じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]
12月18日の朝はよく晴れ、南東の空には月齢27の月と木星(写真左端)がよく見えた。小型望遠鏡で位置を確認したところ、火星もかろうじて肉眼でとらえることができた。


12月17日(日)

【思ったこと】
_61217(日)[一般]ワーキングプア再考(2)女性たちの悲鳴

●NHKスペシャル「ワーキングプアII努力すれば抜け出せますか

という番組の感想の2回目。この番組では
  1. まじめに働いても努力が報われず、生活保護水準以下の暮らしを強いられている"ワーキング・プア"が存在する。
  2. これ以上の自助努力を求められるだろうか。
  3. 問題を先送りすると若い世代の人たちが未来への夢や希望を持てない社会になってしまう。
  4. 競争社会をこのまま突き進むのか、それとも別の社会をめざすのか。ワーキングプアの問題は私たち一人一人にまさにその選択を迫っている。
ということが主張されていたように思う。このうち、1.は、映像が語っている通りであり、確かに深刻な問題だと思う。しかしこのことが、2.〜4.の論拠になりうるかどうかは直ちには言えない。映像はしばしば強い共感をもたらすものであるが、必ずしも理性に訴えているとは言えない。もう一度、各事例について、それが本当に2.〜4.の論拠となりうるのか、検証してみる必要があるのではないかと思った。

 そこで、今回紹介された事例を順番に見ていこうと思う。昨日も述べたように、この種の事例を一般化目的で検討する際には、

【1】そういう事態がなぜ起こったのか。それを防ぐ手だてをどうするか。
【2】起こってしまっている事態にどう対処するか。

という2つの面から考えていく必要があると思う。このうち1.は事例の当事者にとってはもはや「今さらそんなこと言われても」という検討にしかならないが、他者の教訓として活かす上では重要だ。いっぽう2.は、特例的に支援すべきなのか、制度全体の改正をもって対処すべきなのかという視点から捉える必要がある。




 さて、番組ではまず「女性たちの悲鳴」というテーマで2つの事例が紹介された。

ケース1:Sさん(31歳)
  • パートで働く母子家庭の母親
  • 19歳で結婚し退職、しかし3年後に離婚
  • 小4と小6の男の子
  • 睡眠時間4時間
  • パート昼と夜の2カ所掛け持ち
  • 食費・生活費は月に22700円
  • 児童扶養手当を毎月4万円支給されていたが、2年後には最大2万円まで減額
  • 自助努力支援策を受けたくても昼間の仕事を辞めるわけにはいかない
 このケースでまず疑問に思ったのは、他の家族はいったいどうしているのだろうかということだ。母親は19歳で結婚し3年後に離婚したという。TV番組という性質上、プライバシーに立ち入ることはできないのは当然であるとしても、主たる原因が夫にあったのか、両者の協議による離婚であったのかは重要なカギである。前者の場合は当然、夫に慰謝料を要求すべきであろう。また協議による離婚の場合も、幼い子どもをどちらが育てるのか、また仮に母親側が引き取るにしても、養育費の一部は夫が負担するというような約束をしたうえで離婚すべきではなかったのか。さらには、母親の両親や別れた夫の両親はどうしているのか。こういう情報が無いと、私にはどう判断してよいのか分からない。伝えられた範囲の情報だけからは、このケースは「競争社会の弊害」というよりは家族崩壊の象徴であるようにも見えてしまう。

 このケースの母親は19歳の時に結婚し、同じ年に長男を出産した模様である。19歳と言えばまだ未成年。少子化時代ということもあり、このように若い年齢で結婚・出産することは一概に無謀だとは言えないが、経済的に自立が難しいであろうということは当人たちにも分かっていたことではないか。また、そのように若い時期に結婚すれば当然、大学で学んだり資格をとるといったキャリア形成が困難になることは目に見えている。上記の「【1】そういう事態がなぜ起こったのか。それを防ぐ手だてをどうするか。 」という視点からこの事例を一般化するならば、けっきょく、

●少子化のスピードを和らげるためにも、若い年齢で結婚し子育てに励む家庭に対する支援策をもっと充実する必要がある。但し、現状では未成年で結婚・子育てを始めると経済的な自立やキャリア形成は難しい。このことを十分自覚し、将来の見通しを立てた上で結婚することが望ましい。

という結論にならざるをえない。




ケース2:Oさん(23歳)
  • 父と妹の3人暮らし。
  • 北海道の町立病院の給食(臨時職員として採用されたが、給食民間委託によりパートに)
  • 手取りは8万円。妹と併せて毎月の収入は16万円。
  • 人口が少ない町で求人は少ない。
  • 4年前に札幌の専門学校への推薦入学が決まっていたが、父が仕事を辞めたために年間120万円の学費が払えなくなったために取りやめ。
  • 父は10年前に離婚をきっかけにうつ病になり、仕事を辞めている。復帰も難しい。
  • 調理師の資格を取ったが、その町ではその資格を活かした働き口がない。かといって、病気の父親を残して単身で都会には出られない。
 ケース1と同様、この事例でも離婚が一因になっていることは否定できない。姉妹がこれだけ苦労しているのに、母親は何も手を差し伸べないのだろうか、それとも真にやむを得ない事情があるのか、ケース1と同様、TV番組の性質上この種の個人情報は伝えられないのでどう判断してよいのか分からない。

 次にこのケースでは、「4年前に札幌の専門学校への推薦入学が決まっていたが、年間120万円の学費が払えなくなったために取りやめ」と伝えられていたが、これって、もう少しいろんな手だてがあったのではないかなあ。専門学校ではデザインの勉強をしてゲームソフトメーカーへの就職を夢に見ていたというが、専門学校を卒業したからといって確実に就職できるわけでもなかろう。この女性は高校時代には校内でもトップの成績であったというから、もう少し学費の安い国公立大に進学することもできたはずだし、奨学金申請や、授業料免除などの手続をとることだってあったはずだ。番組で伝えられた限りの情報では、それらの可能性を尽くしていたのかどうかがイマイチ分からない。

 もう1つ気になるのは、職場復帰が難しいという父親の病状である。番組で伝えられた限りでは、どうやらこの父親は部屋に籠もりっきりになっているように見えた。これでは治るものも治らない。「父親の世話をしなければならないので小さな町から出られない」ということであったが、いっそのこと、一家で札幌に引っ越しし、父親にはちゃんと入院してもらうか、しかるべき支援施設からサポートを受けたほうが改善につながるように思えた。但し父親が現在どういう状況にあるのか(病状、保険、年金など...)が分からないので、これ以上のことは何とも言えない。




 番組で伝えられた限りでは、上記2つのケースは、ワーキングプアの典型事例には必ずしもなっていないように思える。いずれも、まずは、非同居者を含めた家族間のサポートで大幅に改善できるはずだ。少なくとも「競争社会が悪い」とか「若い世代の人たちが未来への夢や希望を持てない社会になってしまう」という根拠にはなりにくいように思えた。

 また、いずれのケースでも、それぞれの地域で、民生委員などが適切な相談、アドバイス、サポートをしているのかどうか、少々気になった。7月に第一弾の番組が放送された時には1400件を越える手紙やメイルが寄せられたというが、これって、もしかしたら、それまでどこで相談してよいのか分からずに悶々としていたということだろうか。どういうケースであれ、まずは地域でどう対処しているのか、相談先がちゃんと機能しているのかを検証する必要もあると思った。

 次回に続く。