じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 スキナーがヴォーンとの共著として刊行した『Enjoy Old Age: A Practical Guide.』のハードカバー版【写真上】。ネットで検索すると、『Enjoy Old Age: A Program of Self-Management.』というように副題が変更されているものもあるがその経緯は不明。また日本では、

本明寛訳『楽しく見事に年齢をとる法:いまから準備する自己充実プログラム』(1984年、ダイヤモンド社)

という翻訳が1984年に刊行されたが、現在は絶版になっている模様【写真右。未確認】。

 その後、2012年に、

大江聡子訳『初めて老人になるあなたへ  ハーバード流知的な老い方入門』(2012年、成甲書房)

という新訳が出ている【写真左】。↓の記事参照。


2014年7月21日(月)

【思ったこと】
140721(月)長谷川版「行動分析学入門」第13回(11)人間と社会に関する諸問題(11)高齢者の生きがい

 高齢者の生きがいについては、

第三章3.1 幸福(生きがい)の本質はここにあり

で論じたことがありました。
同じような考え方は、高齢者のQOL にも応用できます。高齢者施設の利用者さんに、いくらモノを提供しても、それだけで満足して貰えることは決してありません。かなりの要介護であっても、利用者さんが自分で能動的に行動し、結果として好子を手に入れるというような環境を保障しませんと、QOL の向上にはつながりません。
要するに、高齢者のQOL向上のためには、
  • 高齢者自身が能動的な行動(=オペラント行動)を自発できるような環境を整え、かつ「結果として好子が出現」する機会を保障する。
  • 「自分でできる」ことまで手伝うのは、お節介。極言すれば、人類の最も大切な権利「みずから行動して結果を得る権利」を侵害している。
  • 加齢に伴う衰えにより、「みずから行動して結果を得る権利」をサポートする必要あり。
ということが原則となります。高齢者は、加齢に伴う心身能力衰え、病気や障がいなどによって、元気な若い時と同じレベルの強さ、持続時間、頻度では、行動することができません。必然的に「みずから行動」しても「若い時と同じレベルで結果を得る」ことはできません。無理なく行動し、その中で結果が得られるように工夫をするのが高齢者向けセラピーということになります。

 例えば、園芸活動を例にとれば、若い時であれば、自分で花壇を耕し、種を蒔き、ジョウロで水を蒔き、支柱を立てる、...というようにして花をさせることができました。しかし、車椅子に乗ったお年寄りに同じ作業をしてもらうことはできません。そこで、レイズドベッド(立ち上げ花壇)を使用し、灌水の器具をとりつけ、重い用具の運搬のみ手伝ってもらう、...というように仕様を改良すれば、体が不自由になっても若い時と同じように園芸作業を楽しむことができます。

 スキナーがヴォーンとの共著で刊行した『Enjoy Old Age: A Practical Guide.』という本の中でも、さまざまな機器を使用して、「みずから行動して結果を得る」という生きがいを保ち続けるノウハウが指南されています。




 さて、「みずから行動して結果を得る」機会を保障することは高齢者の生きがいの必要条件ではありますが、それだけで生きがいが満たされる(=十分条件)かどうは定かではありません。高齢者の場合、まずは、ライフスタイルが多様であり、また、加齢や病気といった避けられない外圧、さらには家族関係の変化(同居や死別など)によって、そのライフスタイルを維持し続けることが困難になる場合もあります。それぞれの人に最適、もしくは最善のスタイルというのはあるはずですが、すべての人に当てはまるような「楽しく見事な高齢生活」なるものは存在しません。高齢者それぞれが、現状の生活条件を踏まえた上で、道を探っていくほかはないと思います。

 高齢者の中には、過去の人生を振り返ることもできますし、過去のことはすべて忘れてしまいたいと思っている人もいるでしょう。これまた、人それぞれと言わざるを得ません。人生全体を振り返る場合でも、人生をどういうイメージマップで描こうとしているのかによって、過去の出来事や現状の位置づけは大きく変わってきます。このことについては、以前、やまだようこ先生の最終講義の中で、興味深いお話を伺ったことがありました。【こちらに公式の録画があります。】それによると、多くの人々が描く人生のイメージ地図には8通りの基本ストーリーがあるという。【説明部分は長谷川の解釈による】。
  1. Climbing Story (山登り):人生を山に喩え、頂上に登って降りる過程に焦点をあてている。
  2. Expansion Story (拡張):平面的な拡張として描かれる。
  3. Road Story (道程):ゴールに向かって進んでいく道程。
  4. Event Story (出来事):ライフ・イベントの記録
  5. Choice Story (選択):人生には無限に近い分岐点があり、そのどれもが違う人生を歩み、最後は死につながる。トーナメント表の一番上が出発点(誕生)で、いろいろな分岐点をたどりながら一番下のどこかにたどり着いて死を迎えるような図。
  6. Flow Story (浮遊、川の流れ):上流から下流に流されていくような図。
  7. Cycle Story (循環):リンゴの実がなり、採られずに地面に落ちて養分になる過程の一部として自分を位置づける。
  8. Being Story (居る):場所(トポス)に居る、居続ける、とどまる。何者かになる物語ではない。
過去に同じような体験をしても、あるいは現在、何かの活動に精を出していても、人生のイメージ地図の中でどう位置づけられているのかによって、生きがいの質が変わってくるのではないかと思われる。

 なお、これに触発されて描いた私自身のイメージ地図は、活動の束モデルであり、これは、上掲の8通りには含まれていない。特徴は、
  • 人生を活動の束の集合体と考えるため、特定の活動で挫折してもその束だけのダメージにとどまる。よって、人生全体の挫折にはつながらないという長所あり。
  • 活動の束は相互に連携することはあっても、しょせん「束」にすぎない。それゆえ、第三者から見ると、一貫性が無く、「大きな夢」が無いようにも見える。ま、これを短所とみなすかどうかも、人それぞれのイメージ地図との対比によって異なるとは思う。
といった点にある。もっとも、他の方々に広めようなどという意図はこれっぽっちもない。

次回に続く