じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 雪の中に現れたパンダ?。児童公園などでよく見かけるありふれた遊具だが、2月20日の「赤いカバ」の「続き」として掲載しておく。



2月27日(水)

【思ったこと】
_80227(水)[教育]大学教育改革プログラム合同フォーラム(13)大学院教育改革支援プログラム(1)科学者実践家モデルに基づく臨床心理学教育(1)

 種々の用事で1週間もあいてしまったが、2月20日の日記に続いて、大学教育改革プログラム合同フォーラムの参加感想を述べることにしたい。

 フォーラム2日目の午後には、

●分科会「大学院教育改革支援プログラム」

が開催された。分科会ではまず、副委員長の挨拶があり、続いて、人社系、理工農系、医療系それぞれにおける今年度選定校から、選定取組の計画概要や実施状況等について報告、さらに、事例報告校担当者と審査を行った選定委員会の委員によるグループディスカッションが行われた。

 このうち人社系の報告は

●科学者実践家モデルに基づく臨床心理学教育

という取り組みであり、その概要は
医師、看護士【師】、保健福祉士等と共同で行う発達支援、遠隔地臨床心理学的援助などを通し、学生に多様な経験をさせながら、実践力、基礎研究力を備えた臨床家を養成するプログラム
であると紹介されていた。
  • 人材養成目的が明確であること
  • 体系的な教育プログラムになっていること
などの点で審査委員から高い評価が得られたということであった。このこと自体には私も全く異論が無いのだが、心理学の立場から見て、また、この事例が人社系の選定事例として紹介されたという点において、いくつか疑問を持たざるを得ない点が出てきた。




 初めに、心理学の立場からの疑問点をいくつか。なお、以下の疑問点は、「種々の議論がある」という論点の紹介であって、それぞれの論点は必ずしも整合性を保っているわけではない(例えば「医療心理師推進の立場」と「医学モデルに反対する立場」など)。

 まず、これまで、こちらのサイトでも何度か言及してきたように、心理学界が目指すべき資格制度のあり方については種々の論議があり、今後の決着しだいでは、今回紹介されたような教育プログラムが大幅な内容変更を迫られる可能性があるということ。ま、そうは言っても、心理学界全体での合意形成は遅々として進んでいないのも事実であろう。この問題点は、学界全体の責任であると言ってもよいだろう。

 このことに付随して、医療現場での活躍をめざすのか、発達障害支援が中心なのか、という疑問も出てくる。医療現場中心であれば、これは、まさに「医療心理師か臨床心理士か」という議論に関連してくる。また、発達障害支援がメインであるとすると、果たして医療モデルが必要なのか、医師や看護師との共同がどこまで求められるのかという問題が出てくる。

 もう1つ、このプログラムのタイトルにも含まれている「科学者実践家モデル」だが、これは「エビデンス重視(evidence-based)」とは異なる次元の議論である。しかし、この点に関して、採択理由のところでは
 臨床心理学においても、世界的な趨勢は、臨床介入や心理療法の効果の実証的な評価が求められている点である。大学院教育の実質化の面では、「科学者実践家モデルに基づく臨床心理家の養成」というニーズに対応した人材養成目的が明確に掲げられており、医師、看護士【師】、保健福祉士等との共同、...【以下略】
とされていて、「実証的評価」が「科学者実践家モデル」と一体的に受け止められているようにも見えるが、果たしてそのとおりなのだろうか。この連載は大学教育改革全般に関わる話題を取り上げているのでここでは詳しい言及は避けるが、「エビデンス重視(evidence-based)」に関してはこちらの連載、「科学者実践家モデル」に関してはこちらの連載をご参照いただければ幸いである。


 次回に続く。