じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 8月22日朝の東の空。この日の6時の気温は20.2度となり、8月21日の20.7度を下回って、さらに涼しい朝となった。前景は洋梨の実。4月11日付けの楽天版に、同じ場所で撮影した洋梨の花の写真あり。


8月21日(木)

【思ったこと】
_80821(木)[一般]五輪ソフトボールの順位決定方法

 北京五輪ソフトボール日本代表は21日、トーナメント決勝戦で米国と対戦、3─1で勝利をおさめ悲願の金メダルを獲得した。ソフトボールは北京大会をもってオリンピック競技から外れるため、今後の競技復活が無い限りは、これが日本にとって最初で最後の金メダルとなった。

 私自身は、幸い、前日のオーストラリア戦と今回の米国戦の両方を生中継で観戦することができた。オーストラリア戦は、歴史に残る名試合であったと思う。

 ところで、今回の、日本は、予選と準決勝で米国に連敗したが、予選の3と4位の勝者であるオーストラリアに勝利して再度決勝に勝ち残ることができた。これは、ページシステム方式という順位決定方式をとっているためであった。ウィキペディアの当該項目にも説明されているように、まず予選リーグで1位〜4位を決める。次に、3位と4位が対戦し、その勝者は「準決勝」に進出する。さらに、1位と2位の間でも対戦があり、勝者は決勝に、敗者は、3位と4位の勝者が出場する準決勝に進出。準決勝の勝者は、決勝戦で、先に行われた1位と2位戦の勝者と対戦するという仕組みである。今回の日本は、1位vs2位戦では米国に敗れたが、準決勝でオーストラリアに勝つことができたため決勝戦に出場、さらに決勝戦で勝利したことによって金ペダルを獲得することができた。このページシステム方式を含めて、各種トーナメント方式のメリット、デメリットについては、ウィキペディアの当該項目である程度解説されているが、改めて、自分なりに考えてみることにした。




 まずその前に、スポーツ競技における対戦は、一般的な測定・比較(強さ、大きさ、重さ、長さなど)とは根本的に異なるという点を理解しておく必要がある。

 一般的な測定では、比較する対象がそれぞれ真の値を持っていると仮定される。しかし実際の測定では誤差がつきまとう。また、全数ではなく標本をもって何かを測ろうとする場合には、確率分布に基づく統計的検定を行う必要が出てくる。いずれの場合も、「本当の値は何か」を知ることが至上命題となっている。

 しかし、スポーツ競技の目的は、それぞれの選手やチームの「強さ」を正確に測定・比較することではない。例えば、A、Bというチームが
  • A=10±4
  • B=9±4
という「強さ」を持っていたとしよう。ここで「A=10±4」、「B=9±4」というのは
  • Aというチームの平均的な強さは10であるが、偶然的な要因や測定誤差により、6から14程度の力を発揮することがある。
  • Bというチームの平均的な強さは9であるが、偶然的な要因や測定誤差により、5から13程度の力を発揮することがある。
ということを意味する。

 ある試合で、Aが8、Bが9という結果を出したとしよう。しかし、統計的検定の考え方をすれば、この場合、Bのほうが大きいとは直ちには断言できない。「A=B」という帰無仮説を立てた上で、何回も測定(試合)を繰り返し、それぞれの結果の平均値に有意な差があるかどうかを検定する、というやり方をとる。

 いっぽう、ある試合で「A=8、B=9」という結果が出た時に、Bをもって勝者とし、Bの勝利を称えるのがスポーツ競技の考え方である。平均的な力としてはAのほうがまさっていたとしても、とにかく、ある場面において、相手を上回るということに最大の価値を見出すのである。




 さて、以上のような点に考慮しつつも、ここでは、話を簡単にするため、変動範囲(誤差範囲)を除外し、A、B、C、Dという4チームが

A=10、B=9、C=8、D=7

という「強さ」を持っていて、トーナメント戦で順位を決定することになったとしてみよう。

 この場合、「公正な測定」というのは、トーナメント戦で「A>B>>C>D」という順位づけができるかどうかである。しかし、周知のように通常のトーナメント戦では、決勝戦の敗者(2位あるいは銀メダル)よりも、準決勝戦の敗者(3位あるいは銅メダル)のほうが強いという可能性がつきまとう。例えば、準決勝で「AvsB」、「CvsD」という対戦が行われ、「A=10、B=9、C=8、D=7」どおりの力が発揮されたとすると、AとCが決勝に勝ち残りAが優勝ということになる。しかし、決勝戦の敗者Cが、準決勝でAと対戦して敗れたBよりも強いという保証はどこにもない。ここに挙げた事例では「B=9、C=8」であってもCのほうが2位あるいは銀メダルにランクされるという矛盾が生じる次第である。

 いっぽう、五輪ソフトボールで導入されているようなページシステム方式を導入したとする。上記同様「A=10、B=9、C=8、D=7」という力が常に発揮されるとすれば、AとBが対戦してAが決勝戦に、またCとDの対戦ではCが勝利して、さらにBと対戦することになる。結果的にBとCの強さが比較されるので、通常のトーナメント方式でありうるような「B>CなのにCが銀メダル」というような矛盾は生じない。

 なお、上記の事例では最初からA、B、C、Dの強さが分かっているものとして話を進めたが、より一般的には、
甲、乙、丙、丁という4枚の金貨があり、それぞれ重さが異なる(もしくは等しい)。2枚ずつを天秤ばかりに乗せて(但し天秤のお皿には1枚の金貨しか乗せられない)大きさを比較し、4枚の金貨の重さの順位をつけたい。天秤に乗せる回数が最少であるような手順を示せ。
という数学パズルの問題として解くことが可能である。ページシステム方式は、そういった手順の候補にはなりうる。但し、
  1. 甲と乙が対戦し、甲が勝利
  2. 丙と丁が対戦し、丙が勝利
  3. 乙と丙が対戦し、乙が勝利
となった場合(ここでは「対戦」とは天秤ばかりに乗せること、「勝利」とは「重いほう」という意味)、再度、甲と乙が対戦する必要はない。最初に「甲>乙」が確認されているからである。このロジックでいくと、今回のソフトボールでは米国が金メダルということになってしまう。

 いっぽう、上記の3.で丙が勝利した場合は、甲と丙で再度決勝戦を行う必要がある。また、乙と丁の間でも3位決定戦を行わなければならない。

 スポーツ競技では、試合の結果の直後に試合数が異なるというのは会場確保などの都合上現実的ではないので、上記のやり方はとらない。また、今回のソフトボールでは予選リーグで一応の順位が決定しているので、乙と丁の間の決定戦は行わなくても公正感が損なわれることはないだろう。

 余談だが、卓球・女子シングルス4回戦では、福原愛が世界ランキング1位の張怡寧に敗れ、8強入りはならなかった。このケースでは、福原選手はもしかしたら銀メダルの実力があったかもしれないが、たまたま最強選手と対戦してしまったために8強入りを逃したと考えることもできる。ページシステムのような、別の形の順位決定方式を採用していればメダルを獲得できたかもしれない。