じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 12月日初回放送の『チコちゃんに叱られる!』で、「ベートーヴェンの肖像画が怒っているのはなぜ?」という話題が取り上げられた。
 ここでいう肖像画とは、ヨーゼフ・カール・シュティーラーによって描かれたものであった【写真左】。しかし、放送の中では一部、これとは別の肖像画が使われており【写真右】、このことについては何も言及されていなかった。
 2018年12月14日初回放送の「なぜ音楽室には肖像画がある?」で取り上げられていたように、音楽室に飾られているベートーヴェンの肖像画は、全音が楽器販売に参入するためのおまけとして作られたものであり、原画ではなく大貫松三さんが模写したものであったという【こちらに詳しい記録あり】。楽譜やペンが描かれておらず白髪が少ないことから原画とは異なる。ということで写真右はおそらく模写のほうではないかと思われるが、未確認。
 いずれにせよ放送で取り上げる以上は、作者がはっきりしている原画だけで解説してもらいたいところだ。



2024年12月10日(火)




【連載】チコちゃんに叱られる! 「ベートーヴェンの肖像画」

 12月8日に続いて、12月6日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
  1. 音楽を聴くと踊りたくなるのはなぜ?
  2. なぜ警察官やパイロットの帽子は上が出っ張っている?
  3. ベートーヴェンの肖像画が怒っているのはなぜ?
という3つの話題のうち、最後の3.について考察する。

 学校の音楽室で目にする音楽家の肖像画については、2018年12月14日初回放送のチコちゃんの放送で、

なぜ音楽室には肖像画がある?

という疑問が取り上げられたことがあったが【2018年12月15日の日記参照】、今回はその肖像画の中のベートーヴェンが怒っているように見えるのはなぜか?という疑問であった。もっとも私自身はベートーヴェンが真剣なまなざしで作曲に没頭しているように見えるだけで、別段怒っているようには見えない。ということもあり、そもそも疑問として成立しないようにも思えた。

 ま、それはそれとして、放送では「朝食のマカロニ・チーズがマズかったから?というのはウソで、本当は怒ってもいない」というように説明された。

 西洋音楽史を研究している越懸澤麻衣さん(宮城学院女子大学)&ナレーションによる解説は以下の通り。なお、前回の炊き込みご飯の歴史のところで「東四柳」さんという珍しいお名前の方が登場されていたが、今回の「越懸澤(こしかけざわ)」さんもかなり珍しいと思われたのでこちらで検索したところ、

【全国順位】 88,440位
【全国人数】 およそ10人

となっていて、「東四柳」さんの【全国順位】 82,293位よりさらに珍しいことが分かった。もっとも「およそ10人」という人数は調査次第で変動する可能性があり、東四柳さんと越懸澤さんのどちらが珍しい名字なのかは何とも言えないように思われる。

 もとの話題に戻って、解説は以下の通り【要約・改変あり】。【 】内は長谷川のコメント。
  1. 学校の音楽室によく飾られているバッハ、モーツァルト、シューベルト、ベートーヴェンの肖像画を比べてみると、確かにベートーヴェンだけ怒っているように見える。【←4枚の絵の中では、ベートーヴェンだけは向かって左向き、他の3人は右向きになっている。この右向き、左向き談義については2018年12月25日の日記参照】
  2. インターネット上では「家政婦さんが作った当日のマカロニ・チーズがマズかったから」という情報が流れているが、これはデタラメ。
  3. じっさいにベートーヴェンはいろんな意味で怖いイメージがある。
    • 代表曲『交響曲第5番(運命)』の力強い曲調が怖いというイメージがある。【←日本人の殆どは小中学校でこの曲を習うので、怖いイメージが刷り込まれた?】
    • ベートーヴェンは短気で怒りっぽい性格だった。出された食事が気に入らないと怒って家政婦に卵や皿を投げつけた。
      • 伯爵にピアノ演奏をしつこく頼まれ怒って帰った。
      • ナポレオンのために作曲したが後に権力を握ろうとしているナポレオンに失望して譜面に書かれてあったナポレオンの名前を破り取った。
    • せっかちでじっとしていられない性格だった。
      • 同じ場所に留まっているのが苦手で、ウィーンで過ごした35年間に70回以上引っ越しをした。
      • 椅子に座っているのが苦手で肖像画を描かれる時に15分間もジッ としていられなかった。
      • 当該の肖像画は4日に分けて描かれた。
    • もっとも、画家がわざわざベートーヴェンの怒っている時の絵を肖像画にしたとは考えにくい。上掲のような怖いエピソードがあり、そのイメージを持って絵を見るため、怒っていると思い込んでしまう。
    • ベートーヴェンはこの肖像画のポーズを気に入っており、みずから楽譜やペンを持つなど乗り気だったので、怒っていたとは考えにくい。
    • なお、マカロニ・チーズがマズかったからというエピソードは、ベートーヴェンの付き人のアントン・シンドラーの手記に記されているが、マカロニ・チーズに激怒した出来事は肖像画制作よりも後のこと。また、そもそもアントン・シンドラーの言動はウソが多く信用できない。

 放送ではさらに、「偉人の肖像画には意外な真実が隠されている」例として、
  • 『馬にまたがったナポレオン』の絵があるが、実際にナポレオンが乗っていたのは体つきが小さく足も短いラバであった。本当のナポレオンに近い姿を描いた絵もある。「馬」にまたがっている肖像画は本人の指示で格好よく描かせたものであった。
  • 豪快なイメージで描かれた武田信玄の肖像画があるが、実際はほっそりして神経質であったと言われる。
  • 肖像画はイメージや周りの期待が反映されることが多い。
が挙げられた。また、怖いイメージのあるベートーヴェンだが、『運命』と違って優しく穏やかな曲も作っているという。その例として、
  • ヴァイオリン・ソナタOp.24 通称『春』
  • ピアノ・ソナタOp.101
が挙げられた




 ここからは私の感想・考察になるが、まずは上掲の画像欄でも指摘したように、ベートーヴェンの肖像画については、ヨーゼフ・カール・シュティーラーによって描かれた原画と、全音がおまけとして学校に配った大貫松三さんの模写を区別する必要がある。絵の全体としては、大貫松三さんの模写ではペンや楽譜は描かれていないのですぐに区別できる。

 原画が制作された経緯やその後の所有権の推移については、山田五郎さんの、

音楽室のベートーヴェン描いたのは誰!?【年代別肖像画で見るベートーヴェン】

というYouTube動画で詳しく解説されている。なお動画のタイトルでは「音楽室のベートーヴェン描いたのは誰!?」となっているが、全音がカレンダーを配った当初であれば描いたのは大貫松三さんということになる。もっともその後、原画の複製が配られているのかもしれない。
 山田五郎さんの解説によれば、ベートーヴェンの肖像画は若い頃から描かれており、いろいろな表情を見せている。ベートーヴェンは人生で大きな危機を2回迎えており、当該の肖像画が描かれた時はその影響のせいか厳しい表情になっている。ブレンターノ夫妻の依頼により制作されたものであり、ベートーヴェンとしても特別な想いがあって引き受けたらしい。他の音楽家の肖像画とは異なり、この絵は作曲中の姿を描いている。その曲名が『ミサ・ソレムニス』であることも絵から読み取れる。その後数奇な運命をたどった肖像画は1981年にベートーヴェン・ハウスに寄贈されて現在に至っている。

 以上で、ベートーヴェンの肖像画にまつわる、
  1. なぜ音楽室に飾られていることが多いのか?
  2. なぜ怖い顔をしているように見えるのか?
  3. 誰が描いたのか?
という3つの疑問はほぼ解決した。残る疑問は上掲の写真右側の絵が誰によって描かれた絵なのかということである。