じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 2月15日の日出前の風景。東の空が明るみを増してきた頃にちょうど雪雲が空全体を覆い、地平線近くだけが帯状に赤く輝いていた。


2月14日(木)

【思ったこと】
_80214(木)[教育]大学教育改革プログラム合同フォーラム(6)特色GP学士課程(4)「学士力はどうやって測れるのか」(1)

 フォーラム1日目の午後に行われた、

特色ある大学教育支援プログラム(学士課程):パネルディスカッション

の後半では、「学士力はどうやって測れるのか」ということが話題となった。

 ここで念のため確認しておくが、私が理解している限りでは、「学士力」という言葉が公式に登場したのは、2007年9月頃のことであった。2007年9月10日付けの読売新聞記事では
中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の大学分科会小委員会は10日、大学卒業までに学生が最低限身に着けなければならない能力を「学士力(仮称)」と定義し、国として具体的に示す素案をまとめた。
と記されている。各種ネット記事を参照したところ、

中央教育審議会「学士課程教育の再構築に向けて」(審議経過報告) 平成19年9月18日
(大学分科会制度・教育部会学士課程教育の在り方に関する小委員会)

という報告の中に、

各専攻を通じて培う「学士力(仮称)」 学士課程共通の「学習成果」に関する参考指針

として、以下のような項目がリストアップされている。これは、今回の佐々木氏の基調講演の中でも言及されたリストと同一である(句読点、リスティング形式は、長谷川のほうで一部改変)。
  1.  知識と理解
    専攻する特定の学問分野における基本的な知識を、体系的に理解するとともに、その知識体系の意味と自己の存在を歴史・社会・自然と関連づけて理解する。
    • 多文化【←今回のフォーラムの佐々木氏の配布資料にあった表記。別資料では「他文化」と記されている場合もあり、未確認】・異文化に関する知識の理解
    • 人類の文化、社会と自然に関する知識の理解

  2.  汎用的技能
    知的活動でも職業生活や社会生活でも必要な技能
    • コミュニケーション・スキル
      日本語と特定の外国語を用いて、読み、書き、聞き、話すことができる。
    • 数量的スキル
      自然や社会的事象について、シンボルを活用して分析し、理解し、表現することができる。
    • 情報リテラシー
      多様な情報を適性に判断し、効果的に活用することができる。
    • 論理的思考力
      情報や知識を複眼的、論理的に分析し、表現できる。
    • 問題解決力
      問題を発見し、解決に必要な情報を収集・分析・整理し、その問題を確実に解決できる。

  3. 態度・志向性
    • 自己管理力
      自らを律して行動できる
    • チームワーク・リーダーシップ
      他者と協調・協働して行動できる。また、他者に方向性を示し、目標の実現のために動員できる。
    • 倫理観
      自己の良心と社会の規範やルールに従って行動できる
    • 市民としての責任感
      社会の一員としての意識を持ち、義務と権利を適性に行使しつつ、社会の発展のために積極的に関与できる
    • 生涯学習力
      卒業後も自律・自立して学習できる

  4. 統合的な学習経験と創造的思考力
    これまでに獲得した知識・技能・態度等を総合的に活用し、自らが立てた新たな課題にそれらを適用し、その課題を解決する能力
 なお、この「学士力」については、経過報告の中心的な柱ではないのに、マスコミ他によってこの部分だけが過大に取り上げられているという声もある。また、特色GPやその前身である「教育COE(一時期は「COL」という呼び方もされた)」は5年前から開始された支援策であって、「学士力」のほうが後から「仮称」として提唱された概念であることには留意しておく必要がある。




 さて、元の「学士力はどうやって測れるのか」という問題であるが、これは、そもそも「学士力」なるものを、(心理学などで言う)構成概念として学術的に精査するべきなのか、何らかの実用的な「総合指標」とするのか、具体的なスキルのモザイクにとどめるのか、それとももっと漠然とした「共通の話題」にとどめるのかによって、議論のしかたはまるっきり変わってくる。

 「学士力」なるものを構成概念として捉えるのであれば、当然、心理学者の手によって、構成概念妥当性等が検証されなければならない。検証の結果によっては、その概念は、別の概念に置き換えられたり、いくつかの部品の組み合わせになることもあるし、また、場合によっては、「Aを伸ばすことは、Bを伸ばすことの妨げになる」というように、対立的・競合的な要素が見出されていくかもしれない。

 「学士力」は、もちろん、高等教育の専門家諸氏や有識者たちの手によって、十分に精査され、必要かつ最小限のコンポーネントとしてまとめ上げられたものであろう。しかし、それが構成概念として扱われるのであれば、「どう測るか」は別の専門家、つまり心理学者や統計学者の手を借りなければ、妥当性や信頼性を検証することはできない。いや、その必要があると言っているのではない。evidence-basedや、PDCAサイクルに乗せようとする時には、そういう議論は避けて通れないであろうと言っているのである。


 次回に続く。