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【連載】100分de名著 #136『偶然性・アイロニー・連帯』(15)第3回 言語は虐殺さえ引き起こす(2)ジェノサイドの言語環境/刺激機能の変換 3月18日に続いて、2024年2月5日からNHK-Eテレで放送が開始された、 ●100分de名著 #136『偶然性・アイロニー・連帯』 についての感想・考察。 放送では、言葉の力が多くの人を扇動し虐殺を引き起こした例として、ルワンダでの大量虐殺事件が紹介された。ルワンダには、主に『ツチ』と『フツ』という2つの部族が暮らしており、第二次世界大戦以前はベルギーの植民地になっていた。1962年の独立以後、多数派のフツが少数派のツチを虐げる政策がとられるようになった。その30年後、フツの軍人のみならず一般市民までが、かつて隣人であったツチを、老若男女を問わず虐殺するようになった。 この原因について、ローティの孫弟子にあたるリン・ティレルは、ルワンダが独立してからの30年間にジェノサイドに至らせる言語環境に変化があったと分析し、その過程は、
放送ではさらに、ジェノサイドに至る言葉づかいとしてティレルが挙げた4点が以下のようにまとめられた。
伊集院さんはこれに関連して、
今回紹介されたリン・ティレル(Lynne Tirrellというお名前は今回初めて知った。朱喜哲さんの論文の中では「推論主義の立場からヘイトスピーチへの批判的分析を行っている」と紹介されているようだ。 ここからは私の感想・考察になるが、民族間の対立や虐殺がしばしば言語のネガティブな力によって引き起こされることは確かだと思う。これは単に、レスポンデント条件づけだけで形成されるものではない。念のためお断りしておくと、レスポンデント条件づけというのは、ある民族の顔とか服装とか旗とかと、嫌悪的で不快をもたらすような無条件刺激を繰り返し対提示することで生じるものであり、パヴロフの条件反射と同じ意味である。このような条件づけは対提示を繰り返し行う必要があるため一定の期間が必要であるが、それだけで一気に虐殺行為に及ぶことはない。ここで重要になってくるのが、関係フレーム理論で言うところの『刺激機能の変換』である。また、「われわれ/やつら」の線引きには、パースペクティヴ・テイキング(視点の取得)が大きくかかわっているように思われる【もっとも関係フレーム理論では一人称複数である「われわれ」はあまり論じられていないように思う】。『刺激機能の変換』は強大であり、しかも、簡単には消去できないから厄介である。 ティレルの「推論主義」についても勉強不足でよく分からないが、メタファーの機能もまたまた重要。 ●人間は論理的思考に基づいて行動しているわけではない。まずメタファーにより結論を出し、あとから理屈をつけて正当化しようとしているだけ。 というのが私の持論でもある。 次回に続く。 |