じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 夏休み頃から岡大の文法経2号館(法文2号館)で何らかの改修工事が行われている。かつて耐震改修工事が行われた1号館と異なり、2号館は耐震基準を最初から満たしていると聞いている。となると、単なる外壁塗装、内装リフォームに限られるのか、それとももっと本格的な工事になるのかは不明。




2023年9月27日(水)




【連載】笑わない数学(2)虚数(13)虚数以外の新しい数(4)三元数ではなくて四元数

 昨日の日記の終わりのところで、二元数は本質的には、『複素数体』、『分解型複素数環』、『二重数環』の3種しか作れないとい述べた。しかし、「新しい数」は、二元数を「三元数」、「四元数」、...というように元の数を増やすことでさらに拡張できる可能性がある。
 このことについては、YouTubeの解説動画:

虚数は3つ存在します。 天才数学者が見つけた謎の数『四元数』【ゆっくり解説】

で一般向けに分かりやすく解説されている。それによれば、四元数は、

●a+bi+cj+dk

というように表され、ijkは、
  • i2=−1、j2=−1、k2=−1
  • ijkjkikjj
という関係を持つものとして定義される。

 『四元数』を思いついたのはウィリアム・ローワン・ハミルトンであり、数学以外にも物理学や天文学の分野で多大な功績を残した天才として知られている。発見の経緯についてはウィキペディアに詳しく紹介されている。
 四元数の成す代数系は、1843年にウィリアム・ローワン・ハミルトンによって導入された。これにはオイラーの四平方恒等式(1748年)やオリンデ・ロドリゲス(英語版)の四つの径数を用いた一般の回転のパラメータ付け(英語版)(1840年)などを含む重要な先駆的研究があったが、何れもその四径数回転を代数として扱ったものではなかった。ガウスもまた1819年に四元数を発見していたのだが、そのことが公表されるのは1900年になってからのことである。
 ハミルトンは複素数が座標平面における点として解釈できることを知っていて、三次元空間の点に対して同じことができる方法を探していた。空間の点はそれらの座標としての数の三つ組によって表すことができ、ハミルトンはそれらの三つ組に対して加法や減法をどのようにすべきかはずっと前から分かっていたのだが、乗法と除法をどう定めるかという問題については長く行き詰ったままであった。ハミルトンは、空間における二点の座標の商をどのように計算すべきかを形にすることができなかったのである。
 四元数についての大きな転換点がついに訪れたのは、1843年10月16日の月曜日、ダブリンにおいてハミルトンが理事会の長を務めることになるアイルランド王立アカデミー(英語版)への道すがら、妻とともにロイヤル運河(英語版)の引き船道に沿って歩いているときであった。四元数の背景となる概念が頭の中で形になり、答えが明らかになったとき、ハミルトンは衝動を抑えられずに、四元数の基本公式

i2j2k2ijk=−1

を、渡っていたブルーム橋(英語版)の石に刻みつけた。 【以下略】

 さて、ここまでのところで素朴な疑問として生じるのは、なぜ「三元数」を飛ばして「四元数」に拡張されたのかという謎である。解説動画によれば、ハミルトンも当初は「三元数」を探していた。しかし、

●a+bi+cji2=−1、j2=−1

という三元数を作ろうとすると矛盾が発生することが分かった。動画で紹介されていた矛盾を私なりに理解すると以下のようになる。
  1. まず、上記の三元数では何らかの形でijの積を定義する必要がある。閉じているということを前提にすれば、その積はなんであれ、必ず、
    ij=a+bi+cj 【但し、a、b、cは実数】
    という形で表されなければならない。
  2. 次に両辺にiを掛ける。【iはゼロではないのでこれは可能】
    i2j=ai+bi2+cij
  3. ↑の式で、i2=−1。cijの部分のijは元のij=a+bi+cjとして表されるということを前提としているので、以下のように変形できる。
    j=ai−b+c(a+bi+cj
    0=−b+ac+(a+bc)i+(c2+1)j
  4. そうすると、左辺がゼロになっていることから、右辺の実数部、iの虚数部、jの虚数部はすべてゼロにならなければならないことが分かる。
    しかし、jの虚数部の係数の「c2+1」がゼロになるためには、「c2=−1」でなければならなくなる。これはcが実数であるという当初の前提に反する。
ということで、三元数の閉じた世界の中ではijは定義できない。そこでハミルトンはもう1つの虚数としてijikを思いついた。

次回に続く。