じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 気象庁統計によれば、岡山では6月1日から6月24日までのあいだに合計346.0ミリの降水を記録した。岡山の6月と7月の降水量の平年値はそれぞれ171.5ミリ、160.9ミリとなっており、合わせて332.4ミリであることから、すでに2ヶ月分の平年値を上回る多雨となっていることが分かる。

 写真左は6月24日の文学部中庭。この時は午前10時台に14.0ミリ、11時台に17.0ミリの強い雨が降った。写真右は増水で茶色に濁った座主川。

2016年06月24日(金)


【思ったこと】
160624(金)多湖輝先生の『頭の体操』と、「誰からも文句が出ないようにコップのお酒を分ける方法」

 土曜日の朝、テレビのスイッチを入れたところ、

NHK映像ファイル あの人に会いたい 
多湖輝(心理学者)

がちょうど始まったところであった。多湖先生は、1200万部を超えるロングセラーとなった『頭の体操』で知られる心理学者であったが、2016年3月6日に90歳でお亡くなりになった。

 『頭の体操』が初めて出版されたのは1966年、私が中学生の時であった。私も愛読しており、クリティカル・シンキングの目を養う上でも役立てることができた。その後、子どもたちが幼稚園の頃には、いくつかのドリルでもお世話になった。

 この『頭の体操』の第2集10問に、「文句が出ないように2人でお酒を分ける方法」というのがある。
二人のけちな酒飲みがいる。形の違うコップが2つだけあり、そのいっぽうに酒がつがれている、この一杯を、2人で分けて飲もうということになったが、両方から絶対に文句の出ないように酒を分けるにはどうすればよいか。

 この正解は、
まず、1人が、自分がどっちをとっても文句がないと思うまで、じっくりと酒を2つに分ける。つぎに、もう1人が、その2つのうち、自分のほしいと思うほうを1つ選ぶ。そして残ったほうを、はじめの男がとれば、両方から文句の出るはずがない。
となっており、先日の高大連携(高校での模擬授業など)でも、このクイズを紹介させていただいたばかりである。

 なぜ、文句が出ないのかは、「分割権」と「選択権」の配分にある。「分割権」というのはお酒を2つに分ける権利であり、同時に、自分が分けたお酒に手を加えられない限りは、文句は出しようがない。いっぽう「選択権」は先に選ぶという権利である。あらゆる選択肢が与えられているという条件のもとで、そのうちのどれか1つを選ぶ権利を与えられた人は、当然、自分が選んだ結果については文句を出すことはできない。よって、2人の一方に分割権、もう一方に選択権を与えれば文句が出るはずがないという理屈である。

 このクイズについては、このWeb日記を始めた頃に、いくつかの発展型について考察したことがあった。その概要はこちらにまとめられている。

 発展型の1つは、「畑を分ける」というように、「分割権」と「選択権」に加えて、どのような形に分けるかという「形状決定権」が絡んでくる場合である。リンク先にも記したように、この場合、「形状決定権」をどちらに付与するかによって不公平感が出てしまうため、「絶対に文句が出ない分け方」というのはおそらく存在しない。【交渉により妥協する道は残されているが。】

 もう1つの発展型は「2人で分ける」というのを「3人で分ける」、「4人で分ける」、...「n人で分ける」というように一般化することである。

 このうち、n人で分ける方法としては、
  1. ひとりがn個のコップに酒を「均等と思われる」ように分ける。
  2. n−1人が、順々に自分が一番多いと思ったコップを取っていく。
  3. 残ったコップが、1.で選んだ者になる。(自分で均等に分けたのだから、文句はない)
  4. 再び、n−1個の酒をひとつにして、n=n−1として、1.に戻る。
というのが考えられるが、リンク先にも記したように、この方法では、裏取引(派閥)があった時には、派閥から外された人が不利益を受け、あとから文句をつけるという可能性が残っている。
  1. 例えば、メンバーがA、B、C、の3人で、AとCが派閥をつくっていたとする。
  2. 最初に分割する者がAさんで、お酒の総量が1000mlだったとしよう。Aさんは2つのコップにはそれぞれ約499ml、残りの1つには約2mlだけ入れる。この場合、Bさんが499ml、Cさんが2mlを受け取ると、Aさんは499mlを確実に受け取ることができる。
  3. そのあと、BさんとCさんのお酒はひとつにして再分割されるから、Cさんは、おおむね
    (499+2)/2=250.5ml
    を受け取れるだろう。
  4. その後、AさんとCさんが2人で得たお酒を分け合えば
    (499+250.5)/2= 374.75
    よって、派閥に属するAさんとCさんは、Bさんより多いお酒を獲得することが可能である。

 では、そのような裏取引にも対処できる別の方法はないだろうか。

 1つは、リンク先にも記したように、「任意の相手にクレームをつける権利」というのを与えて分割を繰り返せば最終的には文句が出なくなるかもしれない。

 もう1つ、その後考えた方法は、以下のようなものである。但しこれはn=3の場合に限定される。
  1. まずAさんが3つに分ける。
  2. Bさんは2つのコップを選ぶ。
  3. Cさんは残り1つのコップを選ぶか、Bさんが選んだ2つのコップを分け合うか選択する。
  4. Cさんが残り1つを選んだ場合は、Bさんは残った2つのコップのうちの1つを選び、残りをAさんが取る。
  5. Cさんが、Bさんと分け合う選択をした場合は、残りはAさんがとる。2つのコップは、先の方法を適用して2人で分け合う。
 1つ前に記した「裏取引」の可能性のある方法は、Aさんが3つのコップに分ける際に、その1つを極端に少なくしておき、Cさんが敢えてその少ないコップを選んでBさんとの再分割する量を2/3より小さくできるという点に(Bさんにとっての)不利益があった。しかし、新しい方法では、Bさんは多いと思ったコップ2個(例えば、499ml、499ml)と、少ないと思ったコップ1個(例えば2ml)に分割すればよい。Cさんが2個のほうを選んだ時はBさんと分け合うことになるがその過程でBさんが不利益を受けることはないし、Cさんがもし1個のほう(2ml)を選んだ場合でも、不利益を受けることはないので、AさんとCさんとの裏取引がBさんに不利益をもたらすことはない。このほか、AさんとBさんが裏取引した場合でも、Cさんは、1個に分けられたほうと、2個に分けられたほうのコップを比較し、1個に分けられたコップの量が1/3より多いと思えばそれを選べばよいし、そうでなければ残り2個を分け合う選択をすることで1/3は確保できるので、不利益になることはない。

 ということで、「分割権」と「選択権」に加えて、裏取引が無効になるような仕掛けを作っておけば、3人でも文句の出ない分割は可能になるはずである。

 さらに拡張して、4人で分ける場合はどうだろうか。この場合は、4人のうち3人が派閥を作る場合と、2人ずつ2つの派閥ができる場合が想定されるため、果たして、誰からも文句が出ないように分けられるかどうかは不明である。