じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 岡山ではこのところ雲の多い日が続いていたが、9月29日の朝はよく晴れて、東の空から太陽が昇る瞬間を眺めることができた。
 なお、この日の日の出の方位は92.1°で真東よりわずかに南寄りとなっている。この日はまた中秋の名月であるが、同じ日の18時58分に満月となるので、満月のもとでのお月見ができそう【中秋の名月は旧暦8月15日の月であり、満月より1日ほど早いことが多い】。また、秋分の日や春分の日の前後では、満月の月の出の方位はほぼ真東となるが、今年の場合の方位は89.7°で、わずかに北寄りとなっている。



2023年9月29日(金)




【連載】笑わない数学(2)虚数(15)虚数以外の新しい数(6)八元数、十六元数、...

 昨日では四元数の話題を取り上げたところであるが、「元」の数をさらに、八元数、十六元数というように倍々に増やして新しい数を作ることは無限にできるという。

 ウィキペディアによれば、このうちの八元数は、
八元数は、ハミルトンの四元数の発見に刺激を受けたジョン・グレイヴスによって1843年に発見され、グレイヴスはこれを octaves と呼んだ。それとは独立にケイリーも八元数を発見しており、八元数のことをケイリー数、その全体をケイリー代数と呼ぶことがある。
というように説明されていた。ここで『ケイリー』はどこかで聞いたお名前だと思ったが、過去日記を検索したところ、四色問題でも活躍されていたことが分かった。

 八元数に関するYouTube動画としては、

八元数のはなし @第22回日曜数学会(2021年10月23日、宇佐見公輔さんによる話題提供)

というのが公開されていた。

 動画ではまず、数の拡張として、複素数、四元数、八元数について簡単な説明が行われた。四元数や八元数には、
  • 四元数と八元数は交換法則が成り立たない。
    →八元数では、e1e2=e3だが、e2e1=−e3となってしまう。
  • 八元数は結合法則が成り立たない。
    →八元数では、(e1e2)e4=e3e4=e7だが、e1(e2e4)=e1e6=−e7になってしまう。
という特徴がある。動画では、こうした特徴を考慮した上で、そもそも「数っぽさ」とは何かが議論された。私たちが日常生活で扱っている有理数は実数は以下のような「数っぽさ」を持っている。
  • ものの量をあらわす。
    • 大きさがある。
    • 大小比較ができる。
  • 加減乗除ができる。
    • 加法で閉じる:結合法則、交換法則
    • 減法で閉じる:加法の逆元がある
    • 乗法で閉じる:結合法則、交換法則、分配法則
    • 除法で閉じる:乗法の逆元がある
もっともこれらの性質をすべて満たすものだけを「数」であるとしてしまうと、大きさの比較ができない複素数は「数」ではなくなってしまう。もっとも、複素数では絶対値が定義できるので、

|a+b|≦|a|+|b|

という距離としての性質があり、また加減乗除の演算は問題無くできる。中でも乗法に関しては、

|ab|=|a||b|

という「拡大縮小」の性質を備えている。こうした絶対値は、四元数でも八元数でも定義できるので、距離や拡大縮小の性質を保持していると言える。これらは代数の言葉で言えば、

●(実数体上の)ノルム付き可除代数(乗法的なノルムを持ち、零元以外が乗法の逆転を持つR代数)

ということになるという。そして、

●実数体上のノルム付き可除代数は、R(実数)、C(複素数)、H(四元数)、O(八元数)の4種類しかない。

ことが定理として証明されているという。なお、ウィキペディアによれば、1958年にJ・フランク・アダムズが位相的な方法を用いて有限次元実多元体が四種類(実数体 R, 複素数体 C, 四元数体 H, 八元数体 O)に限り存在することを最終的に証明した、となっている。

 さて、「ノルム付き可除」という条件をつけると、数の拡張は、「実数2個で複素数」、「複素数2個で四元数」、「四元数2個で八元数」というように倍々で拡張することしかできなくなる。しかし十六元数あるいはそれより大きな多元数となると、
  • |ab|=|a||b|とは限らない。
  • 乗法の逆元が存在するとは限らない。特に、零因子が存在する。【零因子とは、a≠0、b≠0、ab=0を満たすa、bのこと。零因子は乗法の逆元を持たない】
となり、数っぽい性質が失われてしまうとのことであった。なお話題提供の最後のところで、参考文献として、

松岡学 『数の世界 自然数から実数、複素数、そして四元数へ』 講談社ブルーバックス

が挙げられていた。




 ここからは私の感想・考察になるが、上掲の数の拡張の問題は、さらに一般化すると、
  1. 数とは何か?
  2. 量と質はどのように区別されるのか?

という問題に発展できるように思われる。

 このうち1.については、定義上の問題として割り切って考えることもできるが、物理学や哲学などとも関連付けて、より内容を充実できる可能性もある。リーマン予想に取り組んでいる数学者の中にも、リーマン予想が証明できることは数とは何かを明らかにすることにつながると述べておられた方があり、なかなか奥が深い。
 また2.についても、さまざまな捉え方ができる。心理学の分野でも、質的心理学というのがある。そのいっぽうで、「あらゆる質は量に還元できる」と言い切る人もいる。

次回に続く。