じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]
西日を浴びる岡大・文学部とケヤキの黄葉。2枚を合成してみた明度調整はほぼうまくできたが、撮影時刻がちょっとずれただけなのに、雪雲の動きが速く、境目が目立ってしまった。


12月4日(月)

【思ったこと】
_61204(月)[心理]日本心理学会第70回大会(11)その安全対策は有効ですか?(2)作業現場での安全行動

 日本心理学会第70回大会シンポジウム:

●その安全対策は有効ですか? 〜心理学の視点で考える交通・産業・医療のヒューマンエラー・違反の防止策〜

の感想の続き。

 シンポではまず、Y氏から企画趣旨説明が行われた。日常生活場面の事故というのはしばしば、

●なぜそんなことが?

という形で生じることが多い。第三者から見れば、ちゃんと気をつけてれば絶対に起こるはずが無いのになぜ起こってしまったのか。それを防ぐ手だてはないのか。機械に頼れば頼るほど、人間側の見落とし、怠慢、手抜きなどによって事故が起こる危険性がますます高まってきたとも言える。

 ここ数年の出来事を見ても、例えばJR福知山線の事故、プール取水口事故、医療事故などは、いずれも人間側のミスによって生じた事故と言える。なお、Y氏は、「飲酒事故」や「耐震偽装」も例に挙げておられたが、これらは犯罪であってミスとは言い難いように思う。共通原因があることは確かではあるが。




 続いて3名の方から話題提供があった。1番目のU氏は

●産業界の安全活動の現状と課題

という示唆に富むものであった。

 U氏によれば、労働安全衛生法が昭和47年(1972年)に制定されて以降、労働災害死亡者の数は昭和52年頃までに約6千数百人から3千数百人に半減、そしてさらに減少を続け、平成17年には1514名となるまでまで改善されている。しかし、その中で、建設業の事故が占める割合は全業種の33%、また、建設業の中で墜落災害が占める割合は約45%であり、この比率に傾向変化は無いという。

 実際の安全活動では、「KY」という言葉が使われるそうだ。何の略かと思ったら、「K(危険)Y(予知)」のことだそうだ。建設現場では、日々、危険が予知される場所と対策を明示する。さらには指差喚呼、標語、リヤハット活動(ハインリッヒの法則に依る)など、さまざまな対策がとられているが、まだまだ、人間行動の面での問題点が残されている。U氏はこのことについて
  1. 現場作業員の注意力への過度の依存
  2. 活動のマンネリ化、自動化、形骸化
  3. 正の強化子の欠如
  4. 目標達成を偏重することによる弊害
などを挙げておられた。

 このうち、2.は、行動論的に言えば、

●何かを弁別するという行動に結果がちゃんと伴っているか

に依存しているのではないかと思われる。例えば、車で交差点を左折する時は、歩行者が横断しているかいないか、左手前方と後方に目を配る必要がある。適度の頻度で横断者がある場合は、
  • 横断者あり→一旦停止、横断を待つ
  • 横断者なし→左折
というように弁別が適切に機能している。ところが、横断者が1年に数回しか現れないような交差点では、常に「横断者あり」と「横断者なし」という弁別行動が強化される機会が全く無いため、マンネリ化が進む。危険の確率があまりにも少ないと、逆にマンネリ化が起こりやすくなるというのは、行動の法則上、当然予想される。

 3.の「正の強化子の欠如」というのは、要するに、安全であるという状態は正でも負でもない中性的な平穏状態であって、せっかく努力しても報われるものが無いということだ。しかし、これは、マロットの「阻止の随伴性」原理を導入すれば強化は可能である。すなわち
  • 安全行動を続ける(行動あり)→無変化 
  • 安全行動を怠る(行動なし)→やがて嫌子出現、もしくは好子消失
という嫌子出現阻止(もしくは好子消失阻止)の随伴性を導入すればよいのである。「嫌子=事故」ではたまったものではないから、「好子消失阻止」を付加するのが一般的だ。じっさいにはこの随伴性は広く導入されており、交通違反の反則金などがこれに該当する(道路交通法で定められた安全確認行為を怠る→反則金支払いという好子消失)。

 4.の「目標達成を偏重することによる弊害」というのは、「無事故連続○○日」などの記録が競争化すると、軽微な事故を覆い隠すという意味。また、いったん999日で連続記録が途絶えてしまうと、再び1000日にチャレンジする気力が失せてしまうという問題もあるだろう。

 次回に続く。