じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 12月29日放送のナニコレ珍百景で放送されたじゃんけんが分かる犬。
  • 飼い主が両手でグーチョキパーを示し、「勝ちどっち?」あるいは「負けどっち?」と尋ねると、正しいほうの手を右の前足でタッチ。【これは1年前に放送】
  • 「T」と「G」を見せて「Tどっち?」と尋ねると「T」のカードをタッチ
  • 銀色とピンクの色の円板を見せて「シルバーどっち?」と尋ねると銀色のほうをタッチ。なお黄色とピンクを見せて「黒どっち?」と尋ねた時はどちらもタッチせず。
  • 「CMのスター犬」と「ふつうの犬」を見せた時は「CMのスター犬」をタッチ。
このほか、「泰造さん」、「名倉さん」、「名倉さんにそっくりのタイの映画スター」、「名倉さんにそっくりな女将さん」の写真も識別していた。

2019年12月29日(日)




【小さな話題】じゃんけんの勝ち負け、アルファベット26文字、10色の識別ができるという犬

 12月29日放送のナニコレ珍百景で「じゃんけんが分かる犬」を紹介していた。番組紹介記事にも、
両手で1人じゃんけんをして「勝ちどっち?」「負けどっち?」と聞くと、即座に指定通りの手にタッチする犬のルイくん。ルイくんはモノの名前を覚えるのも得意で、人の顔と名前も1度教えただけですぐに判断できるようになるという。
放送後、ルイくんはアルファベット全26文字を記憶したり色の識別もできるようになるなど、さらなる特技を身につけてCMのスター犬を目指しているという。
と記されていたが、もし本当であるならば、言語心理学の教科書を大きく塗り替えるような世界的な大発見となるはずだ。

 まず、以前から習得していたというじゃんけんの勝ち負けの判定行動であるが、これはきわめて難易度の高い条件性弁別課題である。例えばグー(G)、チョキ(C)、パー(P)のうちGを選ぶかどうかというのは、もう一方がCであるかPであるかに依存している。これは定義上、関係反応ということになる。またじゃんけんの強さは恣意的に設定された関係。かつ、は大きさの比較反応などと違ってG、C、Pは「3すくみ構造」となっている。もちろん、個別に、例えば

●「勝ちどっち?」と言われた文脈のもとで「GとCが提示された時はG」

というように個別に学習することも可能だが、その場合は、「勝ちどっち」と「負けどっち」で2通り、左手にG、C、Pが示されるのが3通り、右手はのこりの2通りのいずれかとなるので、2×3×2=12通りの個別のパターンを学習しないと正答できない。3すくみ構造はもとより、イヌがそこまで多様な組み合わせを個別に学習するとは信じがたい。

 次の色の識別だが、イヌは2色型色覚であり、色が見えないわけではないが、番組で紹介されたような、赤、黄、青、緑、黒、黄緑、薄紫、オレンジ、銀色、金色という10色を即座に見分けるほど色覚が発達しているとは思えない。なお、黒以外は明度が似ており、明度を手がかりにするのは困難と思われた。

 顔の識別も本当にできていたとしたら驚きである。そもそもイヌは、視覚よりも嗅覚で相手を識別する。顔写真を顔として識別しているかどうか疑わしい。

 もう1つ、「CMのスター犬」と「ふつうの犬」を見せた時に「CMのスター犬」を選ぶというシーンだが、これは明らかにトリックであろう。イヌが日本語を理解しているはずがない。事前に、「CMのスター犬」を選ぶように何度も訓練していたと考えるべきだろう。

 ということで、バラエティ番組としては大いに楽しめる内容なのだが、子どもたちがこれを見て、本当にじゃんけんの勝ち負けを判定したり色の識別をできていると思い込んでしまうとしたら少々問題である。

 では、実際にはどういうからくりがあるのだろうか。

 まず、大きく分けて2つの可能性がある。
  • あくまでトリックである。正解を知っている飼い主が何らかのサインを出して、正しい反応をするようにイヌを誘導していた。
  • 飼い主は、イヌが本当にじゃんけんの勝ち負けや色を識別できると信じており、何もヒントを与えていない。しかし、正解を知っている飼い主は、自分では気づかないようなちょっとした動作で手がかりを与えている。
 いずれにせよ、クレバー・ハンス効果として知られるようないくつかの要因が働いていたことは間違いなさそうだ。

 イヌが利用できそうな手がかりとしては、
  1. 飼い主の口調(右を選ばせる時と左を選ばせる時で語尾のアクセント等を変える)
  2. 飼い主の表情(片目をつぶったり、口を大きく開けたりして左右の選択の手がかりとする)
  3. カードの握り方(正解となるカードを持つ指の曲げ方を変える)
  4. カードの提示方法(正解カードがより正面になるように提示。あるいは少し高い位置に提示したり、少し揺らせたりする)
などが考えられる。このほか、デモンストレーション用として、特定のパターンだけを繰り返し学習させておき、あたかも、左右の提示位置や「勝ちどっち、負けどっち」の質問がランダムに配列されているかのように見せかけるというトリックも考えられる。もっとも、番組の映像を何度か再生した限りでは、いずれのトリックの疑いについても決定的な証拠は見つからなかった。

 伝えられているような能力が本当にあるのかどうかを確かめる一番の方法は、カードを裏返しにしたり、飼い主の前に衝立を置くなどして、飼い主には正解が分からないような状況のもとで選択をさせることだろう。クレバー・ハンス効果ならぬ「クレバー・ルイ効果」が確認できるはずだが、もしそういう手がかりをすべて取り除いてもなお、ああいう行動ができたとすれば、世界的な大発見になることは間違いない。