じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]

 道路ミラーに映る日の出(写真上)と月(写真下)。5月29日の早朝と夜に撮影。同じ日に、日の出の写真と月の写真を撮れる機会は滅多にない。
 なお、ここには2つのミラーが取り付けられており、向かって右方向を映すミラーに日の出、左方向を映すミラーには月が映っている。夏至が近く、日の出の方向が北東となるため、右側のミラーに映るため。2003年12月2日の日記に関連記事あり。



5月29日(火)

【思ったこと】
_70529(火)[教育]第55回中国・四国地区大学教育研究会(2)初年次教育と教養教育

 表記の大会のメモと個人的感想の2回目。

 川口氏の講演の後半では、学部初年次教育と教養教育の話題が取り上げられた。

 前回の述べたように、全国の大学で実施されている教養教育が驚くほど多様である。しかしその中には、「幅広く深い教養および総合的な判断力を培い、豊かな人間性を涵養する」ことを目的とした教養教育とは別に、「情報リテラシーの向上」や「外国語によるコミュニケーション能力の育成」といった具体的なスキル獲得を目的にした科目も含まれている。近年ではさらに、
  • 入学者が、大学という新しい環境に移行し、学習面や生活面において適応しなければならない。
  • この問題の解決を大学が組織的に支援し、教育成果を高める。
を目的とした「学部初年次教育」が重視されるようになった。もともと、学習面や生活面での適応などというのは、学生個人個人が自ら対応してきたはずであったが、大学教育のユニバーサル化の中で、「大学で自力で学習する学力を必ずしも持たない高等学校卒業生が大学に入学する」状況が生まれ、それぞれの大学の実情に合わせたサポート体制を確立する必要が出てきたのである。ちなみに、川口氏によれば、学力の低下が問題なのではなく、学力の質が変わったことに問題の本質がある。

 初年次教育の充実は、買い手市場となり大学が選ばれるようになった時代において、切実な課題にもなっている。学生は4年間で学ぶことの1/3以上を初年次に学んでいるという米国の研究データもあるそうだ。また、入学後の挫折例は初年次に多く分布しており、初年次の移行をうまく乗り越えさせることが、学部4年間の勉学、さらには就職後の適応にもつながるという。

 ここでやや脱線するが、厳格な成績評価のもとで、留年生を多く出す大学、学部というのもある。これは、社会に対する質保証という点では肯定できるが、問題は、留年生にどういうケアをしているかという点にあるという。とにもかくにも、所定年限内での卒業率を高め、かつ、教育達成レベルを保つためにどのような工夫をするのか、が大学の知恵の拠り所であるという御指摘であった。




 では、どのような教育を行うことが求められているのか。それに対する川口氏のご提案は、
能動的学習(Active Learning)
  • 学生が自ら考えて理解するプロセスを重視する授業法
  • 確立された知識を系統的に伝授することを主眼にするのではなく、新しい知識や考え方を自発的に受け入れるプロセスを活性化する手法
  • すなわち、学生の「学習力」(←知識力ではない)を高める教育
であった。

 私自身は、学部内あるいは全学で、かねてより、「課題解決型」、「少人数」、「学部横断型」、「グループ協働型」の授業を提案しているところでもあるが、このタイプの授業は能動的な学習力養成に大きな効果があるのではないかと思っている。ちなみに、この能動的というのは中教審では「参加型」と呼ばれることがあるそうだ。「参加型」というのはまさに、こういうことになるのではないか。

 講演の最後のところで川口氏は、
  • 学習観の変化
  • 学習に対する大学(学校)文化の変革
  • 意識改革
という3点の重要性を説かれたが、うーむ、これだけではイマイチ具体性に欠けるなあ。しかし、結局のところ、この種の改革の取り組みは、それぞれの大学の実情を把握し、その大学の理念や教育目標に応じて独自に行われなければならないものであるからして、これならオススメというような万能薬的な方策は示しようが無いのかもしれない。評価の視点は普遍的だが、評価される対象は個別的、ということになるのだろう。


 次回に続く。