じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 「tan1°は有理数か?」を解説した動画の1画面。しかしこの画面には1つ重大な誤りがある。答えはこちら


2024年9月20日(金)




【小さな話題】「tan1°は有理数か?」の拡張

●tan1°は有理数か? (2006年京都大学入試問題)

の拡張について考えてみた。

 この問題は、入試が行われた当時から話題になっており、YouTubeにも解説動画が多数投稿されている。とりあえずそのうちの3本をリンクさせていただく。
  1. 【正答率5%未満】伝説の京大入試はなぜ誰も解けなかったのか?【ゆっくり解説】
  2. 【数学】伝説の京大入試問題! tan 1°は有理数か?
  3. 【非動画】tan1°、sin1°、cos1°が無理数であることの証明
これらの動画で解説されているように、この問題はどうやら「背理法&数学的帰納法&加法定理」を使って解くことが最もシンプルになるようだ。
  1. まず、tan 1°が有理数であると仮定する。
  2. 仮定より、n=1の時、tan n°は有理数。
  3. n=kの時にtan n°が有理数であると仮定すると、n=k+1の時、加法定理により、

    tan (k+1)=(tan k°+tan 1°)/(1−tan k°tan 1°)
  4. 有理数どうしの和・差・積・商は有理数となるので、右辺は有理数。よってtan (k+1)は有理数。
  5. 数学的帰納法により、すべての自然数nにおいてtan n°は有理数になる。
  6. いっぽう、tan 30°=1/√3なので無理数。これは矛盾するので、tan 1°を有理数であるとした仮定は間違っていたことになり、tan 1°は無理数であることが証明された。
 なお上記の3.の式の右辺では、tan k°tan 1=1の時に分母がゼロになってしまう。そうならない理由を述べておく必要があるのではないかと思ったが、私が拝見した関連動画の中にはそのような記述は見当たらなかった。ま、上掲の背理法は、「すべての自然数nにおいてtan n°は有理数になる。」ではなく「30までの自然数nにおいてtan n°は有理数になる。」ことを示せばよく、tan 30°とtan 1°の積は1より小さいことから、結果的に分母はゼロにならないことは明らかではある。




 さて、ここからはこの問題の拡張について考えてみる。入試問題に対して正解を得るだけなら上掲の背理法で十分であるが、そもそも、θを自然数とする時、tan θ°はθがどんな値の時に有理数となり、どんな値の時に無理数になるのだろうか? ちなみに、簡単に計算できる例としては、
  • θ=30の時、tan 30°=1/√3  →無理数
  • θ=45の時、tan 45°=1→有理数
  • θ=60の時、tan 60°=√3  →無理数
が分かっている。それ以外のθをしらみつぶし(1≦θ≦89)に調べれば解決するだろうが、何か法則性はないものだろうか。まずθ=1がどんな無理数なのか、ネットで検索したところ、

tan1°の厳密値を求めれば京大の伝説の問題は解けるのか

という記事があった。もっとも直接計算でtan 1°を求めるというのは大変な作業になることが分かった。




 ま、それはそれとして、「tan 1°」というのが数学的にどれほどの意味を持つのか分からないところもある。そもそも1°という角の大きさは、人間が勝手に一回りの角を360°と定めたことから決まっただけのことであって、何かの単位元になるわけでも何でも無い。なので、数学として意味のある一般化を目ざすのであれば、ラジアンで表記したほうがよい。というか、ラジアンやパイを使わなくても、

●円周をn個に等分割した時の中心角(弧を切り取った時の2本の半径がなす角)をθとする。tan θが有理数になるのはnがどのような値になる時か?

というように問題を立てれば一般化できているように思われる。ちなみに上記でn=8の時はちょうどθが45°となるのでtan θ=1となる。これ以外のnでtan θが有理数になるのかどうかは直ちには分からない。

 もっとも、『Niven’s theorem(ニーベンの定理/ニーヴェンの定理)』というものが知られており、それによれば、
θとsinθがともに有理数となるのは0°,30°,90°のみである。イヴァン・ニーベンに因んで名付けられた。式で表せば、θとその正弦が有理数となるのは以下の場合のみである。sin 0°=0、sin 30°=1/2、sin 90°=1。
これをtanに置き換えるとtan θの取り得る有理数は0と±1でありそれ以外はすべて無理数となることが言える。よって、当初の入試問題に対する回答は、

●ニーベンの定理により、tanθが有理数になるのはθ=0°または45°の時に限られる。よってθ=1°の時は有理数ではない【終わり】。

と解答すれば多少は点が貰えるはずだ。元のsinθの時の定理からの変形を書いておけばなおよろしいかも。

クイズの答え





京大の時計台ではなく、東大・安田講堂のイラストが描かれている。京大の時計台はこんな感じ。安田講堂はこんな感じ