【思ったこと】 151021(水)秋季安全衛生講習会「スモークフリーの大学を目ざして〜岡山大学の喫煙対策を一緒に考えよう〜」(2)
昨日の続き。産業医の講演ではこのほか、
- 受動喫煙防止を法制化した地域で、心筋梗塞など救急搬送が2-3割減になったという医学的根拠が蓄積している。
- 先進各国では6-15%がタバコ関連疾患への医療費。日本では4兆3000億円。この額は、タバコ関連の税収を上回る。
- MMSE(ミニメンタルステート検査、Mini Mental State Examination)で喫煙による認知機能低下が確認されている。
などが論じられた。
このうち2.に関しては、異なる見方もありうると思っている。昨日掲載の写真記事に記されているように、タバコは、
- Smoking causes fatal lung cancer.
- Smoking clogs the arteries and causes heart attacks and strokes.
といった深刻な健康被害をもたらすが、喫煙者であれ非喫煙者であれ、人間はいずれは死ぬ。タバコを止めずにタバコ関連疾患で早死にした場合と、タバコを止めたことで長生きした場合でどちらのほうが生涯の医療費の合計が多いのかは別途議論する必要がある。さらに「Smokers die younger」であれば、年金財政上はかえってプラスになるかもしれない。以前、マイケル・サンデル先生の白熱教室「命に値段をつけられるか Lecture3 ある企業のあやまち」でも言及されていたが(※)、純粋に功利主義的に考えてしまうと、喫煙者が増えることで平均寿命が短くなったほうが年金財政が健全化し、若者世代の負担が減るというパラドックスがなりたつかもしれない。
[※]
最近、チェコ共和国ではタバコの消費税率を上げようという提案があった。
そこで、チェコで大規模な事業を展開している。あるアメリカのタバコ会社がチェコにおける喫煙の費用便益分析を行った。
その結果、一つのことが明らかになった。チェコ政府が国民の喫煙によって得をする。ということだ。
さて、政府はどのように得をするのか。
チェコ政府の財政にマイナス効果があるのは事実だ。喫煙により病気を発症する人々への医療費の負担が増えるからだ。一方、プラス効果もあった。そういったものは帳簿の便益蘭に加算された。プラス効果の大部分を占めていたのはタバコ関連商品の販売による様々な税収だ。しかし、それ以外に人々が早死にした時に政府が節約できる医療費も含まれていた。また、年金や高齢者のための住宅費用も節約できる。
これら全ての費用と便益を踏まえたタバコ会社の調査結果がこれだ。
チェコ政府の純収入は1億4700万ドル増加する。喫煙が原因で早く亡くなる人については政府や住宅費や医療費、年金を支払う必要がなくなるから、一人当たり1200ドル以上節約できる。
これが費用便益分析だ。
もっとも、生産年齢と言われる65歳までの期間に、喫煙者が、タバコ関連疾患で治療を受けたり、あるいは、そのために入院、休職することになれば、国全体としての生産性も、職場の労働効率も低下、また、健康保険の負担額も喫煙者の医療費の分だけ増えることになる。いっそのこと、タバコ税をもっと増やし、タバコ関連疾患にかかった人は、保険を適用せず、タバコ税ですべてまかなうというようにすれば、非喫煙者の不公平感はなくなるかもしれない。
なお、以上の議論はあくまで、予防可能なタバコ関連疾患、つまり喫煙を止めることで防げる疾患に限られている。それ以外のさまざまな病気や障がいで治療を受けている方々をひっくるめて議論してしまうと、弱者切り捨ての論理になってしまうので十分な注意が必要。
いずれにせよ、少子高齢社会においては、健康寿命をできる限り伸ばし、高齢になってもそれぞれのスキルや持ち場を活かして社会に貢献していくことが求められる。喫煙がそれを妨げる要因になっていることは間違いない。
次回に続く。
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