じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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2009年版・岡山大学構内でお花見(62)文学部周辺でもネジバナ

 梅雨本番となり、岡山市の72時間積算雨量は45.5ミリとなった。たっぷりと水気を含んだ芝地からはネジバナが次々と花穂を伸ばしている。草刈りのタイミングにもよるが、今年は特にネジバナの花つきが良いように見える。


7月2日(木)

【思ったこと】
_90702(木)[心理]熱中と離脱のスパイラル(6)

 この連載のとりあえずの最終回。

 今回の連載では、「スパイラル」という言葉を頻繁に使ってきたが、この概念自体は、学界で公式に通用する段階には至っていない。

 大ざっぱに言えば、この連載で使ってきた「スパイラル」と他領域で使われている「スパイラル」の意味は同一である。

 ウィキペディアによれば、スパイラルには
渦巻線。転じて、渦巻を描くように状態が進みブレーキが掛からない様子のこと。「デフレスパイラル」など。
という意味が含まれており、また、こちらのサイトによれば、デフレスパイラル(defration spiral)は
物価の継続的下落が他の要因と合わさり、経済にスパイラル(相互作用)的に悪循環を及ぼすこと。
というように定義されているが、人間行動に関するスパイラルも同様であり、
  • 行動や行動随伴性の質的変化を含む、相互作用的な変化。悪循環もあれば、好循環もある。
  • 「行動→結果」という随伴性操作ではブレーキがかかりにくいという特徴をもつ。
  • 外部からの介入が無くても「自走」的に変化が起こっていく場合がある。
というように定義できると考えている。

 2者間のスパイラルの事例は、行動分析学の入門書にもしばしば紹介されている。例えば、赤ちゃんの抱き癖についての悪循環の例では、
  1. 赤ちゃんの泣き声は母親にとっての嫌子である。よって、泣いている赤ちゃんを抱っこする行動は嫌子消失の随伴性により、強化される。
  2. 赤ちゃんにとって、泣くという行動は「抱っこしてもらえる」という好子出現をもたらす。よって、赤ちゃんは、抱っこしてもらえないとすぐに泣くようになる。
この1.と2.が悪循環のスパイラルに陥ると、母親は四六時中赤ちゃんを抱っこしていなければならず、乳離れが進まない恐れが出てくる。但し、現実場面で、赤ちゃんが道具的に(オペラント行動として)「泣く」という行動をとれるのかどうかは定かではない。抱っこしてもらえない赤ちゃんがますます泣くようになるのは、道具的に強化されたからではなく、抱っこしてもらえない時の孤独への耐性が弱くなったと考えることもできるかもしれない。

 ヤクザや非行少年による恐喝行為もその一例である。警察や防犯連絡組織にきっちり連絡して真っ向からたたかう人が「カネを出せ」と恐喝されることはまずない(←恐喝行為は弱化または消去されるから)。しかし、なるべく穏便に済ませようとカネを差し出してしまうと(←恐怖という嫌子から逃れるという嫌子消失の随伴性、もしくは、従わないとやがて暴行されるであろうという嫌子出現を阻止する随伴性で強化される)、恐喝行為は強化されてしまい、ならず者たちはますます図に乗って恐喝の頻度と要求額を増やしてくる。

 例を挙げればキリが無いが、とにかく、単純な強化頻度や強化スケジュールの変化に依存するタイプばかりでなく、行動随伴性のスパイラルが行動の中長期的な変化をもたらしている可能性が多々あるのではないだろうか。




 現在熱中している行動、過去に熱中していた行動、あるいは過去に活発に行っていたがその後離脱してしまった行動などの原因を分析することは容易ではない。しかし少なくとも言えるのは、単線的な「原因→結果」、あるいは単純な行動随伴性の有無だけではそれらは説明できないし、適確に予測したり、改善したりできないであろうということだ。もちろん、「きっかけ」を明らかにすることも、その後の強化や弱化の内容を詳細に把握することも重要であるが、より中長期的な視点から、スパイラルという形で変化を追っていくこともまた、それ以上に大切なことであると思いつつある。