【思ったこと】 140829(金)2014年版・高齢者の心と行動(11)
さて、いよいよ、「高齢者の生きがいを保障するための条件」という本題に入ります。このキーポイントは、「能動的に行動し、それに見合った成果を達成している状態」をいかに実現していくのかということです。つまり、
- 多様な能動的行動の機会をつくる
- 当事者(利用者さん)の個性にあった好子をさがす。もしくは、新たな好子を創る。
- 「行動→好子出現」というセットで生きがいを実現する。
といった点を重視していきます。
いま述べたことは、結果的には「喜んでいただく」ということと同じ意味になりますが、能動主義的アプローチの一番の特徴は、行動と好子出現のセットを重視していく点にあります。例えば、単にプレゼントを差し上げて喜んでいただくというのでは、能動的行動がありません。
- 単に「プレゼントとして貰う」よりも、自分で能動的に働きかけて獲得したほうが大きな喜びになるはずです。【冒頭でご紹介した、ザリガニ穫りのエピソードを思い出してください。】
- 仮にプレゼントとしてモノを差し上げる場合でも、デザインや金銭的価値で品物を選ぶのではなく、そのプレゼントがどう利用されていくのかを重視してください。例えば、コンパクトデジカメをプレゼントするのであれば、貰った人がそのカメラで何を撮影することが喜びになるのか、撮った写真をどういう形で保存したり他の人に公開したりするのか、という「デジカメ使用行動」が強化されていくようにサポートすることが大切です。
「能動的に行動し、それに見合った成果を達成する」状態を実現し充実させていくためには、当事者(利用者さん)それぞれにおいて、どういう行動ができるのか、何が好子になっているのか、を詳細に調査する必要があります。Assessmentが大切だというのは、まさにこのことを言っているのです。しかも、要介護の認定では、「何ができないのか?」という「できないこと探し」に終始してしまいがちですが、本当に大切なのは「できないこと探し」ではなくて「できること探し」なのです。寝たきりのお年寄りであっても、何かしら、能動的に環境に働きかけることはできるはずです。また、働きかけが微弱であったり、物理的な手助けが必要な場合にはそれをサポートして差し上げる必要があります。これが高齢者ケアの基本と言えます。
Assessmentの段階で、「何が好子になっているのか」がうまく見つからない場合もあります。その原因と対策として、以下のようなケースが考えられます。
- 行動する機会が保障されていなかったために、自分の周辺から好子が消えてしまった。例えば楽器が無ければ演奏できませんし、オセロゲームの道具と相手がいなければゲームで楽しむこともできません。
- 身体的な衰えによって、かつての好子から疎遠になってしまった。例えば、指が動かなくなったために、ピアノを弾いて楽しむことができなくなったような場合です。この場合は、電子ピアノの自動伴奏機能を使って、主旋律だけを当事者に弾いてもらうとか、一小節の最初の音だけを指1本で弾いてもらうというように、「できること探し」をして、残された能動的参加の機会を保っていくことが必要です。
- すべてに興味を失ってしまったような場合。この場合でも、綿密に観察していくと、何かの関心対象が必ず見つかるはずです。何かの手がかりが見つかった場合には、それに関連する事象を多様に用意して、新たな習得性好子を形成していくことができるかもしれません。例えば道端の草花にちょっとでも関心を寄せることがあれば、それを花瓶に挿して飾るとか、プランターに移植して育ててみることで、新たな習得性好子が形成されていきます。
以上は、行動分析学の考え方に基づいた「高齢者の生きがいを保障するための条件」の概要ですが、じつは、ダイバージョナルセラピーでも殆ど同じことが言われているのです。
- ダイバージョナルセラピーとは、各個人が、いかなる状態にあっても自分らしくよりよく生きたいという願望を実現する機会を持てるよう、その独自性と個性を尊重し、援助するために、「事前調査→計画→実施→事後評価」のプロセスに基づいて、各個人の“楽しみ”と“ライフスタイル”に焦点をあてる全人的アプローチの思想と実践である。
- 「ダイバージョナルセラピー」とは、ライフスタイルや生活歴についてのアセスメントをもとに楽しさと“Good feeling”を探し、一人ひとりのライフスタイルに合わせたプログラムと環境を創りだす全人ケアです
次回に続く。
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