【思ったこと】 151213(日)理論心理学会公開シンポ(17)心理学の将来の方法論を考える(9)ベイズ的アプローチと心理学(3)
昨日は少々脱線してしまったので、本題の繁桝先生の話題提供に戻ることにしたい。
話題提供では冒頭、「研究仮説の検証か反証か?」という根本的な問いかけが行われた。その要点は、
- 科学の要件として、反証可能性のみ挙げるのは単純すぎる。
- 検証しても、反証しても完全ではない。
- 科学理論は、データによって学習し改良されていく。
というものであった【長谷川による要約・改変】。
このうち2.については、
- 100羽の黒いカラスを観察しても「すべてのカラスは黒い」は検証できない(101羽目は白いかもしれない)
- 反証の証拠であるとされても、前提条件(補助仮説)や理論の再構成によって解決できる場合もある(「真上に投げた物体が真下に落ちる」は、地動説の反証にはならなかった)。
- 「人間には超能力がある」という仮説は反証できない(1億人に超能力がないことを示しても、その次の人は超能力者かもしれない)。
こうした議論については、私も以前から関心があり、1998年に、
●心理学研究における実験的方法の意義と限界(1)【岡山大学文学部紀要, 29, 61-72.】
の中で考察したことを思い出した。その際にも、引用を交えて以下のように論じたことがあった。
- 豊田(1998)は、まず、「.…因果律は人間の思考に属しており、人間の視覚や思考から独立に実在するものではない。(p.157)」とした上で、因果モデル構成にあたっての次のような点に留意する必要があると指摘している。
- データはモデルを積極的に確認しない。
- 因果律は常に不定であり識別できない。
- 因果モデルは要請の範囲で構成される。
- 佐藤(1993)は、過去60年にわたる学習心理学の歴史をふりかえり、Hullがとった仮説演鐸的方法、Tolmanの方法を特徴づける「現象実証型実験」、Skinnerのとった「生起条件探求型実験」を対比し、前二者が歴史的遺物と化したのに対して、Skinnerの方法がなぜ、行動分析学として発展し応用面でも多大な成果をあげるに至ったか、検討を加えている。
- ピタゴラスの定理を実験によって証明する人はいない。仮に白紙の上に任意の直角三角形を描いて各辺の長さを厳密に測定して2乗したとしても、そこで得られる妥当な結論は、「ピタゴラスの定理が成り立つ事例を1つ得た」ということにすぎないのである。そもそも、物理学でも生物学でも心理学でも、1つの実験によって「ある法則(あるいはモデル)が実証」されるということは、まずあり得ない。1つの実験で示せることは、「ある法則(あるいはモデル)に合致する事例を1つ得た」ということだけである。
かつては基礎的統計解析の誤用をなくすための30のチェック項目.というように、仮説検証型の研究における統計解析の誤用に関心を寄せていた私であったが、その後は仮説検証実験やモデル構成自体に対する興味が薄れ、佐藤方哉先生が特徴づけた「生起条件探求型実験」を重視するようになっていった。
ちなみに、この「生起条件探求型」研究というのは、「プラグマチックな真理基準」(プラグマティズムに基づく真理基準)と相通ずるところがある。もっとも、繁桝先生がそのような考え方をされているのかどうかは、今回の話題提供の中だけからは判断できなかった。ベイズ統計学自体がそのような発想を持っているのかどうかも現時点では私の勉強不足のためはっきりしない。
不定期ながら次回に続く。
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