じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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§§ §§  10月16日の農学部・農場内のコスモス畑。一週間前の10月9日撮影時(写真右)に比べてさらに開花がすすみ、最盛期を迎えている。



10月16日(木)

【思ったこと】
_81016(木)[心理]日本心理学会第72回大会(20)超高齢者研究の現在(12)老年的超越(4)

 今回は、エリクソンの第9段階尺度として作成された質問紙調査を日本の高齢者に実施し、その妥当性を検討するという報告についてのメモ書き。念のためおことわりしておくが、「エリクソンの第9段階尺度」というと、「エリック・エリクソンが自ら開発した第9段階尺度」という意味にとられそうだが、これは2つの意味で違う。まず、昨日も述べた通り、第9段階というアイデアは、エリック・エリクソンの妻のジョウン・エリクソンによって増補版の中で公刊されたものである。もちろん、エリック・エリクソンの考えが多分に反映しているとは思われるが、著作権上は「ジョウン・エリクソンの第9段階」と言うべきであるように思う。第二に、「第9段階尺度」は、Brown & Louis(2003)が、そのジョウン・エリクソンの記述やトルンスタム(Tornstam)の老年的超越概念に基づいて20項目を抜き出し作成されたものが基となっている。『ライフサイクル、その完結【増補版】』の第七章では、冒頭からトルンスタム教授の言葉が引用されており、どのアイデアが誰のオリジナルであるのかはなかなか掴みにくい。私が理解している範囲では、「エリクソンの第9段階尺度」と呼んでも「トルンスタムの老年的超越尺度」と呼んでも変わりないように思える。

 前置きが長くなったが、今回の話題提供では、この尺度の日本版を1655人の高齢者(東京在住、60-98歳)に実施した結果が報告された。種々の分析によれば、「内的一貫性は低い」、「尺度自体の説明率も低い」という結果となり、どうやら日本の東京在住の高齢者に関しては、当該の尺度はうまくフィットしないというような結論が示された。

 そこで次に、SPSS大規模ファイルのクラスター分析(k-means法)で反応パターンの分類が行われた。要するに、日本の高齢者には、一律に「老年的超越」に至るのではなく、複数種類の適応型があるという分析に移行する。結果としては、「現世的ロッキングチェア型」、「平均型」、「離脱的内罰型」、「現世的円熟型」、「離脱的防衛型」、そして、もともとの話題の「老年的超越型(離脱的円熟型)」という6つのクラスターが見出された。なお、これらの名称は、「老いの受容」、「生きる希望」、「現世離脱」という3つの軸において、プラス(肯定、受容、該当するといった意味)なのか、マイナス(否定、拒絶、該当しないといった意味)なのか、どちらとも言えないのか、という組み合わせに対して与えられた呼称である。

 しかし、最後の「老年的超越型(離脱的円熟型)」は全体の14.5%にしかすぎず、ごく少数にすぎないことが分かった。もっとも、その比率を60歳代、70歳代、80歳代で比較すると、それぞれ、14.8%、18.0%、23.3%というように出現率は有意に増加しており、少数派ながら存在していることは確認された。

 ここまででちょっとだけ感想を述べるが、上記の「現世的ロッキングチェア型」、「平均型」、「離脱的内罰型」、「現世的円熟型」、「離脱的防衛型」、「老年的超越型(離脱的円熟型)」は、実態の分類であって、どれが理想型であるというものでもない。また、歳をとった時に、自らの意志でどれかを好き勝手に選べるというものでもあるまい。次回以降にもうすこし詳しく言及するが、こうしたパターンは、自らの健康状態、家族の有無と支援形態、住まいの周りの環境(今回は東京)によっても大きく左右される。横断的な比較よりはむしろ、個人内での縦断的な変化を追うということのほうが価値の高い情報を引き出せるのではないかという気もした。

 次回に続く。