じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
【思ったこと】 _60530(火)[教育]第54回 中国・四国地区大学教育研究会(4)大学ランキングの功罪(2) 連載の4回目。昨日に引き続き、清水建宇氏の話題提供に関して感想を述べることにしたい。 清水氏によれば、『大学ランキング』は ●「社会」が「大学を選ぶ」ために、「ステークホルダー」(直接・間接的に関係する者、ここでは受験生主体)に向けて、「相対評価」を行う。 ことを目的として刊行されているという。しかし、昨日も述べたように、
ところで、『大学ランキング』は本当に、受験生の大学選びに役立っているのだろうか。私のところにも、大学3年と高校3年の子どもが居るが、少なくとも私の家では、2100円も払ってそんな本を買った覚えは無いし、新たに購入の予定も無い。 受験生自身、あるいはその親にとってのいちばんの関心事は、どのレベルの大学なら合格可能性があるか、そのためにはどのくらいの受験勉強が必要かということである。もちろん、志望先の学問領域についての大雑把な興味が前提にあることは言うまでもない。しかし元来、専門分野への興味というのは、それを真剣に学んだ上で初めて沸いてくるものであって、受験する前から、この学問をぜひとも学びたいという確かな志望動機を持つことは原理的に不可能である。とにかく、せっぱ詰まった状況の中で、何百もの比較項目を閲覧して大学選びなどをしている余裕は無い。 では、医師になりたい、というような、将来の職業についての具体的な目標がある受験生ではどうか。そう言えば、今回のシンポでは、たまたま、医師国家試験合格率のランキングが事例として配布されていたが、2005年度のランキング表によれば、合格率のいちばん高いA大学は100%、いちばん低いB大学は74.8%となっていた。ちなみに東大は96.2%で第7位、京大は87.1%で58位にランクされていた。しかし受験生がこの表を眺めて、B大学よりも合格率の高いA大学を選ぶかと言えば、そういうわけにはいかないだろう。まずは自分自身が、A大学、B大学を含めて、すべての医系大学(学部)それぞれにどの程度の合格可能性があるのかが重要である。その上で、入学金、授業料、教育内容なども選択の重要な決め手にはなると思うが、とにかく、当面重要なことは、入学試験の合格可能性を高めることである。(入学試験の合格率)×(国家試験合格率)というような確率の積で志望先を決める受験生はまずあるまい。 ということで、あくまで身近な事例に基づく推測にすぎないが、受験生が『大学ランキング』を手がかりに大学を選ぶという刊行目的は、かなり疑わしいのではないかと思ってみたりする。けっきょく、 ●各種ランキングで上位を目ざさないと、受験生から人気がなくなり、定員割れなど大変なことになる というプレッシャーを与えているだけであって、実際にランキングを気にしているのは、受験生ではなくむしろ、大学関係者のほうではないかという気もする。 最後に、フロアからの質疑のところでぜひとも発言したかったことであるが(←挙手したものの、時間切れで指名されなかった)、もし、清水氏や朝日新聞社が、こういうランキングを本当に意義深いものであると考えておられるなら、一冊2100円で販売するというようなビジネスではなく、パブリックドメインとして、広くWeb公開するのがスジであろうと思う。本として売ることを前提とする限りは、掲載項目は、どうしても、読者の興味に合わせて取捨選択される。しかしそれでは、種々のデータを公正に網羅できるとは限らない。また、膨大な量の質的データを加えることも、出版のコスト上、不可能。であるならば、少なくとも詳細データについてはパブリックドメインとして広くWeb公開し、どうしてもビジネスにしたいなら、あくまでデータの一部だけであると断った上で、本として出せばよいのではないかと思う。 次回に続く。 |