じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 9月13日(金)の日没時、西の空に面白い形の雲が見えた。そのうちの1つは象さんが鼻を伸ばして座っているように見えた。象さんの後ろには龍の姿も見える?


2024年9月14日(日)





【連載】チコちゃんに叱られる! パン屋さんで トングをカチカチさせてしまうのは脳のガス抜きという胡散臭い説明

 9月13日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この日は、
  1. なんでパン屋さんで トングをカチカチさせてしまう?
  2. 敬老の日はもともとなんなの?
  3. ZAZY天才家計画 1か月左手生活で脳を活性化!
  4. なんで伊豆半島は静岡県なのに 伊豆諸島は東京都なの?
という4つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。

 トングをカチカチさせてしまう理由について、放送では「脳のガス抜きがしたいから」が正解であると説明された。世田谷区のパン屋さんに協力してもらい、店内でカチカチさせる人を定点カメラで撮影したところ、いくつかのカチカチのパターンが観察され、中には2個しか買っていない約3分間に420回もカチカチさせている人もいた。
 以前「番組の新人ディレクターの不安を解消法を教えていただいた」堀田秀吾さん(明治大学)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
なお堀田秀吾さんは6月7日初回放送の「韻を踏むと気持ちいいのはなぜ?」にも登場されている。
  1. カチカチさせることで、人は脳の中にいっぱいたまった情報から余分なものを抜いている。
  2. 人は考え事をしすぎると脳の情報処理が追いつかず、思考が固まることがある。パンを選ぶ時もあれこれ選び考えすぎてしまうと脳はオーバーヒート状態に。トングをカチカチさせることで余計な情報を整理し、より効率的にパンを選んでいる。
  3. トングをカチカチさせる行動は、専門的には『ドゥードリング(doodling)』と呼ばれている。勉強している時のペンまわし、貧乏ゆすり、電話中の落書きなどの一見意味の無い行動であるがいずれも作業を効率化できると言われている。
 放送では同じ漢字が並んでいる画面の中から、1つだけ違う漢字を探し出す課題【例えば5行×8列の「侍」という文字の中に1つだけある「待」を探し出す課題】。20問出題し、何もしない条件とトングカチカチさせる条件で脳波にどんな違いが出るかを調べた。その結果、解答中はシータ波(集中すると赤く表示される)とベータ波(イライラすると赤く表示)が出ていることが分かった。トングをカチカチさせながら課題を解くと、シータ波は変わらないがベータ波は全体が青く変化し、効率的に情報処理ができている(うまくガス抜きができている)状態に変化した。

 なお、パン選びの際にトングをカチカチさせない2名にインタビューすると、迷わないで買ってしまうという回答があった。いっぽう激しくカチカチさせていた人は、日頃から迷うことが多いという。
 補足説明として、トングのカチカチに変わる方法として「おでこをゆっくりトントン叩く」が紹介された。これは、アメリカのマウントサイナイ・セント・ルークス病院の研究グループが検証したもので、トングが無くてもリラックスができる効果的な方法であるという。

 ここからは私の感想・考察になるが、まず上掲の『ドゥードリング(doodling)』についてはウィキペディアには該当項目が存在せず、ドゥードゥルアートについて簡単な紹介がある程度であった。トングのカチカチを含めて専門的にドゥードリングと呼ばれているのかどうかは確認できなかった。

 それはそれとして、何かの作業に集中している時に一見意味の無さそうな単純反応が繰り返される現象は、経験的には知られている。例えば将棋の対局中に、扇子の音をパチパチさせる棋士があり、相手からのクレームで対局が中断されたという話まである。このほか正座した状態で上半身を前後に揺らす行動、藤井聡太・七冠の消しゴム回しなども知られている。但し、脳のガス抜きのためなのか、高速の思考活動を調子づけるためなのかは定かでは無い。

 ではパン屋さんでトングをカチカチさせるのは本当にガス抜きなのか? これについてはまだまだ証拠不十分であり、現時点で自信ありげに決めつけるような「解説」は「胡散臭い説明」と言わざるを得ないように思う。
 その一番の理由は、店内でたかが3個から5個程度のパンを選ぶだけで考え事をしすぎて脳の情報処理が追いつかず、思考が固まりオーバーヒート状態に」なるのかという疑問である。また放送の映像にも出てきたが、トングをカチカチさせる人は、パンを選ぶ前からすでに一定頻度でカチカチを始めており、決してオーバーヒートになってからガス抜きを始めたわけではない。日頃他のことで迷いやすい人はカチカチするいっぽう、決断の速い人はカチカチしないというのも、わずか3名のインタビューだけでは証拠にはなっていない。
 ということで、解説者の説明を科学的に実証するのであれば、
  1. 選択場面で迷いやすい人と決断の速い人を(何らかの尺度に基づいて)2群に分けて、カチカチ行動の出現頻度を調べる。
  2. 店内のパンの種類・価格が多様である条件とシンプルである条件で、カチカチ行動に違いがあるかどうかを調べる。
といった実験計画が必要となるだろう。現時点では「脳のガス抜き」が正解であるとするのは証拠不十分。カチカチ行動は単に一部の人たちのクセであってそれ以上でもそれ以下でもないと解釈しておいたほうが無難であるように思う【なぜそういうクセが形成されるのかについては、偶発的な強化によるなどの別の説明が可能】。


 次回に続く。