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【連載】コズミックフロント『奇跡の旅路 太陽大移動』(2) 昨日に続いて、 ●NHK コズミックフロント『奇跡の旅路 太陽大移動』 のメモと感想。昨日のところで、 ●次に問題となるのは、太陽が銀河系のどこで生まれてどの方向に移動しているのか、またそういった移動はどのような力に支えられているのかという点である。 と述べた。1977年に発表されたヴィーレン博士の「星は拡散する(diffusion)」という論文によれば、星は最初のうちは円軌道を回っているが、軌道上で重力を乱す空間に遭遇することで元の円軌道からずれていく。また、銀河の中心から8キロパーセクにある太陽の金属量は、より中心部に近い6キロパーセクほど内側にある星々と同じ量になることから、何らかの力が働いて太陽が移動した可能性があることが指摘された。 辻本拓司さん(国立天文台)は最新のデータを基に太陽と同じ化学組成を持つ『太陽双子星』(←太陽と同じ環境で誕生したと考えられる)を13個見つけた。それらの星の位置から太陽が生まれた場所を導き出すと銀河の中心から4キロパーセクにあることが分かった。ところが、銀河中心部では強い重力が働いてそこから抜け出すことは困難とされていた。辻本さんの研究仲間の馬場淳一さん(鹿児島大学)のスーパーコンピュータを駆使した構造分析によれば、天の川銀河の中心部には『バー』と呼ばれる棒状構造が存在する。また中心部には半径6.5キロパーセクの『ラグランジュ半径』と呼ばれる強力な重力圏がある。このことから、仮に太陽が中心から4キロパーセクのあたりで誕生した場合、6.5キロパーセクを超えて外に出ることは困難であると推測できる。 そこで注目されるのが天の川銀河の渦状腕(かじょうわん、スパイラルアーム)であった。従来、渦状腕は常に同じ形のまま動くと考えられてきた。しかし馬場さんが最新データをもとにシミュレーションを行ったところ、渦状腕は中心部のバーの回転と連動して複雑に生まれたり消えたりしながら形を変えていく。およそ10億年のスパンで誕生・消失を繰り返していることが分かった。シミュレーションによると、この渦状腕のトルクの働きでラグランジュ半径の内側にあった恒星が外側に飛び出す可能性のあることが確認された。 辻本さんによれば、太陽系が中心部に近いところで誕生し外方向に移動したことは、生命誕生に大きく関係している。中心部の近くにあればこそ豊富な金属量が獲得できた。しかし中心部では超新星爆発が頻繁に起こるため生命は存在できない。かろうじて脱出できたことで初めて生きながらえることができた。 こうして中心部から脱出した太陽系であったが、その後も渦状腕と遭遇するたびに渦状腕内部で頻繁に生じる超新星爆発によって大量の宇宙放射線を浴びた。宇宙線は大気の中の雲を増やす効果があるため全球凍結を招く。実際に全球凍結が起こったのは地層の分析から、22億年前、7億年前、6.5億年前と考えられている。これまでその原因は地球内部にあると考えられてきたが、今回の研究から実は銀河の中で生じた現象である可能性が出てきた。じっさい、太陽が渦状腕の内部を通過している時期と全球凍結の時期は重なっていることが確認された。 放送によれば、22億年前の全球凍結後は大気中の酸素濃度が急激に増加し、私たちの先祖にあたる最古の真核生物(グリパニア)が誕生。また6.5億年前の全球凍結後にはエディアカラ生物群と呼ばれる大型生物が大量に発生した。全球凍結は生物の危機でもあるが、生命の飛躍的な進化を遂げるきっかけにもなっているという。 キャサリン・ズッカ-博士(宇宙望遠鏡科学研究所)らのグループはガイアデータから星間ガスに注目した。実際に3Dマップを作成したところ、『ローカルバブル』(泡状の構造)が見えてきた。大きさはおよそ1000光年であり、太陽は現在バブルの中心にいるという。これは1400万年前に、現在のバブルの中心で連鎖的な超新星爆発が起こり、密度の高い星間ガスのバブルが成長した。バブルの外にいた太陽は500万年前にバブルの中に入り込み現在の位置に達した。もし超新星爆発当時にバルブの内部にあればおそらく生命は絶滅していたはず。いっぽう500万年前のバブル突入時には、『太陽圏』が高密度のガスの影響で押し戻されて地球は大量の宇宙放射線に晒された可能性がある。この時期は人類の祖先が誕生ししばらく経った時期と一致している。これによって寒冷化がもたらされ人類の進化に影響を与えたのかもしれない。 太陽系は現在、このローカルバブルの中心にあり、次にバブルを抜け出すのは700〜800万年後になるという。現在の太陽系は、渦状腕の間、バブルの中心という2つの点で銀河系の中でも最も安全な場所にいると指摘された。 ここからは私の感想・考察になるが、まず今回の放送内容が、恒星の金属量、ガイアの観測データから分かってきた『いて座矮小銀河』との接触、渦状腕のトルク、星間ガスの『ローカルバブル』、など観測データやそれに基づくシミュレーションに基づいた構成となっており、一部は諸説あるものの全体として、証拠を積み重ねた「太陽系の旅」を説明しているという点で大いに共感できた。 興味深いのは、天の川銀河のようなスケールの大きな世界が、まだまだニュートン力学のシミュレーションで説明できるという点であるという点であった。それにしても光の速さを物差しにすると5万光年もの半径をもつ銀河が重力というレベルでは全体に影響を及ぼし合っているというのはスゴい。 地球の全球凍結の原因は、私は太陽活動の一時的な低下とそれによって派生した地球環境の連鎖的な変化によるものかと思っていたが、銀河レベルの現象というような外部要因が働いていたかもしれないというのは、もの凄い発想の転換とも言える。そう言えばヒューマニエンスでも同じような話が取り上げられていたが、その時は「別の銀河との衝突」とか「隕石落下によるリンの増加」などが論じられていた。今回指摘されていた可能性も、それがすべてということではなく一因として捉えるべきであろう。 |