じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
【思ったこと】 _70810(金)[心理]日本行動分析学会第25回年次大会(5)行動の流暢性をめぐる議論(2)/まとめ 大会1日目の午後に行われた、 ●“行動の流れ”を制御する〜時間的行動指標を用いた応用技法の紹介と基礎研究からの提言〜 というシンポの感想の2回目から。 まずお断りしておくが、流暢性に関する研究は、流暢性を増すことが発達障害児等の支援に有用であるという前提で進められている。しかしこれは、一般論として流暢性の高さを肯定するものでは必ずしもない。スローライフを志向する向きもあるし、セカセカと反応するより、1つ1つの行動の意味をじっくりと噛みしめることのほうが大切だという考えもあるだろう。ここで行われている議論はあくまで「流暢性を高める」ことを前提とした議論であって、その前提を受け入れるか否かは、それぞれの人自身のニーズ、価値観、ライフスタイルによって異なっているという点に留意していただきたい。 さて、昨日の日記でも指摘したように、発達障害児を対象とした流暢性研究と、動物を被験体とした反応率(反応レート)に関する研究では、反応を強化する仕組みがかなり異なっているように思われたが、それはそれとして、基礎研究に関する指定討論はなかなか興味深い内容であった。 1つは「変化抵抗(resistance to change)」という概念である。これは 定常状態となったオペラント行動に、反応を減少させる操作が加えられた場合のオペラント行動の減少の割合として定義される。但し、昨日も指摘したように、流暢性訓練における強化子(好子)は、第三者によって付加されたもの以外に、課題遂行自体に伴う結果、1つのセッション内での達成具合、累積的結果、結果の質がスキルの上達に伴って変化する可能性などがあり、変化抵抗の概念をそっくりあてはめるにはちょっと無理があるように思った。 もう1つは、反応率の微視的分析に関する指定討論であった。いっぱんに、反応率というと、5分間、30分間、...というような1つのセッションにおける総反応数だけから計算してしまいがちであるが、微視的に観ると、じつは、レバー押しやキーつつきのようなタイプの反応は、のべつ幕無しに起こっているわけではなく、反応期と休止期に分かれており、一口に高反応率と言っても、休止期が短くなっている場合もあれば、休止期は変わらないが反応期内の反応速度が速くなっているという場合もある。そして
さて、種々の学会年次大会や各種シンポジウムに参加した時は、遅くとも2週間以内にその感想をWeb日記に書くよう心掛けているところであるが、あいにく、11日夜から一週間ほど旅行に出かける予定となっている。旅行後に続きを書くわけにはいかないので、以下、大会2日目のシンポ、招待講演について簡単な感想を述べ、今回はこれをもって打ち切りということにさせていただく。 まず、2日目午前中には ●エビデンスに基づいた発達障害支援の最先端 という学会企画シンポジウムが行われた。このことに関して、別途、紀要論文で取り上げる予定であるので、ここでは省略。紀要論文下書きを兼ねて、旅行後にボチボチと考えを述べていくことにしたい。 2日目午後には、Catania先生による ●Delay of Reinforcement、the Operant Reserve, and ADHD (強化の遅延、オペラント貯蔵、そしてADHD) という招待講演が行われた。私自身は、卒論研究の頃に、このテーマに近い研究をまとめていたこともあり、その後の発展の様子を興味深く拝聴することができた。 講演内容を一口でまとめさせていただければ、種々の強化スケジュールにおける反応の出現パターン(累積記録のカーブの形)は、Operant Reserveを含む法則といくつかの前提によって、ほぼ確実に予測できるというもの。じっさい、コンピュータシミュレーションによる累積記録と、動物実験の結果は驚くほどに酷似していた。Catania先生ご自身から直接そういうお話を聞けて、30年数年前の学生時代に戻った気分になり感無量。 オペラント貯蔵の程度が、ADHDの「AD(注意欠陥)」の部分と「HD(多動性障害)」の部分に影響を及ぼすという仮説もたいへん興味深いものであったが、うーむ、仮にそれが正しいとしても、ADHDの改善にどう貢献するのかについてはよく分からないところがあった。また、基礎研究の範囲内においても、シミュレーションにあたっての前提が厳しすぎると結局、予測は限定的となるし、前提の数が多すぎると、簡潔な基本法則化には結びつかず、複雑な周転円で惑星の動きを説明しようとする天動説みたいになってしまうような気がした。ま、それはそれとして、とにかく、Catania先生ごからオペラント行動の講義を直接拝聴できたということだけでも大満足、今回の学会年次大会に参加したことは十分意義深いものであったと言える。 |