じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 早朝の南空に輝く月齢23.6の月(2月19日06時21分頃撮影)。今月は、2月19日の06時06分に赤緯最南となるため、いちばん低いところで南中する月といってよいだろう。早朝の散歩時にはこの月が異様に大きく見えたが、月自体は20日の01時59分に最遠となるので視直径は小さいはず。おそらく、地平線に近いことによる「月の錯視」が原因で大きく見えたのだろう。

 なお、今月はこのあと、2月23日の朝に水星食や木星食が見られる。その直前に、細い月にこれらの惑星がくっついて見える様子が観察できるかもしれない。またこれとは別に2月24日にはルーリン彗星(鹿林彗星、C/2007 N3)が地球に最接近する。こちらに詳しい情報あり。おとめ座スピカ→土星→しし座レグルスの方向に移動する模様。



02月19日(木)

【思ったこと】
_90219(木)[心理]杉並のすべての区立幼稚園で漢字教育/韓国での漢字教育復権

 2月19日朝のNHKおはよう日本で、「杉並区立幼稚園で漢字教育」という話題を取り上げていた。当該ニュースサイトによれば、東京・杉並区は、来年度からすべての区立幼稚園で、小学校の低学年レベルの漢字を使った教育を本格的に始めることになった。その概要は
  • 小学生の時期に漢字嫌いになると将来の国語力の低下につながるという指摘があることから、小学校への入学前に漢字やことばへの興味を持たせる。
  • 区内にある6つの区立幼稚園で行う。
  • 5歳児中心のクラスで、ふだんの遊びの中に小学校の低学年レベルで習う主な漢字を使ったカードを取り入れ、かるたなどさまざまなゲームを行う。
  • 教室で目にするカレンダーなどを漢字のものに替え、できるだけ漢字に触れる機会を増やす。
  • 効果を確かめたうえで、文学作品を読む機会を作る。
ということにあるようだ(当該ニュースサイトからの要約引用)。

 幼児に漢字を教えることの効用については、私自身、今から20年前に、2歳児における漢字の読みの学習過程という紀要論文を発表したことがあり、リンク先のサイトにも記してあるように、その後、さらに
  • 長谷川芳典(1990).3歳児における漢字熟語の読みと生成.行動分析学研究, 4, 1〜18.
  • 長谷川芳典(1991).中度の精神遅滞を伴った自閉症児における漢字熟語の読み学習.長崎大学医療技術短期大学部紀要, 4,67-71.
  • 長谷川芳典(1991).電子音声発声装置と感圧入力装置を用いた発達障害児の漢字学習.日本行動教育・実践研究, 12, 8-15.
といった続編も刊行したが、長崎から岡山に移動したあとは、幼児を対象とした実験を行いにくい環境になったこともあってあまり力を入れてこなかった。

 当時は、心理学の立場から早期の漢字教育の効用を説く研究者は少なく、むしろ、早期教育一般の弊害を主張する立場から頭ごなしに否定されることのほうが多かった。そのいっぽう、世間では石井式の漢字教育や公文の漢字カードなどが小規模ながら普及しており、一部の幼稚園や幼児教室では「漢字で遊ぶ」という形で漢字教育を取り入れているところがあった。

 今回、ネットで検索したところ、杉並区の取り組みは、どうやら区長さんが先頭に立って推進している模様であり、じっさい、区長さんの、第4回 「幼児は漢字が大好き」というコラムが掲載されていた。その中には
実は、最近幼児期での漢字教育のすばらしさの話を耳にすることがありました。
ひとりの方はある大学の先生で、ご自身のお子さんに石井先生のご指導の下、幼児期から漢字に触れさせていたそうで、小学校にあがるまでには200近い漢字を読めるようになっていたと話していました。「書けなくても漢字が読めるようになると、自然にいろんな本に人より早く親しむようになり、それが子供の旺盛な知的好奇心を満たしてくれることで、また幼児から漢字を絵として把握する能力が鍛えられることで、結果的にIQにも影響があるようです。」と。
というくだりがあるが、私自身も似たようなことはやっていた。但し、私個人は石井先生に直接お会いしたことはない。一度、幼児の漢字教育関連のパネルディスカッションに登壇したことがあったが、まことに残念ながら、その時には石井先生はすでにお亡くなりになっていた。

 ネットでさらに検索したところ、こちらに、平成19年度 杉並区教育委員会重点施策というのがあり、
(9) 幼児の知的好奇心をはぐくむ漢字教育
幼児の知的好奇心をはぐくみ、意欲的に自ら遊びや活動に取り組み行動する子どもを育てるために、発達段階に応じた漢字教育のプログラムを作成し、区立幼稚園で試行する。
という項目が挙げられていた。ザッと検索した限りでは20年度の施策は閲覧できなかったが、今回の取り組みはこの延長上にあるものと思われる。




 ちなみに、冒頭に引用したNHKニュースでは「小学生の時期に漢字嫌いになると将来の国語力の低下につながるという指摘があることから、」となっているが、私自身は、将来の国語力との関連はあまり重視してこなかった。私の発想の出発点は、同音異義語の多い日本語において、大人が使わないような平仮名オンリーの難解な文章を幼児に読ませるのはナンセンスということと、漢字熟語を読むことに限って言えば(←書くことを別にして考えるという意味)、2歳児の段階からすでに可能であり、またその場合、画数の多さは問題にはならないという点にあった。
 それはそれとして、とにかく、公立のレベルで幼児からの漢字教育が導入されるようになったことは大きな進歩であると思う。今後の発展を見守りたい。




 ところで、2月19日の朝日新聞「世界発2009」という記事で、韓国でも漢字が「復権」の兆しを見せているという、記事によれば、ソウル南部の江南区と瑞草区では小学校4年生以上を対象に漢字教育が復活。正規の授業に組み込まれたわけではないが、教育当局の主導ですべての学校で漢字教育を実施することにしたのは韓国では初めてとのことである。

 記事にも紹介されていたが、韓国語の単語の7割は漢字由来であり、同音異義語も少なくないという(記事では「電気」と「伝記」が同じ読みであると紹介されていた)。「冬ソナ」のドラマを韓国語で聴いていても、「約束」とか「感謝」というように、日本語そっくりの漢字読みが出てきてビックリすることもある。歴史的経緯に基づく議論はいろいろあると思うが、漢字表記は漢字由来の熟語の意味理解を助けるばかりでなく、漢字文化圏の交流を進める上では大きなプラスになると思う。中国や韓国ばかりでなく、2008年8月24日の日記に記したように、

ベトナム語の漢語(漢越語)は日本語漢熟語の発音によく似ている

と言われているくらいであり、英語圏よりはるかに大きな人口規模の文化交流が期待できる。