じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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【本日の話題】小さな虹出現/日本心理学会第72回大会(33)well-beingを目指す社会心理学の役割と課題(5)コヒアラント・アプローチによる主観的Well-Beingの個人差の探求(4)主観的充実感

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§§ 11月4日の朝08時15分頃、太陽の左側(北側)に小さな虹が出現した(写真上)。写真下は、同じ場所で12時57分に撮影した写真。手前の穂は胡麻。


11月04日(火)

【思ったこと】
_81104(火)[心理]日本心理学会第72回大会(33)well-beingを目指す社会心理学の役割と課題(5)コヒアラント・アプローチによる主観的Well-Beingの個人差の探求(4)主観的充実感

 一昨日の続き。表記の話題提供では、認知-感情システム理論に続いて、主観的充実感(Subjective Well-Being、以下SWBと略す)の概念についての説明があった。余談だが、この話題提供は、パワーポイントのスライド枚数が48枚にも及ぶほどの盛りだくさんであり、御講演に1時間半、質疑に30分くらいをとってじっくりと拝聴させていただきたい内容であった(実際は、シンポ全体で、話題提供者3名、指定討論者2名、合計120分というすし詰め状態)。そのような時間的制約もあり、お話を伺っている最中には、認知-感情システム理論からなぜSWBに発展するのかということがよく理解できなかった。配付資料をもとに私なりに考えてみるに、まずSWBには
  • 感情的充実感(Emotional Well-Being、EWB)
  • 心理的充実感(Psychological Well-Being、PWB)
  • 社会的充実感(Social Well-Being、SoWB)
という3つの側面がある。過去においてとりわけ落ち込むような出来事を体験していないことに加えて、上記3つの側面のいずれにおいても高いWBを示すことが、元気感(flourishing)につながるというような考えがある。そして、SWBの規定因には個人に特有のパターンがあり(個人クラスタ?)、そこには(おそらく)一貫性がある。またPWBは「場面×関係性充実感」によって異なる。これらの点が、認知-感情システム理論に合致するということであろうと理解した。但し、この方面の諸説を精査したわけではないので、ここではあくまで「暫定的な理解」としておきたい。

 さて、元のSWBの話題に戻るが、SWBは「人々が自分の人生をどのように評価するか」に依存する(Diener, et.al., 1993)。そこには2つの原点があり、その1つは、Hedonic aspectと呼ばれる。これには幸福感、満足感、ポジティブ感情の高さ、ネガティブ感情の低さ、Hedonic balanceが含まれるという【配付資料からの引用】。もう1つの原点は、Eudaimonic aspectと呼ばれる。こちらは認知的、理性的成熟を反映し、目的や成長などが関係してくるようである。なお、私は拝聴できなかったが、昨年の日本心理学会71回大会で

eudaimonic, hedonic well-beingについての社会心理学的検討
講演者 大阪大学 上出 寛子
司会者 大阪大学 大坊 郁夫

という小講演があり、抄録には、
... よい人生については古くから様々な分野で研究されている。従来の研究を概観すると,よい人生は,苦労や努力から培われる意義(eudaimonic well-being)と,快楽や満足感などの幸福(hedonic well-being)の二側面から捉えられている。 ...
というように紹介されていた。この小講演をなぜ拝聴できなかったのかと思って過去記録を参照してみたところ、この時間帯は、「心理職の国資格化の最近の動向とゆくへ」という別の企画を聴きに行っていたことが分かった。

 SWBの原点の1つである幸福感・人生満足感はさまざまな要因によって規定されるが、数量的に分析すると、比較的低い相関を示す要因から高い相関を示す要因までいろいろあるという。ちなみに、今回引用されたのは、Peterson(2006)という文献であったようだが、そこでは、
  • 比較的低い相関を示す要因(0.0〜0.20程度):年齢、教育、知能など
  • 中程度の相関を示す要因(0.30前後):友人の数、既婚かどうか、信仰の有無、身体的健康など
  • 高い相関(.50以上):感謝の気持ちをもつ、楽観性、雇用、性交渉の頻度、ポジティブ感情体験の割合、自尊心
となっていて、「性交渉の頻度」が高い相関を示している点などはまさに、Hedonic aspectという感じがする。もっとも、こういう相関というのは、それこそ人によってマチマチであり、例えば、既婚者と独身者では幸福感・人生満足感が質的に異なるかもしれないし、また、信仰のある人と無い人でもおそらく中味が異なる。それゆえ、あらゆる人をひっくるめて数量的に分析すれば、幸福感・人生満足感の中味が多様であればあるほど相関は出にくくなり、結果的に、最大公約数の大きい要因だけが高い相関を示すことになりかねない。ま、最大多数の幸福を追求するのであればそれでもよいだろうが...。

 次回に続く。