じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 10月15日早朝の空。デジカメでは金星と木星しか写っていないが、肉眼では火星のほか、薄明の中に水星を見つけることもできた。

2015年10月14日(水)


【思ったこと】
151014(水)『嫌われる勇気』(58)アクセプタンスと体験の回避

 昨日の日記で、「自己受容」に関連してACTの「Acceptance」に言及した。その名称に使われていることからも示唆されるように、ACTにとって「Acceptance」は重要な柱になっていることは確かだが、開発された当初とは位置づけが少々変わっているようである。これは「体験の回避」についても言える。

 今年の6月に翻訳書が刊行されたばかりの、

マインドフルにいきいき働くためのトレーニングマニュアル 職場のためのACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)』星和書店/2015年6月30日

には以下のような記述がある。
 ACTが最初に開発されたとき,心理学的な健康障害のモデルに使われていた包括的な用語は,「体験の回避」というものでした。それは,ネガティブな私的出来事の形態頻度,場面感受性を変えようとする試み(その試みによって行動が困難になる場合でさえ)のことを意味します。一方,アクセプタンスは,このモデルの適応的な形態を記述するために使われている用 語です。この文脈におけるアクセプタンスという用語は,個人の価値やゴールの追求における厄介な私的出来事を,自ら進んで経験しようとする積極性(ウイリングネス)(つまり,厄介な私的出来事の形態頻度,感受性を変化させない)として定義されています。
 「アクセプタンス」と「体験の回避」という用語は,望ましくない内的出来事の回避が,ある状況に存在する価値に関連した随伴性に対する感受性をどのようにして減少させるのかということを強調する際に,今でも有用です。しかし,ACTモデル全体を表すためにこれらの用語を使うときには,限界があります。ひとつには,これらの用語の焦点は,人々が望ましくない思考,感情,身体感覚にどのように反応するのかにあるので,内的出来事が望ましくない,望ましい,あるいはその中間であるかどうかにかかわらず,その(内的出来事の)すべてに人がどのように反応するのかが重要であるというACTのより一般的な主張の広がりを,これらの用語は強調しそこなっているということが挙げられます。楽しかったり,まったく平凡だったりする思考や感情が,価値に関連した随伴性に対する感受性を減少させるときにも,行動的有効性(たとえば,職場で活躍すること)や,いきいきした人生を送る能力は,同じように抑制されます。たとえば「自分はすばらしい」と信じることは,失敗して,もはや「すばらしい」が記述として合わないときに,行動の柔軟性を減少させることがあります。同様に,もうすぐ来る休暇を夢見ていることは,おそらくより重要で差し迫っているゴールに関連した随伴性に反応する能力を減少させるかもしれません。そのような状況下では,人は必ずしも内的出来事を避けようとしているわけではありません(実際,彼らは積極的に,内的出来事に従事しているかもしれません)。しかし,私的出来事を回避している人と同じように,彼らの行為は,価値に関連した随伴性を犠牲にして,内的出来事によって不均衡に制御されているのです。【21〜22頁】

 けっきょく、ACTでは、アクセプタンスや体験の回避は、心理的柔軟性という概念でより統合的に論じられる。このことに関しては以下のような記述がある。
アクセプタンスと体験の回避は,それぞれ心理的柔軟性と心理的非柔軟性の例であり,これらの用語を使うことは今でも妥当です。これらは,人が回避しがちな望ましくない思考や感情を,「今,この瞬間」が含んでいるときに,人がとる心理的スタンスを指しています。結果として,これらの用語は,精神病理学や心理療法を論じるときにしばしば使用されます。【21頁】

 もっとも、ACTは必ずしも心理療法だけで活用されるものではない。新しく刊行された上掲書のように、職場でのACTに活用する場合は、必ずしも重要とは言えなくなる。このことについては
しかし,ACTの原理や技術は,たとえば,従業員の仕事や生活機能を促進し,行動的有効性を最大限にするために,非治療的な状況においても次第に使用されるようになってきています。ACTが臨床的な文脈以外で提供される場合,人の望ましくない思考や感情を避ける傾向は,重要な焦点ではなくなるかもしれません。その代わりに,どのようにして,認知的.感情的内容との過度な「絡み合い」が,個人的に価値のある行為やゴールの効果的な探求を妨害しうるかに,より重要な焦点が置かれるのです。【21〜22頁】
と記されている。

 あと、念のためつけくわえておくが、ACTはマインドフルネスと一体ではない。上掲書はこの点についてもしっかりと明記している。
ACTは,マインドフルネス・ストレス低減法(mindfulness-based stress reduction:MBSR)やマインドフルネス認知療法(mindfulness-based cognitive therapy:MBCT)といった,他の有名なマインドフルネスに基づくプログラムとは異なっています。なぜなら,ACTは個人的に価値を置く(重要だと考える)行動を活性化する,ということをとても強調するからです。ACTは,そもそも行動療法なのです。そのため,人間の言語と認知の基本的性質に関する十分に確立された行動分析学的な理論(それを関係フレーム理論[relational frame theory:RFT]と言います。その詳細は後述します)にしっかりと根ざしています。確かに、ACTは,マインドフルネスに基づくアプローチなのですが,ACTの介入はマインドフルネスそれ自体を高めることを目的としていません。その代わりに,ACTでは,個人的に価値を置く人生のゴールや行為を追求する力を高めるために,様々なマインドフルネスとアクセプタンスのプロセスを活用するのです。【15〜16頁】


 不定期ながら次回に続く。