【連載】チコちゃんに叱られる! 深海魚が光る理由と陸上生物が光らない理由
1月10日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。なお、岡山では金曜日には別番組が放送されており、岡山県民にとっては1月11日(土)9時からの再放送が実質的な初回放送となった。この日は、
- 深海魚が光るのはなぜ?
- なぜ子どもはぬいぐるみを好きになる?
- ひつまぶしとひまつぶしを見間違えるのはなぜ?
という3つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。
放送では深海魚が光るのは酸素が毒だから
発光生物の生態に詳しい近江谷克裕さん(産業技術総合研究所)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- 深海魚とは水深200mより深いところに住む魚類のことをいうが、その8割以上が光ると言われている。その光を利用して過酷な深海を生き抜いている。
- 光を使った深海サバイバル術としては以下のようなものがある。
- 獲物をとるためのトラップ:水深200m〜4000mに生息するチョウチンアンコウはアンテナのような発光器をエサに見せかけ、獲物をおびき寄せる罠とすることで効率よくエサを食べている。
- 水中に溶け込む:水深100m〜1000mに生息するヨロイザメは敵から自分の身を隠すためにお腹の部分が青白く光る。深海200mでは太陽の光が青白く届くため、さらに下にいる敵からは体全体がシルエットのように見えてしまい狙われやすくなる。お腹を光らせることで、海の色に溶け込ませて身を隠している。
しかしこれらの生き延びるための技は、結果的に光を利用しているだけである【もともそその生物が別の理由で身につけた発光能力が、結果的に役立ったことで生き残った】。もともと光るようになった理由は別にある。
- 深海魚が光るようになったそもそもの理由は酸素が毒だから。
- 人間を含めた多くの生き物は多くの生き物は酸素をエネルギーに変える仕組みを使っているが、同時に酸化という現象も起きて体に悪い影響を及ぼす。
- 人間の場合、酸素は肺に取り込まれ血管から全身の細胞へと届けられ、食べ物などの栄養を結びつくことで心臓を動かしたり体温を上げたり物を考えたりといった生きるためのエネルギーを作る。
- しかし、エネルギーを作る過程で一部の酸素は『酸化』という現象を起こす。例えば金属のサビも『酸化』の1つ。酸化することで体の組織の形が変わり壊れてしまう。
- 人間の体では、できるだけ酸化を防ぐために呼吸を行いエネルギーを作るとともに、およそ98%の酸素は二酸化炭素に変えて体の外に出し、酸素を無毒化している。
O2+C6H12O6→CO2 & エネルギー
- 深海魚の祖先も酸化を防ぐために酸素を光るエネルギーに変え始めた。
- 酸化を防ぐための発光は、大昔の地球の大気が変化したことで備わった生きるための術。
- 今から35億年前の地球の大気には酸素が無かった。酸素が無い地球で、酸素を必要としない生命が誕生した。
- その後、光合成により酸素を作る生物シアノバクテリアが誕生し、大気中に酸素が増加。
- これにより、酸素に対応できない細胞生物の多くは死滅。酸素を活かすように進化した生物が繁栄。
- 光る生物はより多くの酸素を無毒化するために、酸素を光のエネルギーとして使い始め、深海で生き抜くために利用するようになった。
- 酸素を消費するために光る仕組みは2つある。
- 光るプランクトンを食べる:カイアシ類などのプランクトンは酸素と反応して光る物質『ルシフェリン』と『ルシフェラーゼ』を持っている。深海魚はそれを食べて蓄え、取り入れた酸素と結びつけることで強い光を放ち、より多くの酸素【生命維持に必要な酸素意外の余った酸素】を【光を放ったことで生成される】二酸化炭素に変えて体の外に放出し、酸素を無毒化している。
- 発光バクテリアを体に住まわせる:チョウチンアンコウは発光器の先にバクテリアを住まわせている。アンコウは酸素をそのバクテリアに送り込み光をコントロールしている。
放送ではさらに、深海生物が放つ光の映像がいくつか紹介された。
- 深海魚がつくる天の川:目の下に発光器を持つヒカリキンメダイの群れ。浅瀬に集まり光でプランクトンをおびき寄せて食べている。
- 深海に漂う宇宙船:アミガサウミクラゲ。体全体が網目のように光る。敵を驚かせて逃げると考えられている。特にクラゲは光を放つ種類が多い。放送では、クロカムリクラゲ、ムラサキカムリクラゲが紹介された。
- 深海にうごめくエイリアン:ドラゴンフィッシュは目の下に発光器を持ちその光で獲物を探すがごく稀に体全体を光らせることがある。放送では全身が光る貴重映像が紹介された。ドラゴンフィッシュがなぜこれほど多くの発光器を持っているのかは未だ解明されていない。
- さらに身近な発光生物の映像がいくつか紹介された。
ここからは私の感想・考察を述べさせていただくが、放送ではもっぱら海の生物が美しく光る映像に感嘆の声が上がるばかりで、そもそもの「深海魚が光るのは酸素が毒だから」という解説に対してはそれ以上詳しく語られることが無かった。
しかし、よく考えてみると、今回の解説だけではまだ納得できない点がある。そもそも「深海魚が光るのはなぜ?」は、正確には以下のように書き換えることができる。
●ホタルやツチボタルなどを除いて陸上生物は殆ど光らないのに対して、深海生物ではなぜ8割以上が光るのか?
今回の「酸素が毒だから」というのは、深海生物ばかりでなく陸上生物にも共通して当てはまるはずだが、このことについては何も言及されていなかった。ということで私なりにいくつかの理由を考えてみた。
- 陸上生物、少なくともは両生類、は虫類、哺乳類などでは、余分な酸素を排出するための肺機能が高度に発達したため、「光を放つことで酸素を二酸化炭素に変える」仕組みが必要ではなくなった。肺を持たない昆虫も「気管」で酸素と二酸化炭素を直接交換して呼吸する仕組みが進化したため、ホタルのような別の理由が無い限りは光を放つ必要が無くなった。
- 地上に比べると深海のほうが酸素が多いため、深海生物は呼吸器機能とは別に余分な酸素を排出する必要があった。念のためCopilotに「1立方メートルあたりに含まれる酸素は、地上と深海ではどちらが多いですか?」と尋ねたところ、以下のような回答をいただいた。
- 1立方メートルあたりの酸素の量を比較するには、それぞれの環境における酸素の溶解度や圧力、気温などが影響を与えます。
- 地上:地上では、酸素は主に大気中に存在します。標準大気圧下での酸素濃度は約21%で、大気中の酸素濃度は一定しています。
- 深海:深海では、水圧が非常に高く、酸素の溶解度が異なります。深海の酸素濃度は水圧と温度の影響を受けますが、一般的に深海の冷たい水には酸素が良く溶け込みます。
- 地上の大気中と深海の水中では、深海の水の方が単位体積あたりの酸素量が多い傾向があります。これは、水中の溶存酸素が高圧下で溶解しやすいためです。でも、具体的な比較はそれぞれの環境での溶解度や温度による変動があるため、場所によって異なるかもしれません。
ということで、「深海のほうが有害な酸素が体に入りやすい」という可能性はあるかもしれない。
- 陸上には光るプランクトンや光るバクテリアが存在しなかったので、陸上生物は光りたくても光ることができなかった。
- 深海に比べると陸上で光ることは敵に見つかるリスクを高めることになり、ホタルなどの特殊なケースを除けば生き残りに不利となった。
- 陸上には昼と夜があり自分が光ることが役立つのは夜のみ。深海は24時間ずっと暗いので、いつでも役立つ。
次回に続く。
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