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【連載】ヒューマニエンス 「“不安” ヒトが“自らつくった”進化のカギ」(8)セロトニンの両面性(1) 昨日に続いて、11月25日にNHK-BSで再放送【初回放送は6月1日】された、NHK『ヒューマニエンス』、 ●「“不安” ヒトが“自らつくった”進化のカギ」 についてのメモと感想。 放送では続いてセロトニンの役割について、新たな知見を含めた解説があった。 まず紹介されたのは、銅谷賢治さん、宮崎勝彦さんたち(沖縄科学技術大学院大学)のグループによる研究であった。銅谷さんによれば、 ●セロトニンは今は得られていないかもしれないが長期的には得られる報酬を予測、それに対する行動をサポートするという機能がある。 放送で紹介された実験は以下の通り【補足・改変あり。出典は、Miyazaki, et al. (2014). Optogenetic activation of dorsal raphe serotonin neurons enhances patience for future rewards. Current Biology, 24, 2033-2040.】。
宮崎さんは上記の結果について以下のようにコメントされた。 ●セロトニンが活性化すると将来に対する主観的な確率が上がる。このことは、不安を押しのけて将来の目標を達成するための推進力になっているのではないか? 次に紹介されたのは、大村優さん(北京脳科学研究所)の実験であった【補足・改変あり】。
そもそも大村さんがこのような実験を行ったのは、うつ病の患者さんの一部が、セロトニンの量を増やす作用のある治療薬を服用した時にむしろ不安が増えるという副作用が報告されたことの原因究明がきっかけであった。放送によれば、セロトニンが分泌される場所は、『背側縫線核』(はいそくほうせんかく)と『正中縫線核』(せいちゅうほうせんかく)の2か所。これまでの研究者はセロトニン神経がたくさん集まっている背側縫線核のほうをメインに研究していた。その範囲ではセロトニンは不安を和らげるという効果が確認されていた。ところが大村さんが正中縫線核のほうを調べてみたところ、背側縫線核とは逆に、不安を増やす効果があることが分かった。ちなみに両者から出るセロトニン自体は化学物質としては全く同一。セロトニンを受け取る場所が違うことで異なる効果がもたらされると解説された。日常に喩えれば、織田だんが携帯電話で連絡をする場合、相手がマネージャーさんの時と友人の時では効果が異なるようなもの。つまり携帯電話というツールは同じでも、受け取る側の違いにより効果が左右される。 大村さんによれば、不安はただ抑えるばかりではいけない、全く不安を感じなかったらその人はたぶんすぐに死んでしまう。一方で逆に不安ばかり感じていては何もできない。その2つは必ずバランスを取っていなければいけない。その仕組みが脳内に備わっている。不安の最初のスタートが外から入ってくる信号なのか、自分の脳内で生み出される自発的な信号が外からの環境と組み合わさって意識を作り出しているのかについては仮説はいろいろあるが、結局何なのかは誰も分かっていないという。 河田さんからは、海馬のように過去の記憶に関係するところも不安の判断に関わっている、動物は外からの刺激が原因だが、人間は過去からの記憶とかが作り出すものがきっかけとなって不安が生じる可能性があると説明された。 いとうせいこうさんの「不安が目の前に迫ってきた時にアクセルを踏むのかブレーキを踏むのかどちらなのか分からない」というコメントに対しては、大村さんは「その人の遺伝的要因と今までの経験で決断すると思う」と答えられた。また大村さんの研究については、抗うつ効果だけを発揮する薬を作るための手がかりになるのではと、期待が述べられた。 執筆時間が無くなったので、以上2つの実験研究についての私の感想・考察は次回に述べさせていただくことにしたい。 |