【小さな話題】人間を操る?!〜腸内細菌で人生変わっちゃう?
10月6日に初回放送された、NHK『漫画家イエナガの複雑社会を超定義:
●人間を操る?!〜腸内細菌で人生変わっちゃう?
についてのメモと感想。
腸内細菌についてはこれまでも、ヒューマニエンスのシリーズの中で少なくとも「“腸” 脳さえも支配する?」、「“腸内細菌” 見えない支配者たち」、「“腸内細菌” ヒトを飛躍させる生命体」というように少なくとも3回にわたって取り上げられており、それ以外の番組やYouTube解説動画などを含めてある程度のことは知っていた。今回の番組は最新のトピックをわずか15分に凝縮して早口で伝えるというものであり、中にはまだ十分には実証されていない研究やトンデモ系も含まれている可能性があるが、とりあえず「腸内細菌について今こんなことが話題になっている」という概要を把握する上では有用であった。放送の中で取り上げられた話題を箇条書きにすると、前半部分は以下のようになる。
- いまヨーグルトや乳酸菌飲料、納豆などから腸内環境を整える「腸活」、「菌活」が大ブームとなっている。2022年の新語・流行語大賞のTop10入りした『ヤクルト1000』は1日180万本の売り上げがあり、2022年の腸活関連の売り上げは約1兆724億円に達している。
- 人間のお腹の中にはおよそ1000種類、100兆の腸内細菌が棲息している。
- 近年ゲノム解析が進み、腸内細菌の驚くべき能力が解明されてきている。その凄さを表すキーワードが「脳腸相関」であり、腸内細菌が脳を操り、食の好みや体型、感情にも影響を与えているかもしれないことが分かってきた。
- 腸内細菌は医療でも活躍している。腸内細菌が、癌、うつ病、パーキンソン病の治療にも活用できるのではないかと研究が進んでいる。
- スポーツでも、腸内細菌で持久力がアップするのではないかということが日本の研究者によって明らかにされ話題になった。
- (一般の)細菌は約300年前、オランダの科学者アントニ・ファン・レーウェンフックによって発見された。近代微生物学の開祖、フランスの科学者ルイ・パスツールは、1857年、ほったらかしていた牛乳を観察し、細菌が糖を分解して乳酸を生成しているのを発見。食物の発酵や腐敗の謎をつきとめた。
- 1900年代、ロシア人微生物学者のイリヤ・イリイチ・メチニコフがブルガリア人の長寿の謎に迫る過程でヨーグルトが関係している可能性を考えたことなどから腸内細菌の研究が世界中で盛んになっていった。
- 乳酸菌やビフィズス菌は、ビタミンBやKを生み出したり、オリゴ糖を分解して乳酸、酢酸を作ったりして、食べ物の消化を助けて腸内環境を整えている。さらに腸内にいる免疫細胞を活性化させてウイルスを撃退。
- 大腸菌やウェルシュ菌は、基本的には無害。但しウェルシュ菌が増殖しすぎるとタンパク質を腐敗させ下痢や便秘を引き起こす。また大腸菌の中には『コリバクチン大腸菌』は有害物質を生み出すため、癌との関係があるのではないかと研究されている。
- 他にも正体不明の細菌があり、人間の腸内には1000種類以上、100兆におよぶ腸内細菌が棲息している。この数は細胞の数のおよそ3倍。
ここまでのところで放送開始からわずか6分。早口で詰め込みではあったが、以前に聞いたことがある復習的な内容であったためすらすらと頭に入った。
放送では続いて「脳腸相関」の研究が紹介された。
- 須藤信行さん(九州大学、2004年)の研究:ビフィズス菌マウスと無菌マウスのストレス応答を比較。無菌マウスは脳からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌され、情緒不安定になった。ビフィズス菌マウスではストレスを感じなかった。つまりビフィズス菌にはACTHの分泌を抑制しストレスを防ぐ効果があることが分かった。
- 腸内細菌が脳内のセロトニンの分泌を誘発させ、気分をリラックスさせるという研究もある。乳酸菌がアミノ酸を分解してセロトニンのもとになる『5-ヒドロキシトリプトファン』をつくり脳に作用するためと考えられる。
- アメリカの生物学者、ジェフリー・ゴードンは、ふくよかな体型の人の腸内には『ファーミキューテス』という菌があり、必要以上にエネルギーを取り込み脂肪を蓄える働きがあることを明らかにした(但し、研究対象は欧米人)。いっぽうスリムな人には脂肪の吸収をストップさせる『バクテロイデス』が多く棲息しているという。
- 空腹や好みにも腸内細菌が関係しているという研究がある。
- 腸内細菌が感情をコントロールしている、という研究もある。カナダのプレミシル・ベルチック医師が2012年に発表した研究では、マウスが高さ5cmの台から降りるまでの時間を測定した。「臆病な」マウスが降りるまでの5分以上かかったのに対して。「活発なマウス」は僅か17秒であった。次に、両者の腸内細菌とごっそり入れ替えたところ、3週間後には、元「臆病な」マウスはすぐに台を降りるようになった一方、元「活発な」マウスは降りるのを怖がるようになった。
- 内藤裕二さん(京都府立医大)によれば、普通の環境で育てたネズミと腸内細菌がいない状況で育てたネズミを比較すると、無菌飼育のネズミはテストをすると学習能力が無いケンカっ早いネズミになる。人間でも少し興奮性であったりケンカっ早かったりする子どもがいる。腸からのシグナルがないと、脳が分化して成熟していかない。子どもが育っていくためには腸からのシグナルが必要。すべてではないがそういう一部は関連している。
終わりのところでは、
- 暴飲暴食などで腸内細菌のバランスが崩れると体調不良や病気のリスクが高くなる。
- 日本で20万人以上がいる潰瘍性大腸炎の患者では腸内細菌の多様性が失われている。そこで健康な人の便を患者に移植する『便移植療法』が研究されており、石川大さん(順天堂大)は2015年からこれまでに200人以上に実施して7割以上に改善が見られたことを確認した。
- 2022年、名古屋大学の研究者たちが世界5カ国のパーキンソン病の患者を調べたところ腸内細菌の多様性が失われていることをつきとめた。パーキンソン病の原因は中枢神経の炎症であり短鎖脂肪酸の減少によって引き起こされる。患者の腸内には短鎖脂肪酸のひとつ酪酸をつくるロゼブリアやフィーカリバクテリウムという菌が極めて少ないことが分かった。そこで短鎖脂肪酸をつくる腸内細菌を増やしたところパーキンソン病の進行が抑制できるのではないかと期待が高まっている。
- 国立がん研究センターでは、ルミノコッカス属の細菌を発見し、癌やうつ病の治療への応用を研究している。
といった医療への応用が紹介された。
最後のところでは腸内細菌の多様性を守るカギとして、以下のようにまとめられた。
- プロバイオティクスを増やすこと:ビフィズス菌や乳酸菌などを体内に取り入れ、腸内環境を整える細菌を増やす。ヨーグルトや味噌など。
- プレバイオティクスをとること:食物繊維を摂取することで細菌を活性化させ、体に良い物質をつくる。玄米、麦、そば、ごぼう、人参、サツマイモ、ジャガイモ、カボチャ、キノコ類、ワカメ、昆布、納豆、バナナ、キウイ、リンゴ...
- 内藤裕二さん(京都府立医大):日本人はこうじ菌由来の発酵食品を食べてきたので、それが餌になって増えるビフィズス菌とかブラウティア菌が特徴になっている。ブラウティア菌は肥満を防ぐ働きのある酪酸や酢酸をつくり糖尿病の改善にも期待されている。
- 多様性の中心とも言える腸内細菌とうまく共生していくことが必要。
以上が放送内容のメモ。ほぼ聞いたことのある内容であった。そう言えば我が家では、上掲の推奨食材ばかりが並んでおり、どうやら妻もこのことを意識しているようだ。もっとも、各種の腸内細菌の比率は幼少期に決まってしまい、その後は入れ替えることが困難という話もある。また、乳酸菌の多くは腸に到達する前に死滅してしまうという話もあり、単純にヨーグルトばかり食べていても改善にはつながらないように思う。
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