じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 半田山植物園のヤツデ。枯れた葉がくっついたままぶら下がり、左方向を向いて座っている天狗のように見える。
 ヤツデは私の生家の庭にもあり、子どもの頃、ヤツデの葉っぱを天狗の団扇に見立てて遊んだことがあった。


2020年12月10日(木)



【連載】1993年のSidmanの講演ビデオ(2)

 昨日の続き。

 1993年4月17日に行われたSidman先生の講演では、格調高い挨拶に続いて、刺激等価性理論の基礎となる実験が紹介された。

 Sidman先生はまず、中央に物の名前(英単語、見本刺激)、その周囲に8枚の異なる絵(=比較刺激)が描かれたパネルを示し【3×3の配置なので、中央を除けば8枚になる】、中央の英単語に一致した絵を選んだ時に強化されるという条件性弁別の実験を紹介された。具体的には、中央に「CAR」が表示された時には自動車の絵を選べば正解、「DOG」が表示された時には犬の絵を選べば正解となり報酬が与えられる。全部で20語が見本刺激として中央に提示された。なお、ここでの強化子(好子)は画面に表示されるポイントであり、被験者の年齢層などによって異なるがキャンディなどに交換されるということであった【あくまで長谷川の聞き取りによる】。

 次に、今度は、中央に絵、その周囲に8通りの異なる英単語を表示し、中央の絵に一致した絵を選んだ時に強化されるという条件性弁別の実験が紹介された。具体的には、中央に自動車の絵が表示された時には「CAR」を選べば正解、中央に犬の絵が表示された時は「DOG」を選べば正解となる。

 以上の課題は、人間の子どもでも、サルやハトでも訓練できる。子どもが訓練できた場合はcomprehensionができたと説明されがちであるが、サルやハトが訓練できた場合は単なる条件性弁別であると説明される。しかし、上記の実験結果では、人間と、人間以外の動物の違いは、行動的には示されていない。違いはどこにあるのだろうか?

 次に紹介された実験では、見本刺激が提示される中央のパネルは空白となっており、代わりに見本刺激として音声が提示された。周囲の比較刺激は、上掲と同じような英単語の場合と、絵の場合があった。具体的には、「カー、カー、カー」というように音声が提示され、単語条件では被験者が英単語の中から「CAR」を選べば正解、図形条件では、絵の中から自動車の絵を選べば正解である。これらの訓練を、まだ物の名前を知らないナイーブな子どもたちに行う。
 これらの訓練を行った子どもたちに、「中央に英単語、周囲に絵」という条件、また「中央に絵、周囲に英単語」というテストを行うと、子どもたちはそれらの訓練を一度も受けていないにもかかわらず、それらの見本合わせを正解することができた。以上をまとめると、
  • 音声→絵(例えば、「カー」という音声に対して自動車の絵を選べば正解)
  • 音声→英単語(例えば、「カー」という音声に対して「CAR」という文字列を選べば正解)
という訓練を行うと、その時点までは一度も訓練されていなかった、
  • 絵→英単語(例えば自動車の絵に対して「CAR」を選べば正解)
  • 英単語→絵(例えば「CAR」に対して自動車の絵を選べば正解)
という課題に正解できるようになる、という内容であった。

 ここまでのところで留意しておきたいのは、刺激等価性の説明では、話を分かりやすくするために、「AならばB、BならばC  AならばC、あるいはCならばA」というように推移性やその逆(狭義の等価性)の例が取り上げられるが、ここでSidman先生が紹介した実験例は、

AならばB、AならばC  BならばC、あるいはCならばB

という対応づけのタイプであって、推移性を直接示すものではない。

 以上の研究パラダイムはSidman(1971)に基づくものであり、武藤(2011、『ACTハンドブック』)の28頁で紹介されている。武藤(2011)はこの点について、「当該のネットワークに音声反応が含まれるため、純粋な<刺激←→刺激>を取り扱うことができるようになったとは言い難い。その後、さまざまな研究が蓄積され、<刺激←→>関係のみでも扱えるような「刺激等価性(stimulus equivalence)」の定式化が行われた。【長谷川により一部改変、略】」と説明している。

 以上までの指摘されたように、音声を刺激や選択反応として使う場合は、注意が必要である。まず、人間以外の動物では、発声器官の制約により、人間のように多様な発音ができない場合が多い。チンパンジーに「カー」とか「ドッグ」と発音させることはできない。また、動物では、特定の発声のパターンが警戒や求愛に使われている場合があり、これは生得的な要因に強く左右されていて恣意的に変更することができない。
 さらに、英語のアルファベットは表音文字であるため、例えば、初めて目にした英単語であってもスペリングを頼りにある程度正確に発音することができる。なので、例えば、「カー」という音声に対して自動車の絵を選ぶ訓練を受けた子どもが、別の場面でスペリングを頼りに「CARはカーと発音できる」ことを身につけていれば、「CAR」を音声に置き換えた上で自動車の絵を選ぶことができるようになる可能性がある。

 不定期ながら次回に続く。