【小さな話題】『教えて、お金名人』と「お金とは何か?」
5月22日(日)の午後にBSフジで放送された表記の番組を録画・再生で視た。9歳から11歳の小学生4人がオンラインで素朴な質問を投げかけ、2人の大人がそれに答えるというもの。大人の説明に対して子どもたちは「納得」または「不服」の札を上げる。出演者・スタッフは、
- 解説:藤野英人(レオス・キャピタルワークス代表)
- おかね初段:小沢一敬
- 進行役:井戸田潤
となっていた。この日は2回分が連続して放送され、
- なんでウチは貧乏なの?
- 職業ごとに同じお給料じゃダメ?
- 困っている人がいるのにどうしてお金を作って配らないの?
- 投資って何?
という4つの疑問が取り上げられた。この日記では、1.から3.への回答の本質にある「お金とは何か?」について私なりの考えを述べることにしたい。
放送では、3.の疑問に対して、
- 小沢一敬さん:お金って「I love you.」と同じで、いっぱい使えば使うほど価値が無くなっていくもの。
- 藤野秀人さん:本当は紙にしか過ぎないものを1万円だと思っている。「これは1万円なんだ」とみんなが信じているから。みんなが「1万円だから大切にしようと思っているから価値がある。レオナルドダビンチがモナ・リザの絵を100枚描いたらモナ・リザの価値がなくなってしまう。価値というのは(数が)増えれば増えるほど減っていく。
と解答し、子どもたちは小沢さんの解答には4人全員が「不服」、藤野さんの解答には全員が「納得」と反応していたが、私は藤野さんの解答でもまだまだ納得できないところがある。なぜなら、1枚しかないから価値を持つというのであれば、レオナルドダビンチが描いた絵でも、私が描いた絵でも、私の孫が描いた絵でも、みな同じように価値を持つはずである。希少性、あるいは量が制限された資源というだけでは、お金の力を説明することはできない。藤野さんの説明は、お金の本質ではなく、信用貨幣の成り立ちの説明に留まっているように思えた。
ということでお金とは何か?について持論を述べることになるが、このことについては2013年3月30日の日記などですでに論じている。その基本は、「お金とは、自分のために他人を動かすツール」ということであり、
- 限られた資源(食物、土地、建物、道具など)のうちの一部を占有できるという機能。
- 他人からサービスを受けるための契約書としての機能。これも、ある意味では、相手の生活時間の一部を自分のために占有する、という機能。
を有するというもの。但し、私有財産、格差、相続、投資などについてはもう少し詳しい説明が必要かもしれない。
私の考えを9歳〜11歳くらいの子どもたちに伝えるとしたら、以下のようなプロセスをとることになると思う。
- まず、お金を使う時には相手が必要であることを確認しよう。
→無人島に流れ着いたロビンソン・クルーソーは、お金を使うことはできない。札束が漂着してきたとしても、焚き火の燃料にしかならない。(但し、フライデーと一緒に暮らすようになってからは、フライデーに給料を払うことはできる。もっともそのフライデーが貰った給料を何に使うのかは不明。給料と引き換えにロビンソン・クルーソーの持ち物が交換できるなら、給料というお金は価値が生じることになる)。
- お金を使うと何が可能になるか考えてみよう。
→「モノを手に入れる」、「他の人から何かをしてもらう」など。
- 上記2.で、お金を使わなくても済む場合としてどんなことがあるのか考えてみよう。
→「タダでも手に入るモノ、例えば平地では空気はタダで手に入るのでお金は必要ない」、「お互いに協力したり、ボランティアに助けてもらうような場合はお金は必要ない。」
- 自給自足で成り立つ山奥の村や、家庭内では、お互いが自発的に助け合うので、お金のやりとりは必要ない。しかし、そういう人々でもお金が必要になることがある。どんな場合か考えてみよう。
→閉じた社会の中では調達できないようなモノを手に入れる場合。例えば高性能の機械、医療など。
- 上記4.から明らかなように、不足しているモノを手に入れたい時、あるいは他の人から助けて貰いたいことがあってそれが助け合いやボランティアでは満たせない場合にはお金が必要になる。お金が必要となれば、人々はお金を手に入れるために働くようになることを理解しよう。
- では、お金を手に入れるためにはどういうことをすればよいのか考えてみよう。
→基本は、働くこと。働くというのは、他の人たちのために、自分の生活時間の一部を提供することである。
農作業の場合も、自給自足分を超えて作物を収穫するための行動は、他人が必要とする農産物を作るために自分の生活時間の一部を割いていることになる。このほか、予め獲得したお金を使って、何らかの資源を占有し、それを元手にお金を手に入れることもできる。賃貸マンションの経営、土地、鉱物資源、工作機械などなど。投資もその一形態。
ということを理解して貰った上で、改めて「困っている人がいるのにどうしてお金を作って配らないの?」という当初の疑問を考えてみよう。「困っている人にお金を配ればいい」というアイデアは、「お金を配れば、困っている人は、必要なモノを手に入れたり、他の人たちからサービス(支援)を受けることができる」という考えに基づいていると思われるが、人口や生産技術が同じという状態のもとで単にお金をたくさん配ったとすると、これまで1000円で買えたものが1万円払わなければ買えなくなるというようにどんどん物価が上がってしまう。お金を配れば配るほど悪循環するだけなので、困っている人を助けることには繋がらないということが理解できる。より理解を深めるには、何らかのゲームで仮想体験することが有用かと思う。
なお、4.の「投資って何?」について、藤野さんは、
投資とは未来のためにエネルギーを投入して未来からお返しを頂くこと。分かりやすく言うと、勉強も投資。勉強は自分の大事な時間を使ったり自分のエネルギーを使うが、それが積み重なると良い仕事につけたりする。未来に成功するために今頑張ることは全部投資。それはお金ばかりではない、未来のために「お金」「努力」をすることで将来からお金をいただくこと。その中の1つが株式投資。株を買うというのは会社の一部を買うことであり、結果的に利益・配当を得ることができる。(藤野さんも)応援したい会社に何億円か投資して、その会社が頑張ったら成果が出てくる、売り上げが上がる、ということによって日本を元気にするのが私の仕事。
という美しい言葉で説明され、子どもたち全員から「納得」という評価を得ておられた。確かに、レオス・ひふみ投信は、比較的小規模の企業に投資してかなりの運用成績を上げているようである。
もっとも、大学生などが投資の世界に関心を持つと、本来の投資の理想とはかけ離れた、テクニカルな金儲けにのめり込み、信用取引やら「カラ売り」を繰り返す可能性がある。私は一度も手がけたことがないが、どう見ても「カラ売り」で企業を応援できるとは思えない。
なお、今回取り上げた『教えて、お金名人』という番組(おそらく再放送?)は、今後も毎週放送されるようだ。興味深いテーマが取り上げられた時には録画・視聴したいと思う。
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