【連載】チコちゃんに叱られる! 「カニの養殖が困難な理由」
12月27日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この日は、72分拡大版SP!として、
- カニの値段が高いのはなぜ?
- キティちゃんがリボンをつけているのはなぜ?
- 身に覚えのない罪を「濡れ衣」というのはなぜ?
- 「善玉」「悪玉」ってなに?
- 【ひだまりの縁側で…】2024年 重大チコニュース/Q.2024年の反省点は?
という5つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。
1.のカニの疑問は、「カニはなぜ大量養殖で値段を下げられないのか?」という意味であり、放送では「共食いするから」が正解であると説明された。山本俊政さん(岡山理科大学)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- カニは他の海産物に比べると高くなっている。じっさい、品目別取扱高(円/kg、東京都中央卸売市場、鳥取県漁業調整課)を比較すると、
- マダイ(天然) 1054円
- まぐろ 3689円
- 赤エビ 3064円
となっているのに対してカニの値段は、
- タラバガニ 6187円
- 松葉ガニ 8243円
- 毛ガニ 10178円
というようにかなり高いことが分かる。2019年には鳥取県の最高級ブランドガニ『五輝星』に1匹500万円の値がつき、史上最高額のカニとして世界記録に認定された。
- 私たちが食べる海産物には天然物と養殖物があるが、私たちが食べているカニはほぼすべて天然物。
- 近年、温暖化や乱獲によりカニの漁獲量が減少。ズワイガニの場合、1968年に約6万1679トンだったものが2022年には約2674トンと、ピーク時から約96%も減少している。そのぶん値段が高くなっている。
- カニは共食いの習性がある。放送ではオーストラリア・クリスマス島のアカガニが、海岸に卵を産みに来た時にそこにいる子どものカニを食べている様子やサワガニが共食いをしている様子が紹介された。
- カニは本来雑食性であり、魚、貝、植物などを食べているが、縄張り意識が強いため、同じ空間に複数いると共食いすることがある。
- ズワイガニはお互いが共食いしないよう、稚ガニは水深1000〜1500m、幼ガニは1700m、成体は200〜400mというように棲み分けしている。
- 共食いは大きい個体が小さい個体に対して行う。サイズが同じカニでは共食いは起こりにくい。
- 以上の理由から、カニを養殖するには1匹ずつ個別飼育をする必要がありコストがかかる。
- 共食いのほか、カニの成長スピードの問題もある。出荷までの成長スピードは、
であるのに対して、カニは、
と言われており、カニの養殖は割が合わない。海で獲ったほうが圧倒的に効率がいいので誰も養殖しない。結果的に値段が高くなる。
放送では続いて、カニの養殖にチャレンジした山本俊政さんの苦労話が紹介された【要約・改変あり】。
- 2015年、種子島の町おこしとして、ノコギリガザミというカニの養殖に初めてチャレンジした。
- 10個に仕切った養殖池で、バングラデシュから仕入れた4000匹の稚ガニを放流。
- 共食いを避けるため、瓦でシェルターを作るなど工夫。
- 種子島特産の安納芋をエサとして与えるなど気合いが入っていた。
- しかし4か月後に池の水を抜いたところ、5000匹以上の放流で生存率は7%。同じサイズのカニどうしは共食いしにくいはずだったが、池の中で予想以上に密集してしまったため共食いが起こってしまった。
- 翌年、再びバングラデシュから飛行機に積んでカニを仕入れようとしたところ、一緒に積み込んだ温度計や酸素濃度の計測器が保安検査で引っかかるというトラブルがあった。それを乗り越えて再び養殖にチャレンジ。しかし、
- 酸素の供給量を前年より多くしたところ元気よくなりすぎて共食いが増えた。
- 安納芋のほか島で採れたきびなごをエサとして与えたところ、カニの甲羅が色に変色し、出荷品質にならなくなった。
といったトラブルが生じた。それでも2年目の生存率は前年の7%から22%にアップした。
- 目標としていた生存率60%には遠く及ばなかったため、コストが合わず、養殖のプロジェクトは打ち切られた。
- 山本俊政さんは現在、ベトナムで新たなカニの養殖実験を行っている。ベトナムでは1匹ずつ容器に入れて個別飼育を行っており、魚の養殖並みの生存率70%を目指せるところまできている。
- 【補足説明】放送ではカニは養殖に向いていないとされたが、中華料理の高級食材である上海ガニは養殖が行われている。中国の広大な養殖池ではカニどうしの距離が取れているので共食いを防げている。特別な人工のエサを与えることで、約1〜2年の生育期間で出荷できる。
ここからは私の感想・考察になるが、共食いの習性が養殖を困難にしているというのは今回初めて知った。これは、「魚介類が養殖できるための条件を挙げてください」といったクイズ問題にも使えそうだ。養殖できるための条件として普通思いつくのは、
- 人工的な飼育環境が作れる←その魚介類の生育に適した水温、酸素濃度、水深などを用意できること。なので深海魚の養殖はコストがかかりすぎて難しい。
- 狭い空間でも生育できること←マグロのように常に泳いでいないと生きられない魚は養殖が難しい。
- 人工のエサを食べること←天然の生き餌しか食べない魚は、生き餌を供給できない限りは養殖が難しい。
- 病原菌に強いこと←集団飼育という環境では感染症に罹りやすくなる。かといって抗生剤を大量に投与すると人間が食べた時に悪影響が出る。
などが挙げられるが、今回解説されたように、忘れてはならないもう1つの条件は「共食いしないこと」であった。
ここで改めて『共食い』について考えてみるが、そもそも動物は同種の個体を共食いしないような何らかの抑止システムを備えているはずである。見境つかずに同種を食べてしまうような習性があると殺し合いが起こって自己消滅してしまうはずだ。共食いしないような習性を身につけた種だけが生き残ったと言うこともできる。もっともいくつかの環境や文脈では、ある程度共食いしたほうが繁殖にプラスに働く場合がある。まず自分自身で思いつくままに挙げてみると、
- 縄張り争いの結果としての共食い←個体の生存を維持するため縄張りが有用である場合
- 同種ではあるが自分の子孫ではない卵や子どもを食べる←自分の遺伝子を増やすという生物本来の目的にかなっている。
などが考えられる。ウィキペディアにはさらに詳しい解説があり、要約引用させていただくと、
- 一般に異常な現象と考えられがちであるが、必ずしもそうではない。
- 逆に動物なら個体間で殺し合うのが当たり前と言う見方もあるが、これも正しくない。一般に食う食われるの関係は異種間で成立するものであり、同種個体間で無制限に共食いが行なわれる状況があれば個体群が成立しなくなるなど進化的に安定とは言えず、そのような行動は避けるように進化が進むと考えるべきである。したがって、それでもみられる共食い行動はそれなりに独特の意味を持っているものと考えられる。
- 以前は共食いは単なる極限の食料不足や人工的な状況の結果で起こると信じられていたが、自然な状況でもさまざまな種において起こり得る。実際に科学者達はこれが自然界に遍在していることを認めており、水中の生態系では特に共食いは一般的であるとみられている。最大9割もの生物がライフサイクルのどこかで共食いに関与しているとみられる。
- 【共食いには、偶発的なもののほか、習性となっているものがある】
- 配偶行動に関するもの:クモやカマキリ
- 繁殖に関するもの:幼虫が親を食べる。未受精の卵を食べる。
- 成長段階に見られるもの。
- 単なる捕食の一環。
- 密度効果
- 共食いと似通った行動としてチンパンジーの子殺しやライオンの群れの支配者交代時などがある。これらの行動では雌に子育てを中断させ発情させ、交尾して自分の子孫を残す事が目的であり、このとき殺した子を食べる例もあるが、必ずしもそうでなく、まったく食べない例もあるという点で共食いとは別に扱われる。
人間の間の共食いは『カニバリズム』と呼ばれるが、特殊な事例が多い。
素人なりに見れば、カニの養殖を成功させるには、共食いの習性に関わる遺伝子を取り除く、特殊なホルモン・薬物により攻撃性を低下させる、といった方法が考えられる。とはいえ、これは養殖一般について言えることだが、抗生剤や(成長を早める)ホルモンなどを投与すると、それを食べた人間の健康に重大な影響を及ぼす恐れがある。また養殖を行っている場所での環境汚染にも目を向ける必要がある。
次回に続く。
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