わないほどに浸透している。
- しかし、選択肢があまりにも多いとむしろ混乱を招く。
- 自己責任が伴う選択はしばしば後悔の原因となる。
という指摘を引用しています。
このほか、「するかしないか、は選択か?」、「選択と選択モドキ」、「選択術とQOLとの関係」などについては、リンク先の紀要論文を参照してください。
ここでは、紀要論文ではあまり取り上げなかった「決断」について少しだけ補足しておきます。国語辞典では、「決断」は以下のように定義されています。
- 【大辞泉】意志をはっきりと決定すること。
- 【新明解】なすべき行動・とるべき態度などを、迷わずに決めること。また、その決めた事柄。
単なる選択(choice、choosing)と異なり、決断(decision)というのは、
- 選択の機会は1回限りであり、取り消しや変更が難しい。
→選択肢Aと選択肢Bを交替に選べるような選択機会は決断の機会とは言えない。
- 選択の結果は重大であり、その影響は長期間、あるいは他者にも及ぶ。
→進路、結婚、移住など。
- 単なる好みの表明ではない。決断の結果については、成功か失敗かといった評価ができる。
→レストランでメニューを選択するのは決断とは言えない。実行するかしないか、どちらを選ぶかといった結果は時に失敗を招くこともある。但し、決断の内容により、「誤った決断であった」と評価される場合もある一方、偶然的な影響が大きかった場合には「運が悪かった」と評価される場合もある。
以上挙げたように「決断」は1回限りの重大な選択を意味していますが、だからといって、「意志」という概念が必要であるという証拠にはなりません。仮にAとBとどちらを選ぶのかという決断を迫られた場合、
- 情報収集の余裕があれば、Aを選んだ場合のメリット、デメリット、Bを選んだ場合のメリット、デメリットを可能な限り集めて評価します。もっともその評価は必ずしも客観的ではなく、たいがいは、特定のメリットだけで選んだり、逆に特定のデメリットにこだわって棄却したりします。情報収集行動がたくさん行われれば行われるほど、「能動的に選択した」と感じられるようになるでしょう。
- 上記とは逆に、緊急事態で即断を迫られる場合もあります。通常、そのような決断は「直観的な判断」と呼ばれます。しかし、それは当事者が言語化できないだけであって、実際には、過去経験のなかで習得した弁別刺激や、習得性の好子や嫌子の影響を受けています。
- 決断を先延ばしする人は「優柔不断」と言われます。過去に、即断で失敗した(嫌子出現や好子消失を招いた)という経験を持つ人は、決断行動自体が弱化されているためです。
というように、1回限りの重大な決断が行われる前には、本人が言語化できるかどうかは別として、さまざまな、決断準備行動が起こっているものと推測されます。そうした準備行動はそれぞれ個別に強化されたり弱化されたりして、最終決断に影響を及ぼします。それゆえ、営業担当者、お客さんが購入を決断するように様々な働きかけをします。その場合、単に「どうか買ってください」と懇願するだけではダメです。有能なセールスマンであれば、お客さんがどのような「決断準備行動」をしているのかを見極めた上で、自社商品の選択を促すような準備行動を強化していきます。自動車のセールスであれば、安全性を強調する、いろいろなアクセサリをつける、さらに値引きをするといった働きかけであり、有能なセールスパーソンであれば、お客さんの決断準備行動にマッチした情報を重点的に提供することができます。車の安全性を重視しているお客さんにアクセサリーの宣伝をしても意味は無いし、価格がネックになっているお客さんに安全性を強調しても殆ど効果はありません。決断準備行動を適切に強化すれば、決断に有利に働くような情報が集積され、最終的な決断に達します。本人はあくまで「自分の意志で決めた」と感じているでしょうけれど、じっさいには、それに至る準備行動が強化された結果であると言えます。
次回に続く
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