じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 長谷川(2011).徹底的行動主義の再構成―行動随伴性概念の拡張とその限界を探る―. 岡山大学文学部紀要, 55, 1-15.

で取り上げた、行動随伴性をめぐる諸議論。なお、この論文は岡大リポジトリから公開されているが、この日記の執筆時点では「The page you are looking for is temporarily unavailable. Please try again later.」というエラーメッセージが出てアクセスできなかった。原因は不明。
  • 図A:スパイラル型随伴性。ピアノを弾くという行動と、その結果として生じるメロディとの関係。
  • 図B:行動の直前と直後の環境変化というのは、行動遂行者からみた変化であって、環境自体の変化ではないという例。Aさんが美術館に出かけてお気に入りの絵を見るというのは、
    <お気に入りの絵なし>→<美術館に出かける>→<お気に入りの絵あり>
    という変化をもたらし、美術館に出かける行動を強化するが、美術館内の風景はAさんが入館する前と後では何も変化がない。
  • 図C:入れ子構造の随伴性。こちらに関連記事あり。


2021年2月28日(日)



【連載】「刺激、操作、機能、条件、要因、文脈」をどう区別するか?(59)杉山尚子先生の講演(24)杉山×武藤対談(9)オペラントが先か、随伴性が先か?

 2月25日の続き。なお表記の「杉山×武藤対談」のビデオ視聴は2021年2月28日(日)までとなっているので、この連載の「杉山尚子先生の講演」部分については、本日をもって最終回とさせていただく。

 さて、対談の中では、随伴性の三次元化という話題に少しだけ触れられていた。上掲の図の「スパイラル型随伴性」のように、私自身もいくつか、随伴性の可視化について提案したことがあった。

 もう1つ、ほんの一言だけであったが、武藤先生のほうから慢性疼痛のような痛みに関する随伴性の話があった。ここではもっと一般的に、頭痛に関して、

【1】 <頭痛あり>→<呪文を唱える>→<頭痛無し>

というケースについて考えてみることにしよう。ここで、頭痛というのは、Skinnerもよく例に挙げた私的出来事である。また、「呪文を唱える」行動がオペラントであることは異論がないと思われる。もし、当事者が、頻繁に呪文を唱えるようになったとすれば、その行動は強化されていると見なすべきであろう。もっともこの場合、「頭痛あり→頭痛なし」は外部からは観察できないし、また、頭痛そのものは独立変数とは言い難いという問題がある。似たケースとして、

【2】 <頭痛あり>→<頭痛薬を飲む>→<頭痛無し>

はどうか? この場合、頭痛薬の服用量自体は独立変数となる。但し、頭痛が解消するメカニズム自体はオペラント条件づけではない。あくまで「頭痛薬を飲む」という行動の部分がオペラントになっていると言えよう。
 このほか、

【3】 <肩こりあり>→<マッサージ器で肩たたきをする>→<肩こり無し>
【4】 <発熱あり>→<風邪薬を飲む>→<発熱なし>
【5】 <不安あり>→<お経(念仏、お題目など)を唱える>→<不安無し>

など、議論に役立ちそうないろいろな例が挙げられそうだ。

 これらの議論で最も基本的なところは、オペラント反応(行動)をどう定義するのかという点にあるように思う。入門書などを見ると、オペラント反応(行動)は以下のいずれかで定義されているように見える。
  • 【自発による定義】オペラント反応(行動)とは、誘発刺激無しに自発される(emit)反応(行動)のことである。
  • 【強化による定義】オペラント反応(行動)とは、直後の結果(環境変化)によって、その後の出現頻度が変容するような反応(行動)のことである。
 このほか、上記に【自発】と【強化】の両条件を不可欠とする立場もあるかと思う。

 私自身は、【強化による定義】のほうが妥当ではないかという考えに傾きつつある。というのは、こちらにも述べたように、日常行動の中には、レスポンデント的な反応とオペラント的な反応から複合的に構成されていたり、オペラント行動の入れ子の中に、部品のような形でレスポンデント行動が含まれている場合があり、「これはオペラント、これはレスポンデント」というように二律背反的に反応(行動)を切り出すことは困難があると考えるからである。
 現実に、オペラント条件づけによって<ある行動>を強化するという時の<ある行動>というのは、そっくりそのままのオペラント行動ではなくて、その行動が持っているオペラント的な性質部分を強化するということになるのではないかと思われる。例えば、<泣く>という行動自体はレスポンデント的に生じるが、泣くのを止めなさいと叱られて泣き止むのであれば、それはオペラント条件づけ的に制御されている。また、「赤ちゃんが泣く→抱っこする」ことを繰り返すと、赤ちゃんは抱っこされるまで泣き続けるようになる。これも、<泣く>が<抱っこ>によって強化されたという側面が考えられる。

 ま、いろいろ考えてみるに、ある行動が、直前と直後の私的出来事の変化によって強化されたり弱化されたりすることはいろいろあり、それ自体は否定できないように思う。但し、私的出来事自体はコントロールできないため、現状は説明できても、将来の改善には役立たない。上記の【5】の例に関して言えば、ある信者さんが、

【5】 <不安あり>→<お経(念仏、お題目など)を唱える>→<不安無し>

という「随伴性」で、自分の不安をうまく解消できていたとする。しかし、友人に同じ事を進めてもうまくいくという保証は全くないし、お経を唱える回数を2倍に増やしたからといって2倍の効果が得られるという保証もない。


 不定期ながら次回に続く。