【連載】笑わない数学(4)非ユークリッド幾何学(1)ユークリッド幾何学5つの公準の暗黙の前提
10月4日にNHK総合で初回放送された、『笑わない数学 シーズン2』:
●非ユークリッド幾何学
についてのメモと感想。
このテーマはシーズン2の1番目に取り上げられた話題であったが、いろいろ考えるとイマイチ納得できない点があり、「コラッツ予想」や結び目理論」より後回しで取り上げることになった。もっとも未だにしっくりこないところがある。
非ユークリッド幾何学自体は、中学生で幾何を教わった時にすでに耳にしたことがあった。もっとも、なぜそのような理論が創れるのかについては理解できなかった。ユークリッド幾何学がリアルな世界を反映したものであるのに対して、非ユークリッド幾何学のほうは数学者のフィクションのようなものではないかという印象を拭いきれなかった。
放送では、まず、ユークリッド幾何学の5つの公理が紹介された。すべての図形の性質はたった5つの公理(公準)から自動的に証明できると説明された。
- 2つの点を通る直線は1本しか引けない。【ここでいう直線は2点を結ぶ線分のこと】
- 直線はいくらでも延ばすことができる。
- ある点を中心にして任意の半径の円を描くことができる。
- 直角は全て等しい。
- 直線と点があるとき、点を通って直線に平行な直線は1本しか引けない。
このうち、5.の公理は、中学で習った時とは違うように思われたのでネットで検索したところ、もともとは、
●1つの線分が2つの直線に交わり、同じ側の内角の和が2直角より小さいならば、この2つの直線は限りなく延長されると、2直角より小さい角のある側において交わる。
となっており、上掲の5.は『プレイフェアの公理』と呼ばれているという。ウィキペディアによれば、
平行線公準とプレイフェアの公理は一般的に同値というわけではない。幾何学の中には、この二つのうち、片方が真でもう片方が偽となるものがあるからである。しかし、ユークリッド幾何学の他の4つの公準と二つのうちの片方を使えばもう片方を証明することができるため、絶対幾何学(英語版)においてはこの二つは同値である。
と解説されている。
いずれにせよ上掲の5つの公理は「ほぼ自明」であるように見える。中学生の頃は何でこんな当たり前のことを明示する必要があるのかとさえ思ったほどであったが、その後、いろいろと理屈っぽいことばかり考えるようになってからは、どれも自明でなく、さまざまな暗黙の仮定が潜んでいるような気がしてきた。
- 1.については、そもそも直線とは何かを定義する必要がある。しかしウィキペディアによれば、
ユークリッドの幾何学では、直線は本質的に無定義述語である。つまり、「直線とは何か」を直接定義せずに、ただある関係(公理・公準)を満たすものであるとして理論を展開していくのである。ユークリッド幾何学においては以下のようなことである:
- 二つの異なる点を与えれば、それを通る直線は一つに決まる。
- 一つの直線とその上にない一つの点が与えられたとき、与えられた点を通り与えられた直線に平行な直線を、ただ一つ引くことができる。
また、このような公理から例えば以下のようなことが導かれる:二つの異なる直線は高々一つの点を共有する。二つの異なる平面は、高々一つの直線を共有する。
となっていて、それ以上の定義はなされていないようだ。
素人的な発想として、まず「線」を「点が移動した時の軌跡」であると直感的に定義した上で、
●直線とは、2つの点を結ぶ線のうち長さが最短になる線のことである。
とすれば分かりやすいのではないかと思われるのだが、1.では距離の概念は前提とされていないようである。もっとも、直線が1本しか引けないということは、「2つの点を結ぶ線の中で長さが最短のものが1本のみ存在する。これを直線と呼ぶ」と言い換えても同値であるような気もする。
- 2.の「直線はいくらでも延ばせる」というのは、地球上では難しい。地球表面は球形になっているので、真っ直ぐな棒を延ばしていくとだんだん地上から離れてしまい支えきれなくなってしまう。ま、銀河系や近隣の別の銀河のあたりまでは理論的には直線の概念が自明でありうるかもしれないが、膨張している宇宙のさらに先まで延ばせるのかどうかは分からない。ひょっとするとそのような直線は存在せず、あらゆる線は最終的にはループ状になっている可能性もある。
- 3.の「任意の半径の円を描くことができる」という公理は、そもそも半径、つまり何らかの長さが定義されていなければならない。ま、実際の物差しは無くても、
●円の中心となる点からどのような方向に直線を延ばしたとしても、円と交わったところまでの線分の長さは等しい(2つの線分はピッタリ重ねることができる)
というように言い換えることはできるかもしれない。【長さが等しいというのは、2つの線分を重ねた時に、どちらか1本に余りが出ないような状態。余りが出たときはそちらの線分のほうが「長い」と定義する。但し「重ねる」という操作を別に定義する必要がありそう】。
- 4.の「直角は全て等しい」というのは自明であるようにも見えるが、そもそもなぜこれが公理として必要なのかが分からなかった。それはそれとして、まずは「直角」あるいは「角の大きさ」なるものを定義する必要がありそうだ。
これについてはまだ深く考えたことはないが、「垂直」あるいは「直交」という概念は、さまざまな角度を定義しなくても独立して定義できるように思われる。おそらく、
●ある点から、その点を通らない直線に交わるように直線を延ばした時、その線分が最短になるような交わり方がただ1つ存在する。これを垂直と呼ぶ。
というように定義する。もしくは点を使わず、2本の直線の交わり方だけから「直交」を定義することもできるだろう。
●2本の直線が交わっている時、この平面を1回転させるうちに4回ピッタリ重なるような位置関係のことを「直交」と呼ぶ。
もちろんこの場合も、「回転」という操作を別に定義する必要はある。
次回に続く。
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