じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 生協食堂入口に、恒例の七夕りが設置された。短冊に書かれた願い事は、もっぱら個人の願望にかかわることであり、ざっと見渡したところ、「新型コロナ終息」とか「世界平和」といった書き込みは見当たらなかった。もっとも「県外の友人と早く会えますように」というのは新型コロナ特有の願い事と言える。


2020年6月25日(木)



【小さな話題】藤井七段の強さは相対比較にあらず

 このところ、ABEMAなどを通じて、将棋の対局中継を視聴することが多くなった。たいがいは藤井聡太七段登場の番組で、直近では、
  • 王位戦挑戦者決定戦:藤井聡太七段vs永瀬拓矢二冠
  • 竜王戦3組決勝:藤井聡太七段vs杉本昌隆八段(師弟対決)
  • ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦:藤井聡太七段vs永瀬拓矢二冠
  • 王位戦挑戦者決定リーグ:藤井聡太七段vs阿部健治郎七段
などであった。将棋といえば、これまでも毎週日曜日午前中に放送されるNHK杯の将棋をほぼ毎週視ているが、上記のようなネット中継にはまた違った魅力がある。
  • NHK杯は原則として事前に収録されたものであり、「何が起こるか分からない」というような緊迫感が無い。
  • ネット中継の対局は朝から夜までの1日がかり、場合によっては2日間という長丁場になり、長考で手が進まないことが少なくない。確か、藤井聡太vs杉本昌隆戦だったと思うが、いったん視聴をやめて1時間ほどのウォーキングに出かけて戻ってきたところ、出かける前と同じ盤面になっていて、おや?画面が凍ってしまったのだろうかと一瞬思ったが、実は、私がウォーキング中はずっと長考中で、一手も進んでいないことが分かった。解説者と聞き手は時々交代するが、担当時間中に一手も進まず、もっぱら雑談に終始したというケースもあった。
 こうしたネット中継では、棋士の一挙一動が放送される。1日何時間もわたって自分の姿が映し出されるというのは、私だったらとても耐えられないことだ。そのことで少々気になったが、藤井七段は、けっこう頻繁にペットボトルの水を呑んだり、(おそらく)トイレのために席を立ったりしておられたが、少々頻尿気味のように思われた。そういう、席を立つ回数までバレバレになってしまうのだから棋士も大変だろうと思う。

 本題に入るが、藤井七段の強さは、一般向けには「史上最年少」とか「連勝記録」といった相対比較で報じられる。「史上最年少」という表現は、「将棋は棋士の努力の積み重ねにより、20歳代、30歳代となるにつれて棋力が向上するのが一般的。にもかかわらず、高校生のうちからタイトル戦に登場するというのはスゴい」、つまり「他の棋士に比べてスゴい」という表現である。連勝記録も同様であり、「普通の棋士は勝率5割前後なのに、ずっと勝ち続けるのはスゴい」という意味であり、どちらも相対評価となっている。

 こうした相対評価は、将棋を知らない人にもインパクトのある表現であるが、強さの中身についての情報は全く含まれていない。大相撲に当てはめれば、「史上最年少での優勝」とか、「幕内○○連勝」というのも同様。相撲がどんなスポーツか全く知らなくても、スゴく強いというアピール効果はある。

 とはいえ、相対比較は、中身を持たない空虚な評価とも言える。「強さ」を本当に称えるのであれば、強さの中身についての質的評価を充実させる必要がある。例えば、(少なくとも全盛時代の)白鵬がなぜ強いのかについては、単に体が大きいからとか、力が強いからというだけでは不十分である。「相手力士の特徴に合わせた攻略」、「自分の態勢が不利になってもとっさに立て直せるという対応力」といったところに本当の強さがあるように見える。

 では、藤井七段はどこが強いのか?ということになるが、素人の私にはその本質を見抜くことは到底できない。もちろん1つには、終盤の、何十手詰めにも及ぶような正確な差し回しの力に驚嘆することが多いが、中盤でけっこう長考していて持ち時間を大幅に減らしているところを見ると、どうやらこの段階で相当先に至る展開を何通りにも読み尽くしているように思えてならない。そうしたバリエーションは、中継時に登場する解説者諸氏では追いついていけないところがある。なので、その場ではなぜその手が最善手なのかは解説困難という場合もあるが、数手ほど進むと、それまで50:50だった評価値が突然60:40、70:30、というように藤井七段優勢に転じることがある。また、そうした評価値は、藤井七段自身の指し手で変わるのではなく、対局相手が最善手を指せなかったことによって変化する場合も少なくないように思われる。

 さて、今後についての私の勝手な予想だが、
  • 棋聖戦は藤井七段のタイトル奪取の可能性大。渡辺三冠は最強棋士の1人ではあるが、同時進行中の名人戦のタイトル奪取と、棋聖タイトルの防衛を両立させるのは難しく、どちらを選ぶかと言えばやはり名人位のほうにエネルギーを注ぐことになるはず。
  • 王位戦は、隠居人の私の立場からは木村王位を応援したいところだが、藤井七段の圧勝に終わる可能性大。
  • このほか、藤井七段は竜王戦3組で師匠の杉本八段を破って優勝しており、この先の決勝トーナメントで勝ち進めば竜王を奪取できる可能性がある。そういえば第27期竜王戦の時も、3組で優勝したダニーが、決勝トーナメントで勝ち進み一気に竜王を奪取したことがあった。
  • 藤井七段が名人戦に出場できるのは昇級の関係で早くても3年後になるかと思うが、それ以外のタイトルは早期に独占する可能性がある。それを阻止できるのは、豊島名人・竜王、渡辺三冠、それと永瀬二冠。羽生九段がふたたびタイトル奪取できるか、ダニーが突如大変身して、この争いに加わることができるようになるか、が今後の見どころかと思う。