じぶん更新日記

1999年5月6日開設
Y.Hasegawa
[今日の写真] 岡大構内の旧第四喫茶跡地に新しい建物が建てられることになった。第四喫茶自体は一昨年11/12に取り壊されていたが、このたび、入口付近にあった大きな松の木2本が時計台前の芝地の一角に移植されることになった。なお、同じく周囲にあったセンダンと桜の木は残念ながら切り取られてしまった模様。写真は、左側が移植直前の松の木、右側の取り壊し直前の旧第四喫茶。松の木の位置が同じであることをご確認いただきたい。

1月25日(火)

【思ったこと】
_00125(火)[心理]キャッチフレーズを読み解く(1):吉野川可動堰ディベート

 23日の日記でもちょっとふれたように、吉野川可動堰建設の賛否を問う住民投票が23日、徳島市で行われ、投票率54.995%、建設に反対とする票が90.14%という結果になったというが、じつはこの問題、私にはよく分からないところがあった。例えば
  1. 産業廃棄物処分場のように、自分たちの生活環境や水資源を悪化させる恐れのある計画
  2. 空港やダム建設のように、自分の生まれ育った土地が奪われるような計画
  3. 干拓や河口堰建設のように、自然環境を破壊する恐れのある計画
というような内容であれば、地元住民の一部から猛反対が起こることが十分に予想される。ところが、この可動堰建設計画というのは、私が聞いた限りでは周囲の自然環境や景観がまるっきり変わってしまうほどの大変更とも言えない。無駄な工事であると言っても、自分たちだけが払う地方税でまかなわれるわけでもない。1/24のNHK「クローズアップ現代」を見て、反対派の方の論理にスジが通っていることは理解できたが、だからといって、それが作られたら川の魚が全滅してしまうというほどの深刻さも無いように見える。にもかかわらず、これほど多くの投票があったということは、熱心に反対運動に取り組んでこられた方にはまことに申し訳ないけれど、少々奇異な感じがしてならない。

 では、どうしてこのような結果になったのだろう? どうやら建設省側が説得活動においてキャッチフレーズづくりに失敗し、逆に反発を与えてしまったことが、54.995%という高い得票に表れたのではないか、という気がしてならない。

 この問題に限らず、世の中はキャッチフレーズにあふれかえっている。念のため『新明解』でこの意味を調べてみると、
[広告などで]相手に強い印象を与えるために使う、短い効果的な言葉、うたい文句、惹句
となっている。
 この忙しい世の中、いちいち時間をかけて理詰めで相手を説得していくのはなかなか困難。聞き手側もそんな相手をしている時間的余裕がない。そんなことよりも、分かりやすいうたい文句で人の心を惹きつけたほうがよっぽど効果的。そしてそのためには、相手が「これは絶対に正しい」、「これなら賛成」というように「当たり前」であると考えている内容に如何に結びつけていくか、そこで如何に琴線に触れるかというテクニックが大きく物を言うことになる。

 さて、今回のケースで反対派はどういうキャッチフレーズを使ったのだろうか? 事後的な解釈になるけれども、いちばんインパクトを与えたのはどうやら
吉野川に一票を!
であったように思われる。このほか
  • 「徳島123」
  • 「川の未来は自分たちで決めたい」
  • 「(建設省は)可動堰でなければダメだという脅し文句を使っている」
なども、ふるさとの川として吉野川を愛する徳島市民に強いインパクトを与えるとともに、徳島市民はそんなに無能ではない、自分たちこそ2000年代の公共事業や環境政策のあり方を方向付ける先陣だという形で誇りを与える内容を含んでいた。

 いっぽうこれに対して建設省や徳島県が提示したキャッチフレーズは何だったのか? 新聞記事をざっと調べてみると(2/5に関連記事あり)
  1. 「住民投票は住民に責任を押し付けることになる。私たちにお任せを」(2/6朝日新聞記事)
  2. 「住民感情がもつれることがあってはならない」(2/6朝日新聞記事)
  3. 「住民の生命、財産を守るのは住民投票以前に行政の責任だ」(2/6朝日新聞記事)
  4. 「多数決で決めるのは政治の場だけの話であって、技術的、科学的、土木工学的な根拠を要するものは投票行動の範囲外だと思っている」(2000年1月:中山建設相記者会見)
  5. 「(水害の)被災予想地の四分の一の方々の意見を誇大視していたら、三十万の推進署名をしてくれた方々の気持ちを無視することになる。将来(水害で)命を落とす人がないようにしたい」(1/21:中山建設相記者会見)
  6. 「(住民投票について)民主主義における投票行動の誤作動と思う」(1/21:中山建設相記者会見)
  7. (賛成派の一部が投票ボイコットを呼びかけていることについて「公職選挙法の適用を受けないのなら、どんなことをしてもいいんじゃないか」(1/21:中山建設相記者会見)
  8. 「投票に行かなかった人の気持ちも考えたい」(1/24:中山建設相記者会見)
  9. 「(徳島市長の反対表明は)洪水になれば、三万人が被害を受けることを考えたうえで、選挙で選ばれた政治家が決めたこと。一役人がコメントするべきではない」(1/25:建設省徳島工事事務所長)
といったような内容であった。これらについて個別のコメントをする余裕は無いが、要するに、反対派が徳島市民の自主性、知性、誇りに訴えたのに対して、賛成派は「お前らに口出しする権利は無い」というように完全に相手を軽んじる姿勢をとっていた。反対派のロジックに専門家からのしっかりしたサポートがあったことはもちろんであるが、「口出しするな」に反発して投票に行った人も居るのでは、ひょっとして投票を成立させた最大の功労者は建設相の挑発的な発言にあったのではないかと思ってみたりする。

 学術上の論争と異なり、納得を与えるキャッチフレーズは必ずしも科学的根拠に基づくものとは限らない。私自身はこれまで、一般教育の授業や行動科学概論の中でもそういうものを「話術」として批判し、「あっさり納得せず、本当はどうなっているのだろう」というクリティカル思考を推奨する立場をとってきた。

 しかし、そもそも人間行動は論理的推論に基づいて因果関係を冷静に把握した上で実行にうつされていくものではない。「行動随伴性」という行動分析学の基本概念は
行動に随伴する結果は、因果関係に基づいて必然的に生じた結果であろうと、偶発的に伴った結果であろうと、同等の効果をもつ。効果の違いは、あくまで結果随伴(強化)と非随伴(消去)の頻度によって決まる
ということを前提としている。また、「〜すれば〜になる」という形のキャッチフレーズは有用なルール支配行動を形成できる可能性をもっている。とすれば、ある程度の科学的根拠をもつことと、クリティカルな思考があることを前提にしつつも、より有効な「キャッチフレーズ」づくりをめざすことで、より活気にあふれた人生や社会を構築できる可能性があることにも目を向ける必要がある。これを機会に、不定期ながら、いろいろな形で提示されているキャッチフレーズが何を背景として成り立っているのか、本当はどうなのか、どういう効用があるのか、読み解いていく連載を開始したいと思う。
【ちょっと思ったこと】
  • 昨日に続いてNHKの「クローズアップ現代」を見た。この日は、24日の日記昨日の日記でもとりあげた「3000万円で部長にします:リストラ時代の新詐欺商法」という話題。このニュースで1つだけ疑問に思うのは、NHKがあれだけ大きく取り上げているのに、朝日新聞にはそれに該当する記事が見あたらない。何か事情があるのだろうか。

【スクラップブック】
  • 1/26の朝日新聞によれば、TOEFLの1998年7月から1999年6月までの受験結果が公表。日本の平均点は501点で、初めて500点を上回ったものの、アジア21カ国・地域の中では18位。ちなみに最高はフィリピンの584点(受験者92名)、インド583点(30658名)、以下スリランカ、中国、ネパールの順。なお受験生の数は日本が一位で10万453名、二位が中国で70760名、以下、韓国、台湾、インドとなっている。
【今日の畑仕事】
レタス、チンゲンサイ、ホウレンソウ収穫。