【連載】チコちゃんに叱られる! 「老化の仕組み」「新しい靴は午前中」
昨日に続いて、5月10日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
- 「◯は良い」「×は悪い」「△はどちらでもない」なのはなぜ?
- ブービー賞があるのはなぜ?
- 年をとると老化するのはなぜ?
- 【視聴者の皆さんからのおたより】新しい靴を午前中に履く理由。
という4つの話題のうち、残りの3.と4.について考察する。
まず3.の「なんで年をとると老化するの?」については、放送では「命の回数券が減っていくから」が正解であると説明された。
老化にまつわる細胞の仕組みを研究している田原栄俊さん(広島大学)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- 人間が老化する仕組みにはさまざまな要素が複雑に絡み合っていて、世界中で研究が行われている。
- 現在主流となっているのは「人間の老化は細胞の老化から始まる」という考え方。
- 私たち人間の体を形作るおよそ37兆個の細胞の殆どは細胞分裂によって自身のコピーを作り出しており、生まれた新しい細胞が古い細胞と入れ替わることで若さを保っている。
- しかし細胞分裂は無限にできるわけではない。一定回数分裂した細胞はそれ以上分裂できなくなり、古い細胞がそのまま残ってしまう。このようになった細胞を『老化細胞』と呼ぶ。年をとり老化細胞が増え体にさまざまな問題を起こしてしまう状態こそが人間の老化の正体。
- 老化細胞は、その細胞が本来行うべき働きをしなくなってしまう。皮膚の細胞で言えば、本来行っていたコラーゲンの分泌が止まるどころか、逆にコラーゲンを分解してしまう。その結果、肌にはシワ・シミができてしまう。
- 他にも、老化細胞が炎症を誘発して病気の原因になるという問題もある。
- 細胞分裂が途中でできなくなってしまう原因は、通称『命の回数券』と言われる『テロメア』にある。
- 人間の細胞の中には染色体が入っており細胞分裂が起きる時には「X」のような形をしている。
- さらにその中には、人間の体をつくる設計図にあたるDNAが収納されている。
- 通常、分裂前と分裂後の染色体は同じ数であるが、DNAレベルで見ると分裂後の染色体の端は少し欠けてしまっている。これはDNAの特性として回避できない。
- 端が欠けるとDNAに記録されている大事な遺伝子も傷ついてしまう恐れがあり、がんになる可能性もある。
- そうした危険から遺伝子を守るため、身代わりになっているのがテロメア。
- テロメアは染色体の端にあり、細胞分裂で遺伝子が欠ける際に遺伝子が傷つかないように身代わりになるという重要な役割を果たしている。
- しかし身代わりにも限界があり、テロメアが一定以上短くなり「これ以上細胞分裂を行えば遺伝子が傷つく」と判断するプログラムが起動して細胞分裂を止めてしまう。こうなってしまったのが老化細胞。
- つまりテロメアが短くならないように気をつければそのぶん長い期間細胞分裂が行えるので老化を抑えることができる。
- これまでの研究で、動脈硬化、アルツハイマー病の患者さん、喫煙者、肥満、運動不足、睡眠不足、ストレスが溜まりやすい人などは、テロメアが早く短くなる傾向のあることが分かっている。
放送では、田原さんが開発した装置を使って、テロメアの現在の長さと短くなる速さを測定する実験が行われた。芸人2人の検査結果では、現在値よりも短くなるスピードのほうが将来に悪影響を与えるようである。
ここからは私の感想・考察になるが、老化は私自身にも直接関係している問題であり、これまでにも、
- 2019年5月18日遺伝子の最新研究と心理学の将来(5)病気にならない特別なDNAと長寿遺伝子
- 2021年3月31日又吉直樹のヘウレーカ!#105「ボクも100歳まで生きられますか?」 その1 【翌日以降に続きあり】
- 2021年4月11日ヒューマニエンス「“死” 生命最大の発明」その2 臨死体験、テロメア
- 2022年2月5日令和の寺子屋「生命って何だろう 生物学者・福岡伸一」その5 全ての生物はなぜ死ぬか(2)テロメア、老衰
- 2022年5月12日ヒューマニエンス「“老化” その宿命にあらがうか 従うか」(1)サーチュイン 【翌日以降に続きあり】
- 2023年9月6日ヒューマニエンス「“免疫” 曖昧な“わたし”をめぐるドラマ」(5)老化細胞が攻撃されない仕組みと『疲弊』
といった放送を通じて、教養・雑学レベルでの老化の仕組みのあらましは知っており、「なんで年をとると老化するの?」という疑問が出された時にも、解説される前から「そりゃ、がんを防ぐためだろう」という答えが浮かんでいた。
ま、がん化を防ぐ方法はいずれ発見されるだろうが、人類全体の年齢構成のバランスをどう保つかという究極的な問題を避けて通ることはできない。高齢者の比率が増えれば増えるほど、それを支える就労世代の負担が増えてしまう。適度の年齢で細胞分裂を停止してこの世から去るということは、種族全体の存続を考えれば必要なことかもしれない。
ちなみに2019年時点での厚労省資料によれば、日本人男性の健康寿命は72.68歳、平均寿命は81.41歳であるという。余命と寿命で条件つき確率が異なることは心得ているが、単純に計算すれば私の場合は来年の今頃にちょうど健康寿命が尽きることになる。幸い今のところは健康寿命の基準から外れるような深刻な状態には至っていないが、この先5年以内には、おそらく、
- 筋力の低下による運動不足。その悪循環。
- 視力のさらなる低下。
- 記憶力のさらなる低下。
- 歯の抜け落ちによる食事の困難。
- 排泄の障害。
- 聴力の低下。
- 車の運転を止めることによる移動範囲の縮小。
などが起こりうると想定される。可能な限り、自力で対処したいところだが、最終的には要介護にならざるをえないのが辛いところだ【←もちろん、がんや事故などによってもっと早期に死亡することもありうるが】。
最後の4.は「視聴者の皆さんからのおたより」紹介であり、7歳のお子さんからの、
●このまえあたらしいくつをはくとき ごぜんちゅうにおろすように おかあさんにいわれました。どうしてあたらしいくつは ごぜんちゅうにはかないといけないんですか。
という質問に答えるものであった。民俗学に詳しい新谷尚紀さん(国立歴史民俗博物館)によれば、
●諸説あるが、日本で古来、靴などの履物には邪霊・不運など変なものが憑きやすいと考えられている。変なものは午後から夕方に活発に働くいっぽう、午前中は変なものがおとなしい清らかな時間帯なので「靴をおろすのがいい」と考えられている。
ということであった。
新しい靴は午前中におろすというような慣習は、私自身が生まれ育った家では全く無かったが、妻の実家ではかなりこのことを気にしており、義父が私のために革靴をプレゼンとしてくれた時も、靴屋さんに受け取りにいったのは午後であったが、翌日の朝から履くようにと言われたことを記憶している。もっとも午後に邪霊や不運が憑きやすいというなら、新しい靴ばかりでなく古い靴でも同様のはずで、そうなると午後は裸足でなければ歩けないことになってしまいそうな気がする。
靴以外、例えば新しい服、バッグ、帽子、腕時計なども午前中からというような慣習もあったような気がするが、はっきり覚えていない。ま、私自身は無宗教なのでそういう迷信はこれっぽっちも信じていないが、妻の実家などではその家の慣習を尊重するように心がけていた。
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