じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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ジャンボタニシ大繁殖。

 用水路に産み付けられたジャンボタニシの卵。

 岡山大学周辺で私が観察した限りでは、大学より東側の用水路沿いや田んぼでかなりの数にのぼっている。もっとも、このあたりでは田んぼの宅地化が進んでおり、稲作への被害はあまりなさそう。


7月27日(火)



【小さな話題】

NHK「北山修 最後の授業テレビのための精神分析入門」

 月曜日から、表記のタイトルの番組全4回が始まった。

 こちらの研究者情報や、ウィキペディアに記されているように、北山氏は精神医学、精神分析学の研究者であり、今年の春まで人間環境学研究院・人間科学部門・臨床心理学の教授をつとめておられた(現在は九州大学名誉教授)。

 もっとも、私個人にとしてはやはり、ザ・フォーク・クルセダーズのメンバーであったという印象が強い。フォークル(←というように略して呼んだことは一度も無かったが)が登場した1967年と言えば、私はまだ中学3年生であった。当時の私には(←今の私から見れば考えられないほどであるが)深夜ラジオを聴く趣味があり、その中の新曲紹介番組で「イムジン河」や「悲しくてやりきれない」をよく聴いた。また、あの頃は、一人で日帰り旅行をする趣味があり、「帰って来たヨッパライ」は確か、上越線の越後湯沢の街で流れているのを耳にしてこれは面白い歌だ、と思ったことがあった。

 今回の番組は放送時間が遅いこともあって、とりあえず録画。まだ1回目の前半しか拝見していないが、4回を通じて何を伝えてくれるのか大いに期待している。

【思ったこと】
_a0727(火)[心理]天才ラット出現?

 7月28日付けの朝日新聞(こちら参照)に、

ほぼノーミス「天才ラット」誕生 東海大、30年かけ

という見出しの記事があった。要約すると、
  • 30秒ごとにレバーを押さないと軽い電気ショックを受ける実験で、学習能力の高かった個体同士を繰り返し、交配。「賢さ」が安定するまで約20年かかった。
  • 普通のラットは、毎日30分、レバーの押し方を教えても、360回のうち100〜300回は失敗する。一方、「天才」は360回中、失敗は平均で5回ほど。
  • 水の中を泳いでゴールを探す記憶力の実験などでも、一貫して好成績を出す。
ということである。要するに、農作物の品種改良のようなやりかたで、特定能力の高い近交系ラットを造り出したということのようだ。

 この種の成果でたびたび議論になるのは、どの部分が「天才」なのかということである。例えば、同じような手法で、○と△を見分ける能力の高い「天才ラット」が作り出されたとしても、好成績の原因が
  1. 単に、実験装置に慣れやすい(怖がらないなど)性質をもっていたため
  2. 行動の変動性(気まぐれ)が少なかったため
  3. 形を見分ける視力がよかったため
  4. ○や△といった特定の図形に注目しやすい性質があったため
  5. 弁別学習に優れたいたため
などいろいろな原因が考えられるし、さらに仮に5.の「弁別学習が優れていた」という場合でも、刺激のちょっとした違いを見極められる力があったのか、記憶力がよかったのか、特定の反応傾向に固執しない性質があったのか、などいろいろな原因が考えられる。一般能力として「天才」と呼ぶには相当数の検証が必要ではないかと思う。

 今回のラットの場合は、「30秒ごとにレバーを押さないと軽い電気ショックを受ける実験」で好成績をおさめたラットを交配させるということであった。しかし、電気ショックを回避するという場面は非常にストレスが大きく、また30秒ごとにレバーを押すためには活動的でなければならない。であるからして、単にストレス耐性があって、電気ショックを受けても情動的に混乱せず、かつ、レバーを活発に押すという性質さえ備えていれば、必ずしも一般能力における「天才」でなくても好成績を残すことはできるものと思われる。ということもあり、「天才」であることを実証するためには、最低限、回避型や逃避型ではない学習課題(例えば、平穏・安泰な状況のもとで、報酬を受けて複雑な課題を学習させる)のもとで天才ぶりを実証する必要があるのではないかと思う。報道にあった「水の中を泳いでゴールを探す記憶力の実験」というのは詳細は不明だが、溺れそうになったラットが必死に逃げ道を探す課題ということであれば、ストレスの多い逃避型課題であって、「天才」であることの傍証としては不足していると思う。

 あと、当該記事後半の
「天才」を使えば、化学物質の影響が効率的に調べられると期待される。化学物質を与えて失敗が増えれば、学習能力に影響があったと判定できるからだ。普通のラットは1匹ごとに知能の差が大きく、数十〜数百匹で実験しないと影響が分からない。一方、「天才」は学習能力に悪影響があれば、失敗がはっきり増えるので、少ない数で影響が分かるという。
という部分であるが、個体差の少ないラットを使用して学習成績の個体間比較(群間比較)を行う場合には、個体差の少ない近交系のラットを使うのが常識であり、その場合、ラットは必ずしも「天才」である必要はない。要するに、IQが平均100の集団内でも、IQが平均150の集団内でも、バラツキ(分散もしくは標準偏差)が同一であれば、化学物質の影響の出方は同じように検証できるはずだ。むしろ、「天才」のほうが、化学物質への耐性が強いことで(←ストレスの多い学習課題で交配されてきたため)、影響が出にくいという恐れもあるように思う。

 ま、新聞記事時代た「天才」というようにカッコ付きになっていることからみて、この研究ではもともと、一般的能力が「天才」であるということは主張されていないのかもしれないが。