じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 岡山大学西門の脇にあるヤナギの新芽。ちょっとでも風が吹くと枝が揺れるので、撮影はなかなか難しい。


3月22日(土)

【思ったこと】
_80322(土)[心理]第13回人間行動分析研究会(5)信頼と裏切りの実験的研究(2)

 少し間があいてしまったが、3月18日に続いて

●信頼と裏切りの実験的研究

という研究発表についての感想。この実験では、2名1組の被験者たちが衝立で仕切られたブースに座り、「囚人のジレンマゲーム」を模した得点マトリックスに基づいて、パソコンキーによる選択行動を繰り返し、より多くの得点(100点あたり1円の報酬に換算)を獲得するというゲーム風の内容になっていた。被験者2名は、液晶ディスプレイにより、得点獲得状況をリアルタイムに知ることができる。但し、相手方に関する表示部分のところは紙に覆われていて見ることができない。ペアになった被験者は、同性の場合も男女の場合もあり、また、友人どうしの場合も、見知らぬ人どうしの場合もあった。

 ちなみに、ウィキペディアの当該項目に解説されているように、「囚人のジレンマ」は、もともと、「囚人は共犯者と協調して黙秘すべきか、それとも共犯者を裏切って自白すべきか」というジレンマから名付けられたものである。ともに黙秘すると2年の懲役となるが、自分だけ裏切って自白すれば自分は1年で済むが相手は15年。相手だけが裏切った場合は、相手は1年で済むが自分のほうが15年になる。また2人とも自白すると今度は10年になるというような具合である。

 今回の実験研究ではこれが利得表に置き換えられており、2人がともに「協力」キーを押した場合、一方のみが「離反」キーを押し他方が「協力」キーを押した場合、2人とも「離反」キーを押した場合に獲得できる得点が操作される。そして、当初は、「協力」キーを押すと高い得点が得られるような形で「信頼」が構築され、のちに、「離反」の得点が増やされるなかで「信頼」を瓦解、さらに、再度「信頼」構築の条件に入った時にどういう影響が生じるのかを検討する、というような内容であった。

 実験操作自体は精密であり、結果や考察についても納得できるものであったが、前回も述べたように、このような実験的分析が、日常行動における「信頼」と「裏切り」現象にどこまで一般化できるのかどうかは何とも言えない。

 前回の補足になるが、ここで検討対象としている「信頼」とか「裏切り」というのは、「協力行動」や「非協力行動」、あるいは最近しばしば話題になっている、「協同」、「共生」、「共存」、「競争」といった行動現象とは同一ではない。ある程度の長期的なスパンのもとでの、相手の「特性(trait)」に対する評価のような内容が含まれているように思える。一個人についての似たような概念で言えば、「一貫性」、「優柔不断」、「頑固一徹」などと似たような評価概念であり、これが2者間の相互作用を含んだ時に出てくるのが「信頼」や「裏切り」に相当する、と考えてよいのではないかと思われる。もっとも、前回も述べたように、ひとくちに「信頼」とか「裏切り」と言っても、状況や文脈に限定し、かつ「入れ子」構造になっている場合もある。また、おそらく、「仲間意識」や、集団への帰属意識のようなものも関わってくるはずだ。これらは、ある程度長期的なスパンのもとで、当人の生活全般に関わって形成されていくものであり、短期間の実験操作だけで検討できるかどうはは心もとない。短期間に変化するのは印象形成・変化、あるいは、状況・文脈に限定した「ゲームの中での約束事」程度のレベルにとどまるのではないだろうか。

 次回に続く。