じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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文学部西側のアニソドンティア・マルバトロイデス。四季咲きで、4月1日にも咲いていた。枝が伸びすぎると倒れてしまうが、剪定は難しい。

2019年11月25日(月)



【連載】『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(14)言語行動とそれ以外の行動との連携がもたらす発達

 

 11月24日に続いて、

 針生先生の『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』の感想。
 第3章128ページでは、
  • 生後15カ月に、単語の文法形式を手がかりにして少なくとも名詞とそれ以外の単語とを区別するようになる。
  • 単語の種類を見極められるようになっていることも語彙爆発の重要な下準備になっている。
と論じられていた。
 この指摘はもっともであるとは思うが、品詞を区別して使うスキルが発達していくためには、なぜ名詞だけではダメなのか、なぜ動詞や形容詞が必要なのか、という点にも目を向ける必要があると思う。
 このWeb日記でも何度か書いたことがあるが、形容詞というのは、

●同じカテゴリー内の事物を比較・区別する

さいに有用な品詞となる。そもそも、事物をどのようにカテゴリー分けするのか(カテゴリーに分ければ、それぞれ別々の名詞が与えられる)というのは言語使用者のニーズに依存しており、カテゴリー分けの基準はあくまで恣意的である。でもって、同じカテゴリーに属する事物を比較したり区別する際に有用となるのが形容詞である。一例を挙げれば、水という同一のカテゴリー内で温度を比較する場合は「冷たい水」、「温かい水」となる。いっぽう、「氷」、「水」、「お湯」というように、水というカテゴリーをさらに細かく分けて区別する場合もある。「形容詞+名詞」で表現するか、それとも個別の名詞を割り当てるのかは言語使用者(及びその言語コミュニティ)のニーズによる。

 同じカテゴリーに属する事物を「状態」で比較するのが形容詞であるのに対して、動詞は

●「進行形の変化」を記述する

という役割を果たす。なお、変化の程度を表す品詞は副詞である。

 要するに、生後15カ月の子どもが形容詞(←昨日も述べたように日本語の「形容詞」はかなり曖昧)や動詞を使えるようになるかどうかというのは、同じカテゴリーに属する事物を比較するニーズがあるかどうか、事物の変化に注目するニーズがあるかどうかにかかっている。例えば、
  • 離れたところにあるモノをとってもらう時には「大きいほう」という形容詞が役立つ
  • 静的な事物ではなく、動きのあるモノや変化するモノに興味を持つようになれば、それを表現する動詞が役立つ
となるのである。もしこの世界が完全に静的で、均一な事物ばかりから構成されていたら、動詞や形容詞は不要になるし、いくら文法規則として動詞や形容詞の活用を学んだところでそれが何を意味するのかを理解するはできないだろう。【もっとも、完全に静的な世界では生命も存在しえないだろうが。】

 第3章のまとめのところでは、聴き取りや発声面の発達の重要性が指摘されていた。それぞれもっともなことだと思うが、言語行動の発達は、他の様々な行動の発達と連動している点にも目を向ける必要があるだろう。大小の比較、形の一致不一致などの弁別行動は、言葉に依存しなくても発達していくが、人間の子どもの場合はそれらと連動することでいっそう発達が加速する。まず言葉が発達するのではなく、まずは物理的な特徴に依存した関係反応が発達し、それに根ざした形で、非恣意的な関係づけが発達していくという見方が大切ではないかと思う。

 次回に続く。