じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
【思ったこと】 _50619(日)[心理]社会構成主義と心理学の新しいかたち(1) 早くも来年度の授業科目と担当者を協議する時期となってきたが、心理学の世界ではこのところ、50年あるいは100年に一度と言ってよさそうな大きな変化が起こりつつある。その変化を授業内容にどう取り込むのか、いろいろ迷っている。 第一の変化は、このところ次々と、『心理学の新しいかたち』シリーズが刊行されていることだ。いずれも誠信書房から出版されているものであり、最新情報は誠信書房のリストでチェックすることができる。今年の春にはもう1つ、『新・心理学の基礎知識』という本が出版された。この本の初代とも言える『心理学の基礎知識』は私が高3の時に発刊されたものであり、内容は全面的に刷新されている。私が担当している「心理学概説」でもさっそくこの本を教科書として採用している。 大きな変化の二番目は、質的心理学の台頭である。昨年9月の第一回大会が大盛況であったことはこちらの報告にも記した通りであるが、その影響もあって、卒論・修論研究でも、従来の伝統的な実験的方法や質問紙調査法に変わって、面接を主体とした質的方法を取り入れた研究が大幅に増えてきた。しかし、少なくとも卒論のレベルでは、単に話を訊いてきた、それをそっくり活字に直してみた、という程度の報告集程度に終わってしまうことが多い。となると、基礎的な授業の中でも、もう少し、その基本を教えていく必要がある。しかし、そのことに時間をかければ、統計解析や実験的手法を扱う時間は削減せざるを得ない。というか、いったん質的研究に興味を持ってしまうと、統計や実験への関心はたちまち薄れてしまうという傾向がある。 大きな変化の三番目、そして、おそらくこれが一番インパクトが大きいのではないかと直感しているのが、社会構成主義の影響である。社会構成主義の考え方そのものはずいぶん昔から紹介されており、Googleではなんと140万件もヒットするが、私の知る限りでは、心理学界への影響はこれまできわめて限られていた。しかし、昨年11月に ●あなたへの社会構成主義 という非常に分かりやすい翻訳書が刊行され、上記の質的心理学の台頭と相まって、心理学界に大きな変化をもたらしつつあるというのが私の直感である。 ちなみに、この翻訳書の原題は『An Invitation to Social Construction』、つまり“社会構成主義への招待”あるいは“社会構成主義入門”と訳すべきタイトルであったのだが、それを「あなたへの」と変えてしまったのはスゴイ。訳者の東村さんとは一度もお会いしたことは無いけれども、「2000年京都大学総合人間学部卒。2002年京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程を経て現在、同大学院人間・環境学研究科博士後期課程にて研鑽中。」という新進気鋭の社会心理学者。 この東村さんの指導教授にあたるのが杉万俊夫先生。もう一つの社会心理学 社会行動学の転換に向けて(1998)の訳書で社会構成主義を紹介しておられるが、とりあえず、ネット上の ●社会構成主義と心理学「心理学論の新しいかたち」(誠信書房、近刊) というコンテンツでその概要を学ぶことができる。 以下、不定期ながら、社会構成主義の影響について、考えるところを述べていきたいと思う。 |